西は曇りで東は晴れ “鏡のように輝く”太陽系外惑星の新しい特徴が明らかに?

こちらは「ちょうこくしつ座(彫刻室座)」の方向約262光年先にある太陽系外惑星「LTT 9779 b」の、最新の研究成果を反映した想像図です。恒星に照らされている昼側の一部は夜側から回り込んできた明るい雲に覆われていて、残りの部分は雲がなく晴れ渡っている様子が描かれています。

【▲ 最新の研究成果を反映した太陽系外惑星「LTT 9779 b」の想像図(Credit: Benoit Gougeon, Université de Montréal)】

昼側の温度は約2000℃ 光をよく反射する岩石の雲が空を覆う

晴れ渡る……と書くとどこか爽やかな印象を受けるかもしれませんが、LTT 9779 bの環境は地球とは大きく異なります。LTT 9779 bの直径は地球の約4.7倍で、海王星の約1.2倍。質量は地球の約29.3倍で、海王星の約1.7倍です。主星である恒星「LTT 9779」の周りをわずか19時間ほどで1周する小さな公転軌道を周回していて、地球の月と同じように潮汐力によって自転と公転の周期が同期しているとみられています。

LTT 9779 bの永遠に照らされ続ける昼側の温度は約2000℃まで加熱されていて、雲の成分も水ではなく蒸発した岩石(ケイ酸塩鉱物)だと考えられています。これまでに行われた研究の結果、LTT 9779 bの雲は反射率が非常に高いことが知られていて、ESA=ヨーロッパ宇宙機関(欧州宇宙機関)などはその様子を鏡のようだと表現しています。

LTT 9779 bの昼側は西が曇りで東が晴れだった?

今回、モントリオール大学の博士課程学生Louis-Philippe Coulombeさんを筆頭とする研究チームは「ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(James Webb Space Telescope: JWST)」を使ってLTT 9779 bを詳しく観測しました。

地球から観測したLTT 9779 bは、まるで金星と同じように、主星に照らされている部分の見え方が公転にあわせて周期的に変化します。LTT 9779 bから放射された熱と反射された主星の光の両方を分析した結果、反射率は昼の西側のほうが高く、東側へ進むにつれて低くなっていくことを研究チームは見出しました。

この結果について、研究チームはLTT 9779 bの大気循環によって生じた雲のパターンを示していると考えています。LTT 9779 bには昼側を西から東へと流れる自転と同じ方向の気流があり、蒸発した岩石は気流に乗って昼の東側から夜側へと移動します。永遠の闇が続く夜側は昼側に比べて温度が低いため、岩石は凝縮して雲を形成します。雲は気流に運ばれて夜側を横断し、やがて昼の西側に現れます。雲は灼熱の昼側を西から東へ移動するうちに蒸発していくため、昼の西側は曇り、東側は晴れという違いが生じます。この違いこそ、LTT 9779 bの反射率が昼の西側と東側で異なる状態を作り出しているのではないか、というわけです。

これまでに5800個以上が見つかっている太陽系外惑星のなかでも、海王星に近いサイズと質量を持ちつつ主星の近くで高温に加熱されている惑星は「ホットネプチューン(hot Neptune)」と呼ばれています。ただ、木星に近いサイズと質量で高温に加熱された「ホットジュピター(hot Jupiter)」が数多く見つかっているのに対し、ホットネプチューンは発見例が少なく、その希少性は「ホットネプチューン砂漠(hot Neptune desert)」と表現されるほどです。

そんなホットネプチューンの貴重な一例として、LTT 9779 bは研究者から注目を集めている太陽系外惑星です。今回の研究成果は惑星の熱輸送と雲の形成に関するモデルの改良し、理論と観測のギャップを埋める上で役立つと期待されています。Coulombeさんは「これは惑星系の多様性を示す証拠であり、極端な条件下で惑星がどのように進化するのかを知るための貴重な手がかりとなります」とコメントしています。

なお、研究に参加したオックスフォード大学のJake Taylorさんによると、研究チームは「ハッブル宇宙望遠鏡(Hubble Space Telescope: HST)」やESO=ヨーロッパ南天天文台の「VLT(Very Large Telescope=超大型望遠鏡)」の観測データを用いて昼側の雲の構造をより詳しく調べているということです。LTT 9779 bのさらなる特徴が明らかになる日も遠くないかもしれません!

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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