米経済が想像以上に持ちこたえれば「年内に様子見解除」=日銀7月会合主な意見
[東京 8日 ロイター] - 日銀が7月30─31日に開いた金融政策決定会合では、米国の高関税政策によってもなお、米経済が想像以上に持ちこたえるようであれば、日本経済への下押しも「軽微なものにとどまる」として、「早ければ年内にも様子見モードが解除できるかもしれない」との意見が出されていたことが明らかになった。物価について強気な見方も多く出されていた。
年内の「様子見モード」解除の可能性に言及した委員は、米関税政策の影響見極めには「少なくとも今後2―3カ月は必要だ」と述べていた。このほか、日米関税交渉の妥結に株式市場がポジティブな反応を示している中で「過度に慎重になって、利上げのタイミングを逸することにならないよう、留意する必要もある」との意見も出ていた。
半面、「急速な利上げは日本経済に大きなダメージを与える」として、「適時に利上げを進めることが、リスク・マネジメント上重要だ」とする意見も見られた。
<基調的な物価上昇率とコミュニケーション>
日銀はこれまで、基調的な物価上昇率の推移を利上げ判断の根拠の一つとしてきた。「主な意見」には、基調的な物価上昇率についての意見が多く掲載された。
ある委員は、基調的なインフレ率が2%を大きく下回っている間は、政策判断に当たって実際のインフレ率よりも基調を重視することになるが「基調が2%に近づくにつれ、実際のインフレ率も重視する度合いが徐々に高まっていく」と述べた。物価動向に関する対外コミュニケーションの中心を、基調的な物価上昇率から「物価の実績と見通し、需給ギャップや予想物価上昇率」に変えていくべき局面だとの主張もあった。
その一方で、基調的な物価上昇率を特定の数値で示すことは難しいが「中央銀行が金融政策を運営する上で大事な概念だ」との意見もあった。
コミュニケーション手法の転換の観点からは、インフレに伴い家計の生活実感が下押しされ、物価の上振れリスクを重視せざるを得ない局面にある中、「今や、物価目標の実現を見据えたコミュニケーションも念頭に置く段階に入った」との意見も出された。
植田和男総裁は決定会合後の記者会見で、基調的な物価上昇率に言及した際にサービス価格や家計・企業の予想物価上昇率などを挙げた上で、基調物価は「まだ2%に届いていない」との見解を示した。基調的な物価上昇率やコミュニケーションの在り方を巡る会合での議論が影響した可能性がある。
<物価に強気な見方多く>
ある委員は、金融政策運営を考える上で予想物価上昇率の今後が重要だと述べた。その上で「コメをはじめとする食料品やガソリンなどは、個人が価格水準を意識しやすく、値上がりを実感しやすいことから、予想物価上昇率を押し上げやすい」と述べた。
日銀は決定会合でまとめた「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)で、コメをはじめとする食料品価格の高騰を反映して2025年度の物価見通しを大幅に引き上げた。
「主な意見」では、物価に対する強気な見方が多く出ていた。ある委員は「物価水準がインフレ予想に影響し得るとの研究もあり、今後、コメ価格の前年比上昇率が鈍化してもインフレ実感が低下しない可能性もある」と指摘。「基調的な物価上昇率は、推計誤差等も踏まえると足元2%ぐらい」だが、物価の下振れリスクもある中で今後この水準で定着するかみていく必要があると述べた。
デフレ期とは異なり「最近では輸入物価の下落などの下押し方向の要因の影響はあまり広がりが見られず、逆に、一時的な物価上昇要因が大きく効くようになっている」との指摘もあった。
別の委員は、日米関税合意や企業の前向きな賃金・価格設定行動の維持、物価上振れを踏まえれば「見通し期間前半に物価目標実現と判断できる可能性は4月時点対比高まった」と指摘。2%を大きく上回るインフレが3年以上続く中、予想物価上昇率は2%程度に達しており「これがさらに上昇しないか懸念される」と語った。
参院選を踏まえ「今後の財政政策が、物価押し上げにつながらないかには十分注意する必要がある」との意見も見られた。
内閣府の出席者は、日本経済について、米国の通商政策等による影響が一部に見られるものの、緩やかに回復していると指摘。ただし「物価上昇の継続等を通じたリスクには十分注意が必要だ」と発言した。
私たちの行動規範:トムソン・ロイター「信頼の原則」, opens new tab