訪露した習主席、米との接近試みるプーチン政権をけん制…「中国抜き」ウクライナ和平交渉に焦りか
【モスクワ=東慶一郎】ロシアを訪問中の中国の 習近平(シージンピン) 国家主席は8日、プーチン露大統領との約7か月ぶりの対面会談で中露の結束を再び打ち出した。習氏は今回の訪問で、ウクライナの和平交渉を機に米国との接近を試みるプーチン政権をけん制し、中国との関係の重要性を再認識させる狙いとみられる。
8日、モスクワで、中国の習近平国家主席(右端)と会談するロシアのプーチン大統領(左端)=ロイター露大統領府によると、両首脳は会談で、第2次世界大戦に「勝利」した共通の歴史認識を前面に打ち出した。習氏は、戦後80年の両国関係について「血と火で鍛えられた友情が、世代から世代へと受け継がれてきた」と述べ、揺るぎない結束をアピールした。プーチン氏は今回、習氏のために1対1形式を含む3回の首脳会談を準備しており、厚遇ぶりは際立つ。
ただ、中国側には中露関係への不安もある。
習氏は7日、露政府紙ロシア新聞への寄稿で「一時の出来事に惑わされず、中露の相互信頼を破壊するたくらみに共同で対抗する必要がある」と呼びかけた。盟友のロシアに対して引き締めを図るような異例の発信には、ウクライナ和平交渉が中国抜きで進められていることへの焦りがあるとみられる。
中国は、米欧の制裁下にあるロシアから原油や天然ガスを大量に輸入し、当初からロシアのウクライナ侵略を事実上支援してきた。ただ、表向きは「中立」の立場で、ウクライナ側にも配慮しつつ、対話による解決を訴えてきた。
ロシアは中国の役割には謝意を示すものの、対話にはかじを切らず、北朝鮮軍を参戦させて戦局を複雑にした。東アジアの不安定化を誘発しかねない露朝共闘の動きに対し、「中国は不快感を持っていた」(北京の外交筋)という。
【図解】ウクライナ問題での中国と各国・地域の構図そうした中、今年1月に就任したトランプ米大統領は露寄りの立場で和平交渉を推進し、プーチン氏の態度も軟化した。ウクライナ問題を機に米露間の雪解けが進めば、中国が置き去りにされる可能性もある。
中露の発表によると、習氏は今回の会談で、トランプ政権の関税政策を意味する「いじめ行為」という言葉を使って対米でロシアと足並みをそろえたい意向を示したが、プーチン氏は米国批判に踏み込まなかった。プーチン氏に理解を示すトランプ氏の反発を懸念した可能性がある。
中国は和平交渉に参加できないだけでなく、ウクライナ側から批判を浴びている。ウォロディミル・ゼレンスキー大統領は4月、戦闘中に中国人が拘束されたと公表し、「少なくとも数百人の中国人が露軍に参加している」と中国の「中立性」に疑問を投げかけた。
対米貿易問題で欧州との連携を探る中国としては、ウクライナとの関係悪化は避けたい考えだ。中国政府関係者は「中国はウクライナ問題で欧州側と協議を始めている」としており、米露主導の和平交渉への関与を模索するとみられる。