眠った永峰咲希と、眠れなかった2人の男 5年ぶり復活優勝の裏話
◇国内女子◇資生堂・JAL レディスオープン 最終日(6日)◇戸塚CC西C(神奈川)◇6766yd(パー72)
5年ぶりの優勝が懸かる最終日の前夜、永峰咲希はよく眠った。酷暑の中を3日間戦い抜き、少しでも体力を回復する必要があったから。決戦の朝、当の本人をよそに周りが赤い目をしている。目澤秀憲コーチと、夫の田野聖和(せいわ)さん。緊張でよく寝られなかったらしい。
2020年の春から目澤コーチに指導を仰ぐ。歩みを振り返り、目澤コーチは「5年間、きょうまでずっと苦しかった。本人が一番、苦しかったんじゃないかな」と吐露した。
最大の課題はショットだった。元はフェードヒッターだったが、プロの世界で戦うには飛距離が必要で、テレビや雑誌から知識を得てドローを習得した。しかし、見よう見まねでは限界がある。2020-21年シーズンのフェアウェイキープ率は60.5%で全体74位。行き詰まった時に頼ったのが目澤コーチだった。
では球筋を戻せばいいかというと、話はそう単純ではない。年々飛ばし屋が増えるツアーで、身体も大きくない永峰は、ドローしかないと感じていた。目澤コーチは「プロゴルファーをやっていたら、ドローをフェードにすることって血を流しているのと一緒」と言う。
意思を固めたのは1年前のこと。腰痛を抱え、自信を持ってスイングができなくなっていた永峰に、「身体の特徴やスイングの癖を考えたときに、フェードが良いんじゃないか」と目澤コーチから提案があった。昨年8月「北海道meijiカップ」で試してみると、いきなり視界が開けるような感触だった。
永峰は「(目澤コーチが)この当たりならフェードでも飛ぶんだよと話をしてくれて、だったら…と。初心に帰るじゃないですけど、ジュニアの時にやってきたものを引っ張り出してきた感じ」と振り返る。原点回帰からおよそ1年、努力は最高の形で結実した。
教え子の努力を見続けてきた目澤コーチは言う。「咲希ちゃんは一つひとつを消化して、自信を深めていくタイプ。この5年間、弱音もはかず、彼女がチームを引っ張ってくれていた。僕はそれに応えたかった」。長い苦難の時期を一丸となって乗り越えた。「30歳でキャリアハイを迎えられていることが、彼女の努力の証し」と声を震わせた。
対して、夫の聖和さんと永峰は家でほとんどゴルフの話をしないという。2人は宮崎日大高1年時からの同級生で、教室の席が隣だったことがきっかけで交際をスタート。2021年の交際10年目の記念日(12月19日)に結婚した。「主人はゴルフすっごい下手なので。主人のゴルフの話をするくらい。ラウンドに行って“112”とか言うから、何があったのって」と笑う。
トロフィーを持って夫婦で写真を撮ることは、聖和さんの夢だった。「けさは4時に起きて、普段は行かないジムに行っていた。『写真撮る準備してる! 仕上げてる!』って(笑)」。2ショット撮影時にそわそわする夫が面白かった。
「元々付き合いが長かったから、結婚してどうというのはない。でも、今まではホテルを転々とする生活だった。ゆっくりする場所ができたかな」。結婚して4年、生涯忘れられない思い出が、また一つ増えた。(横浜市旭区/合田拓斗)