「ビッグバン」は万物の始まりではなく重力崩壊で形成された巨大ブラックホール内の跳ね返りの結果という新説
イギリス・ポーツマス大学の宇宙論・重力研究所教授であるエンリケ・ガスタニャガ氏がビッグバンについて、「重力崩壊によって巨大ブラックホールが形成され、その後、ブラックホール内で跳ね返りがあった結果である」という、新たな見解を示しました。
What if the Big Bang wasn’t the beginning? Our research suggests it may have taken place inside a black hole
https://theconversation.com/what-if-the-big-bang-wasnt-the-beginning-our-research-suggests-it-may-have-taken-place-inside-a-black-hole-258010 ガスタニャガ氏は、ビッグバン宇宙論では宇宙の始まりがビッグバン、つまり物理法則の破綻するような無限密度の点から始まるという部分について、「単なる技術的な問題ではなく、我々が『始まり』を実際にはまったく理解していないことを示唆する根深い理論的問題です」と指摘しています。このビッグバン宇宙論の問題を解決するため、宇宙誕生のごく初期に指数関数的な膨脹期(インフレーション膨脹)があったというインフレーション理論が導入され、さらに、加速膨脹の説明のために「ダークエネルギー」が導入されています。
しかし、こうした説明の付け方について、ガスタニャガ氏は「直接観測したことのない新しい要素によってのみ、標準宇宙モデルはうまく機能している」と表現。こうした問題を解決するため、外側ではなく内側に目を向けるという異なる角度からの取り組みを行ったと語りました。ガスタニャガ氏と同僚の手がけた査読前論文はPhysical Review D誌に掲載されています。
Gravitational bounce from the quantum exclusion principle | Phys. Rev. D
https://journals.aps.org/prd/abstract/10.1103/PhysRevD.111.103537ガスタニャガ氏らは、「膨張した宇宙の起源は何なのか」ではなく、「過度に高密度な物質の集合体が重力により崩壊した時何が起きるか」を考えていったとのこと。星が崩壊してブラックホールを形成することがあるというのは知られていますが、事象の地平線の向こう側にあるブラックホール内部で何が起こるのかはまだ謎に包まれています。 「ペンローズ・ホーキングの特異点定理」により、一般的な条件下では重力崩壊が必ず特異点をもたらすことが示されていますが、あくまで定理は古典物理学に依拠しているということで、ガスタニャガ氏らは論文で、重力崩壊が必ずしも特異点で終わるわけではないことを示しました。ガスタニャガ氏らの研究結果では、潜在的特異点に近づくにつれて、宇宙の大きさは宇宙時間の双曲線的関数として変化することになります。 ガスタニャガ氏は「この単純な数学的解は、崩壊しつつある物質の塊が、どのようにして高密度状態になり、その後、外側に跳ね返り、新たな膨脹段階に入るかを説明しています」と述べました。 なお、「ペンローズ・ホーキングの特異点定理」がこのような結果を禁じていることについて、ガスタニャガ氏は2つ以上のフェルミ粒子は同一の量子状態を占めることはありえないという「パウリの排他原理」に起因すると説明。一方、ガスタニャガ氏は「パウリの排他原理」によって「崩壊する物質の粒子の無限収縮が防がれる」ことが示され、結果として崩壊は止まって反転するので、「跳ね返りは可能というだけではなく、適切な条件下では必然です」と語っています。 ガスタニャガ氏の提唱する「ブラックホール宇宙論」では、観測可能な宇宙はより大きな「親」宇宙で形成されたブラックホールの内部に位置するものと考えられます。 ガスタニャガ氏は「我々は、無から有が生まれるのを目の当たりにしているのではなく、重力、量子力学、そしてそれらの間の深い相互関係によって形作られる宇宙のサイクルが続いていくのを見守っているのです」と述べました。
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