東芝や中部電力、岩石を「蓄電池」に レアメタル不要に

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東芝子会社の東芝エネルギーシステムズ(東芝ESS、川崎市)や中部電力などは、天然の岩石に熱エネルギーを蓄えて必要時に取り出す「岩石蓄熱」と呼ぶ技術の商用化を目指す方針を明らかにした。熱しやすく冷めにくい特徴を持つ岩石を「自然の蓄電池」として使う。一体どんな技術なのか。

基本的な仕組みはこうだ。一時的に余剰になった再生可能エネルギーの電力などを熱エネルギーに変えて岩石に蓄える。これは電力を使って岩石を熱するということを意味する。そして、ここから放熱して熱エネルギーとして利用。電気として使う場合は、岩石が発する熱で水を温めて水蒸気を発生させて蒸気タービンと発電機を動かす。

東芝ESS、中電、特種東海製紙グループの新東海製紙(静岡県島田市)、島田市の4者が商用化に向けた技術実証を進めることで基本合意し、連携協定を結んだ。

島田市にある新東海製紙の工場に専用の機器を設置する。2026年度に実証試験を行い、27年度の商用化を目指す。設備に蓄えられる熱容量は電力量に換算して10メガ(メガは100万)ワット時で、約880世帯分の1日の電力使用量に当たる。4者によると、岩石蓄熱技術を用いるメガワット時級設備は国内初となる。

工場内の敷地に、高さ4メートル、横11メートル、奥行き4メートルの大きな直方体のタンクを据え付け、岩石を詰め込む。工場内で余った再生可能エネを受電し、岩石を熱する電気ヒーターを作動させる。約1時間で岩石の温度は常温からセ氏600度まで上がるという。

岩石蓄熱は、天然の岩石が備える「熱しやすく冷めにくい」という特徴を生かした技術だ。マグマが冷えて固まった火成岩、砂や火山灰と生物の遺骸などが風や水によって運ばれて積み重なった堆積岩などの中からそれぞれ1、2種類を選ぶ。国内各地で採取でき、ほぼ永続的に使えるという。島田市での実証では「地産地消できる岩石を使う」(東芝ESS担当者)予定だ。

そもそも、岩石は古来、人類が日常生活で使ってきた蓄熱材の一つだ。火で加熱した岩石の上で肉を焼いたり、温めた石で暖を取ったりしてきた。現代でも、石焼き芋づくりには文字通り石が欠かせないし、石窯でピザやパンが焼かれている。ブームが続くサウナでも、火成岩などが使われるサウナストーンに水をかけると熱い蒸気が発生し、体を温めてくれる。

東芝ESSの担当者は「一般的な蓄熱材にはレンガやコンクリートもあるが、コストや調達、使いやすさの観点から岩石を選んだ」と話す。蓄電池の代替になりうる岩石。リチウムイオン電池など既存の蓄電池と比べてどんな利点があるのか。

いくつか挙げてみると、第一に寿命が10〜15年とされる蓄電池に対して、「設備さえ維持できれば、岩石は永久に使える」(担当者)。第二に、世界で争奪戦になっている蓄電池の基幹材料、コバルトやニッケルなどのレアメタル(希少金属)を確保する必要もない。

第三に蓄電池ほどの広い敷地も要らない。蓄電池は通常、上に積み上げることはできないが、岩石は高く積み上げられる。このため、同じ容量の蓄電池に比べて4分の1以下の敷地面積で済む。これまでに挙げたような特徴からコストも抑えられ、「一般に蓄電池の半分程度のコストになるといわれている」(業界関係者)。

海外でも研究開発が進む。その一例である独シーメンスは複数の電力会社と提携し、19年に大規模実証プラントを稼働させた。米新興企業のロンド・エナジー(カリフォルニア州)は蓄熱にレンガを使うシステムの開発を進めている。

岩石蓄熱が注目されるようになったのはここ数年のことだ。国内外で再生可能エネの導入が拡大するが、天候によって発電量が変動するという課題がつきまとう。そこで、変動を抑えるバッファーとして需要が高まっているのが蓄電池だ。

だが、世界で生産競争が進む蓄電池は希少材料の確保が不可欠で、経済安全保障上の懸念もある。そこで、原材料を容易に入手できる岩石蓄熱がにわかに注目され始めたというわけだ。

ただし実用化に向けてハードルは残る。技術的に難しいのは、蓄熱した岩石から放熱するステップだ。蓄熱は比較的容易である一方、放熱では温度や圧力を一定に保つ必要があり、制御するのは難しい。

熱エネルギーを電気に変換する際の効率にも課題がある。変換時のロスは6〜7割に上るという。熱エネルギーのまま使えばロスはほとんど生じないため、コンビナートや温水プールなど電気へ変換せずに使える環境に向く。

熱容量が小さい場合の実証は終えているが、今回の実証試験で扱う熱容量はずっと規模が大きい。東芝ESSの担当者は「大型の案件でも制御できることを示して実用化につなげたい」と話す。自然の力を生かした新たなエネルギー技術に期待がかかる。

(日経ビジネス 中山玲子)

[日経ビジネス電子版 2024年12月19日付の記事を再構成]

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