SNSで蔓延「自然療法」に潜む致命的なリスクとは…現役小児科医が示す"自然派"がぐうの音もでない事実(2025年3月27日)|BIGLOBEニュース

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SNSでは、薬や医療に頼らない「自然療法」「自然なお手当て」が人気だ。小児科医の森戸やすみさんは「体に害のない範囲で補助的に使うのであればいいが、医療を忌避することにつながると、病気の早期発見や治療が遅れてしまうリスクがある」という——。写真=iStock.com/fcafotodigital※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fcafotodigital

■米国保健福祉長官は「自然派」

今、アメリカで麻疹患者が急増中です。早くから「MMRワクチン(麻疹、風疹、おたふく風邪の3種混合ワクチン)」の2回接種を導入してきたアメリカは、早くも2000年に麻疹の根絶宣言をしました。ところが、2024年に285人、2025年は3月21日までに309人もの麻疹感染者が報告されて死亡者も出ています。異常事態です。

ところが、アメリカの保健福祉長官であるロバート・ケネディ・ジュニア氏は「めずらしいことではない。はしかの流行は毎年発生している」とコメントしました。これはひどい事実誤認で、アメリカで麻疹による死者が出たのは2015年以来で10年ぶり。感染者数も、この10年間で最大規模です。またヨーロッパや中央アジアでも麻疹感染者が増えていて、昨年は12万7000人を超え、1997年以降で最多となりました。ユニセフは集団感染が起きている国々に対して、ワクチンの集団接種を行うなどの緊急対応をするよう呼びかけているほどなのです(※1)。

このケネディ氏は以前から「反ワクチン論者」として有名であり、「自然であること」や「オーガニック」を好む人物として知られています。麻疹の治療に関しても、ケネディ氏は、ビタミンA、タラの肝油、ステロイド、抗菌薬のクラリスロマイシンが効果的だという発言をしました。これも間違いです。ビタミンAや、ビタミンAとDが豊富な肝油は、それぞれが欠乏している場合にだけ効果があります。抗菌薬はウイルスには効きません。ステロイドは炎症を抑える作用はあるものの対症療法です。

麻疹は感染力も死亡率も高く、大変恐ろしい感染症です。そのうえ対症療法しかありませんから、ワクチンで予防することが何より大切なのです。CNNは「はしか感染拡大、ケネディ米保健長官はワクチンではなくビタミンA重視 SNSの誤情報に懸念」というタイトルで記事を出し、懸念を表明しました(※2)。

※1 UNICEF「欧州・中央アジア、はしか感染急増、12万7350件と過去25年で最多 ユニセフら緊急対策を呼び掛け」※2 CNN「はしか感染拡大、ケネディ米保健長官はワクチンではなくビタミンA重視 SNSの誤情報に懸念

■自然なもので手当てをしたい気持ち

コロナ禍を経験した私たちは、普通の風邪と違って自然治癒を待つだけでは命に関わる感染症があること、普段の生活の中で免疫力を上げて感染を防止することには限界があることを身をもって知りました。

それでも、子どもが体調不良に陥ったときに「できるだけ自然なもので手当てをしたい」「なるべく医療や薬には頼りたくない」という保護者は少なくありません。その気持ちもわかりますが、Instagram(インスタグラム)やX(エックス)などのSNS投稿を見ていると、例えば高熱が出た子どもにキャベツを帽子のようにかぶせるといいとか、発熱時に顔が赤くなるのは自然なことだから顔が青くなるまで家で様子を見て大丈夫などといった根拠不明な情報が多数出てきます。どれも医学的に正しくありません。

先日は、子どもの咳を鎮める方法として「アルミホイルを絆創膏で中指に巻く」「玉ネギの断面を嗅がせる」ことが紹介されているのを見ました。もちろん、効果はありません。それどころか前者の場合、特に小さい子はアルミ箔を誤飲する可能性があって危険です。後者の場合、ただでさえ咳が出ている子どもの目や鼻の粘膜を玉ネギの硫化アリルが刺激し、涙や鼻水がひどくなるのでやめてください。そのほか皮膚に食品を塗る方法もありましたが、アレルギーのリスクがあるのでよくありません。

SNSで知った方法を実践してみてもいいのですが、それは効果は不確かなものの害はなさそうな場合だけ。「自然」に見える治療法で害が出たり、医療機関にかかるのが遅れたりしたら、それは治療法ではなく、ただの「やってはいけないこと」です。

■食事で病気の治療はできない

一方、食材や食事によって、病気などの予防や治療ができるという説もありますが、あまりいいことではありません。実際に何かを食べるだけで病気の予防や治療はできませんし、必要な治療が受けられなくなるリスクがあるためです。

例えば、SNSのXでは、ASD(自閉スペクトラム症・アスペルガー症候群)、ADHD(注意欠陥・多動性障害)の症状が落ち着くという「食材の早見表」が投稿されていましたが、生まれつきの特性が食べ物で変わることはありません。

医薬品や治療法の場合、「効果がある」と主張するには、症例と対照例を比べてリスク要因に差が出ないといけません。「ブロッコリーは、目の痛み・乾燥、イライラに効果がある」と言うためには、そういった症状のある人とない人、その食品をとった場合ととらない場合を比べて統計学的に差が出る必要があります。

健康のために「旬の食べ物を食べよう」だったらまったく問題ないのですが、「○○に効果がある」というのは言いすぎです。同じ早見表でも、病名や障害名をつけたほうが「表示数」が伸びるので、あえてつけているのでしょう。

■ホメオパシーやアロマのリスク

なるべく自然なもので、自分が治してあげたいという思いから、ホメオパシーを選択する人もいます。ホメオパシーは、ドイツ人の医師・ハーネマンが始め、1700年代後半に発展しました。病気の原因物質を10の60乗も希釈して振った水を含ませた砂糖玉「レメディー」で病気を治すとしていますが、それほどまで希釈を繰り返すと元の物質はなくなり、ただの水です。それが病気を治すというのは科学的にあり得ません。

海外では、歯の生え初めの不快感をなくすレメディーに有毒物質・ベラドンナが含まれていたり、液体ホメオパシー製品にアルコールが含まれていた例もあります(※3)。また日本では、Instagramに「子どもが溶連菌感染症になったけれど抗菌薬を飲ませたくない」という保護者にレメディーをすすめているアカウントがありました。溶連菌感染症に抗菌薬を使用しないと急性腎炎などの合併症が起こるかもしれないので危険です。また以前には、ビタミンKの代わりにレメディーを与えられた乳児が亡くなった例もあります(※4)。ホメオパシーと標準医療の併用ならかまいませんが、標準医療の代わりにホメオパシーを行うのはやめてください。

写真=iStock.com/botamochi※写真はイメージです - 写真=iStock.com/botamochi

そのほかアロマオイルやエッセンシャルオイルのほうが、薬よりも優れていると考える人もいます。前述のように、医薬品や治療法のようにケースコントロールスタディなどは行われていませんから、効果も安全性も不明です。SNSには体に塗ったり、食品に加えたり、そのまま飲んだりすることをすすめる投稿さえあります。そのアロマオイルは皮膚や粘膜に塗って大丈夫でしょうか。一部のものは希釈すれば塗ることができるようですが、使用前に必ず確認してください。また、通常アロマオイルは食品ではなく雑貨なので飲食できません。口にする前に、食品添加物として許可を受けているかどうか調べましょう。

※3 厚生労働省 eJIM「ホメオパシー Homeopathy」※4 日本医学会 「『ホメオパシー』への対応について

■サプリメントが安全とは限らない

では、市販されているサプリメントだったら食品ではありますし、薬より体にやさしくて安全なのでしょうか。子ども向けでも「身長が伸びる」「視力改善」「免疫力アップ」といった効果があるかのように誤認させる商品がとても多いですね。

サプリメントには行政上の定義がなく、「健康の保持増進に資する食品全般」と考えられています(※5)。食品だから安全性が高いだろうと誤解する人が多いですが、成分検査において医薬品ほどの厳格さはありません。2024年に小林製薬の紅麹のサプリメントを摂取したあとに健康被害が出たり、亡くなったりした人がたくさん出たことが報道されました。多数の被害者が出たのは、機能性表示食品には医薬品と違って、健康被害が出た時点で速やかに報告する義務がなかったことも一因です。

外来診療をしていて「子どもにサプリメントを飲ませているんですけど、薬との飲み合わせは大丈夫ですか?」と聞かれることがありますが、どんな成分が入っているのか説明できない保護者も少なくありません。目的や内容がわからないまま、錠剤やカプセル形状のものを与えるのは危険です。過剰症になる心配もありますし、思わぬ健康被害を起こすことがありますから、しっかり確認しましょう(※6)。

そして、例えば極端な偏食でビタミンやミネラルなどの投与が必要な場合、低身長や免疫不全などの診断がある場合は、効果と安全性の確かな医薬品を健康保険で使うことができます。ぜひ小児科医に相談してください。

※5 厚生労働省「健康食品やサプリメントの名称について」※6 厚生労働省 eJIM「小児および10代の若者のサプリメント利用について知っておくべき10のこと

写真=iStock.com/shironagasukujira※写真はイメージです - 写真=iStock.com/shironagasukujira

■原始人が長生きできなかったワケ

よく見る「自然療法」「自然なお手当て」のほとんどは、まったく科学的ではなく、仕組みが説明できないものばかり。まるで、おまじないのようです。何かをしたあとに病気が治ると、それが治したのだと誤解することはよくあること。例えば、子どもの患者さんが「うちの2階でお水を飲んだら目が痛いのが治ったの」と教えてくれたことがありましたが、何かしたあとに治っても因果関係があるとはいえません。

そもそも、何が「自然」なのか、何が「体にやさしい」のかは、とても恣意的なものです。SNSなどで情報を得るのは自然で、薬を飲むのは不自然でしょうか。工場で作られた包丁で調理をすることは自然で、安全性と効果が確認された医薬品や食品添加物は不自然なのでしょうか。

以前、私のブログで、あるネットミームを紹介したことがあります。洞窟にいる原始人のような二人が会話している絵の下に「何かがおかしい。空気は清浄だし、水はピュア、運動は十分しているし、食べるものはすべてオーガニックや放し飼い。なのに誰も30歳以上、生きないんだ」というコメントが付けられたものです。

ヒトは自然に抗って、よりよい生活を得て、数々の病気を克服してきました。だから、平均寿命も健康寿命も延びたのです。大切なお子さんには、ぜひ「自然」や「体にやさしい」といったイメージだけではなく、本当に効果があって科学的に安全性が確認されているものを使ってあげてください。何の病気なのかわからないとき、つらそうなときは、早めに医療機関にかかりましょう。

----------森戸 やすみ(もりと・やすみ)小児科専門医

1971年、東京生まれ。一般小児科、NICU(新生児特定集中治療室)などを経て、現在は東京都内で開業。医療者と非医療者の架け橋となる記事や本を書いていきたいと思っている。『新装版 小児科医ママの「育児の不安」解決BOOK』『小児科医ママとパパのやさしい予防接種BOOK』など著書多数。

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