BYD、新型「シーライオン6」発表会 搭載する最新プラットフォーム技術や今後の展望とは?

BYDがシーライオン6導入発表会を実施した

 BYD Auto Japanは12月1日、PHEV(プラグインハイブリッド)SUV「シーライオン6」の発売に合わせて発表会を都内で実施した。

 登壇したBYD Auto Japan 代表取締役社長である東福寺厚樹氏は、BYD Japanとして5番目の日本導入モデルで、初のプラグインハイブリッドモデル「シーライオン6」について、前輪駆動モデルの「シーライオン6」が398万2000円、4輪駆動モデルの「SEALION 6 AWD」が448万8000円。また納車は、前輪駆動モデルが2026年1月末ごろ、4輪駆動モデルは2026年3月ごろの予定であると紹介。

新型PHEV(プラグインハイブリッド)SUVモデル「シーライオン6」

 続けてBYDのブランドビジョン「地球の温度を1℃下げる」という考えのもと、BYDがどのような思いで、どのようなプロセスで研究開発を進めているか? シーライオン6やシステムの特徴、今後の販売戦略を説明するためにこの場を設けたと説明した。

BYD Auto Japan株式会社 代表取締役社長 東福寺厚樹氏

 BYD Auto Japan 商品企画部の新道学部長は、日本市場のボディタイプ別販売台数に触れ、2018年ごろからSUVが年々伸長している状況に加え、SUVのBEV(バッテリ電気自動車)とPHEVの比率は4%~5%と、自動車全体では1%~2%なのに対して比率が高く、各社が投入しているSUVモデルの効果が如実に表れていると紹介しつつ、BYDはシーライオン6の投入で、もっとも比率の高いHEV(ハイブリッド)マーケットへ挑むと説明。

日本市場のボディタイプ別販売台数
日本市場のSUVにおけるパワートレーン種別販売台数

 またBYDは、2008年に世界で初めて量産のPHEVを発売したメーカーであり、これまでにグローバルで740万台、90以上の国と地域で販売してきた実績があるとアピール。

 そしてシーライオン6は、高効率ガソリンエンジンとBYD独自のハイブリッドシステム「DM-i スーパーハイブリッド」による圧倒的な低燃費。モーター走行を主軸とした電動走行による静粛性。電動走行による優れたパフォーマンスが大きな特徴といい、市街地、高速道路などシーンに合わせて最適なモードを選択して走行できるのが特徴となる。

BYD独自のハイブリッドシステム「DM-i スーパーハイブリッド」
走行シーンを選ばず、常に最適なモードを選択して走行してくれる

 エクステリアデザインは、BYDの十八番である「海洋」シリーズの哲学を継承し、リアの横一文字に走る「オーシャンスターテールライト」は、海と空をつなぐ銀河を想起させつつ、一体感を付与する意匠を採用したという。

ヘッドライトには「ウォータードロップ」の意匠が施されている
エクステリアデザインは「海洋」シリーズの哲学を継承

 ルーフには前部分が開閉可能なサンルーフを搭載するほか、ラゲッジスペースは後席使用時で425L、後席格納時は1440Lまで拡張できる。ホイールはFWD、4WDともにブラックのアルミホイールを採用。タイヤサイズは235/50R19となる。

 充電はCHAdeMOの急速充電と普通充電に対応し、メインバッテリを電源とするV2L、ソーラー発電などと連携できるV2Hにも対応すると紹介。

BYD Auto Japan株式会社 商品企画 部長 新道学氏

 室内は、ブラックを基調にブラウンのアクセントやアンビエントライトを採用。センターコンソールにはミニマムで物理スイッチを配置するなど、直感的な操作を重視した「オーシャンハート・コンソール」というコンセプトで設計している。また、フロントシートはパワーシート採用とともにシートヒーターとシートベンチレーションを装備。後席は5段階のリクライニングを完備し、長いホイールベースによって大きな空間を実現したという。

 15.6インチのタッチディスプレイと12.3インチのメータークラスターを装備するほか、「はい、BYD」と呼びかけると音声コントロールでエアコンの操作や窓の開閉などさまざまな操作を可能としている。オーディオも専用の「Infinityオーディオシステム」を採用している。

 続いて、BYDが開発するプラグイン・ハイブリッド・システムである「DM(Dual Mode)」について、シーライオン6の発表会に合わせて来日したDM開発責任者の魯超氏が登壇。

今回の発表ために来日したというBYD株式会社 自動車新技術研究院 DMシステム開発責任者 魯超氏

 DMの主な柱は「モーターが主役」のパワートレーン方式、徹底した「熱マネジメント」、E/E(Electrical/Electronic=電気/電子)アーキテクチャの3つで、シーライオン6はPHEV専用高効率エンジン、12Vリン酸鉄始動バッテリ、EHSシステム、PHEV専用ブレードバッテリを搭載する「DM-i スーパーハイブリッド」により、高性能で高い走行体験を実現させたという。

DM-i スーパーハイブリッド

 1.5リッターのPHEV専用高効率エンジンは、新たな冷却方式を開発したことでシリンダー内の温度管理を徹底でき、その結果、圧縮比15.5を達成しつつ、最高出力72kW、最大トルク122Nm、熱効率43.04%を達成。

 シリーズパラレル方式の電動ハイブリッドシステム「EHS」は2種類あり、小型~中型向けの132(最高出力132kW、最大トルク300Nm)と、中型~大型向けの145(最高出力145kW、最大トルク300Nm)を設定。2008年の第1世代から全方位的に改良され、体積は30%低減、重量も30%軽量化を実現している。なおモーターの最高回転数は1万5000rpmを誇るという。

PHEV専用1.5リッターエンジンの進化
高効率パワートレーンEHS

 DM-i専用の高出力ブレードバッテリは、従来のモジュール設計を1から見直し、空間利用率を65%高めたことでさらなる効率化を実現。最大250kmの航続走行距離を実現しつつ、高剛性の高い安全性と長寿命を実現した。また冬場の始動時の弱点となる加熱システムは、従来の液体加熱から、パルス式自己加熱方式を新たに開発。昇温速度を60%も向上させたという。さらに電池セルを直接冷却する方式を開発し、熱交換率は従来比で約20%改善したとしている。

DM-i専用高出力ブレードバッテリ概要
新世代パルス自己加熱バッテリを新たに開発
中国発の直冷方式を採用したバッテリ熱マネジメント

 またBYDは、新たにリン酸鉄リチウム(LFP)の補機バッテリの量産化にも成功。リン酸鉄リチウムバッテリは、従来の鉛バッテリに比べ、寿命が長く(約15年)、自己放電が少なく、充放電効率は高く、重金属も使用しないことから、軽くて汚染リスクも少ないのが特徴。

 そしてプラットフォームはDM-iのほかにも「DM-p」「DM-o」「e 3 」「e 4 」などもあり、ソフト・ハード両面での完全自社開発体制を確立している。

DM-pのpはパワフルの意味。電動4WDプラットフォームで0-100km/h加速は5秒以内を実現。またFWDと4WDを自動で制御して常に最適な状態を維持する
DM-oのoはオフロードの意味。オフロード専用に開発したプラットフォームで、45度の極限登坂性能や、悪路脱出能力、高い牽引性能を両立する
e3プラットフォームはBEVとPHEVともに使える構造で、0-100km/h加速は3秒台という。リアモーターは最高回転数2万1000rpmを達成するほか、後輪には舵を切るためのモーターも搭載するという

 発表会後にはモータージャーナリストの清水和夫氏をゲストに招き、特別講演とパネルディスカッションを実施。清水氏は特別講演で、いわゆる「電動車」というキーワードについて触れ、「電動車=BEV」という印象を持っている人が多いほか、実際に●V~を電動車と呼ぶかの決まりもないことが原因であると持論を展開。

モータージャーナリストの清水和夫氏

 また、グローバルでは規制やインフラの成熟度、技術の違いなどもあり、BEV、PHEV、MHEV(マイルドハイブリッド)、HEV、FCEV(燃料電池車)など、多様化しながら電動化が進んでいくとした。エネルギーの回収についても、運動エネルギーや位置エネルギー、熱エネルギーなどをよりうまく回収できるようになる技術も重要だし、電気にしても水素にしても、そのエネルギー自体がどのように作られたのかを知ることも大切だと説明。パワートレーンは、どれが正解ではなく、使う人のライフスタイルに“どれが合うのか”がポイントになるとした。

パネルディスカッションの様子

 パネルディスカッションでは清水和夫氏がモデレーターを務め、東福寺社長と魯氏が参加。東福寺社長は、日本は自動車販売で世界4位、まだまだBEVやPHEVは少ないが、そこが逆に伸ばす余地があると考えていて、今後もBYD JapanとしてはBEVとPHEVの両輪で進めていくと説明。また、シーライオン6の競合としては、三菱自動車の「アウトランダーPHEV」やトヨタの「RAV4 PHEV」「ハリアーPHEV」が、ユーザー層が近そうで参考にしたと明かした。

 魯氏からは、BYDにとって日本の自動車産業は“師”にあたる存在だし、とても重要なマーケットと考えているし、実際に20年以上前から(バスなど)参入していると説明。

 清水氏も、京都や幕張や自宅近くの東急バスなど、日本各地でBYDのBEVバスを見かける機会がとても増えているし、自動運転の実証実験などにも使用されていると補足。

BYD株式会社 自動車新技術研究院 DMシステム開発責任者 魯超氏

 続けて魯氏は、これまで経営戦略や商品企画についてもたくさん学んできたし、トヨタの小さなモーターで効率のいいアーキテクチャや、ホンダの構造がコンパクトなアーキテクチャ、日産のシンプルなe-POWERも研究し、それぞれの強みを学んだと開発過程を振り返った。同時に自社のシステムは、大きなバッテリでも小さなバッテリでも組み合わせられるようにしていて、AセグメントからCセグメントまで対応できるのが特徴と説明した。日本のほかにもASEAN(アジア諸国)も、まだ市場は小さいが展望があると期待を示した。

 加えて、圧縮比15.5、熱効率43.04%のエンジンについて魯氏は、当初ノッキング問題に頭を抱えたが、シリンダーヘッドとシリンダーブロックを別々に冷却する方法を開発し、大きく改善できたと紹介。また、高速でのエンジン振動の抑制については、始動時に中間行を使うことや、スピーカーからエンジンの騒音を消す周波数の音を出すアクティブノイズコントロールという技術を採用し、車室内へ入るノイズを低減したと解説した。

 今後他メーカーとの協業の可能性について聞かれた魯氏は、中国国内であればすべてを自社で担う垂直統合のほうが理想的だと考えているが、グローバル戦略で考えた場合は、現地のサプライチェーンのほうがコスト面で優れ、現地のニーズに対応できるのであれば、協業することも排除はしないと言及。

 そのほかにも、中国では昨年はPHEVの販売が鈍化したが、充電インフラ整備の遅れが原因で、今年は整備が進み、自宅の近くも1個しかなかった充電ポイントが3つに増え、今は充電で並ぶこともなくなったと中国事情を紹介した。

最後に記念撮影をして発表会は幕を閉じた

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