【毎日書評】なぜ、仕事は「キリよく終えてはいけない」のか?その答えは行動経済学にあり

行動経済学とは、心理学と経済学を組み合わせることによって、人間の不合理な行動の謎を解き明かす学問。

世界は行動経済学でできている』(橋本之克 著、アスコム)の著者が指摘しているように、その理論はビジネスやマーケティングの場で、「人々を(企画などにとって)都合のよい方向に誘導するため」に活用されています。

私たちは、「自分の意思で物事を決定し、最適な行動をしている」と思いがち。ところが実際は、そのときの状況や感情、売り手側の巧妙な仕掛けなどさまざまなバイアスに左右され、無意識のうちに誘導されているのです。

行動経済学を学び、人間の思考のクセや行動パターンについて知ることは、そんな「無意識に誘導されてしまう」状況から脱し、自分にとってより「正しく」「最適な」選択や決定ができるようになることにつながるわけです。(「はじめに」より)

とはいえ、「行動経済学の理論は知っていても、それを実生活や仕事にどう活用したらいいのかわからない」という方もいらっしゃるかもしれません。

そのため本書では、「具体的な行動経済学の使い方を伝える」こと、そして「おもしろく、わかりやすく行動経済学を学べる」ことを重視しているのだそうです。

ちなみに著者は、広告会社とシンクタンクで30年以上にわたって生活者の心理分析や購買促進を行ってきたという人物。つまりここでは、そんななかで得た経験をフル活用しているわけです。

本書は、「とにかく個人が生活や仕事の中で行動経済学を使えるようになること」がテーマですので、事務職の方でも、総務や経理を担当されている方でも、仕事をしていなくても、学生でも、どんな人でも役に立つ内容となっています。(「はじめに」より)

きょうは第3章「『怠惰な自分』を最適化する方法」のなかから、「仕事を「キリのいいところ」で終わらせてはいけない理由(エンダウド・プログレス効果)」をご紹介したいと思います。

「キリのいいところまでやった」という状態は、達成感や開放感につながるもの。

ところが、そんな「スッキリ感」が翌日や休憩後の再スタートを阻んでしまう可能性があるのだそうです。

その結果、「やる気が出ない」「集中モードに切り替えられない」ということになってしまうかもしれないということ。

だとすれば解決策を知りたいところですが、そのためのヒントは行動経済学、具体的には「エンダウド・プログレス効果」にあるのだとか。

「エンダウド・プログレス効果」とは、ゴールに向かって少しでも前進したと感じた結果、モチベーションが高まり、さらに進み続けたくなる心理。

より具体的に理解するために、本項で紹介されている実験を確認してみましょう。南カリフォルニア大学のジョセフ・C・ヌネスらが、一般の洗車場を使って行ったものです。

来場者は、1回の利用で1つのスタンプがもらえます。そこで、次の2種類のスタンプカードのどちらかを、それぞれ150人に配布したのだそうです。

A 8個スタンプが貯まれば1回洗車無料になるカード

B 10個スタンプが貯まれば1回洗車無料になるカード(ただし、事前にスタンプが2個押してある)

(235ページより)

つまりAもBも、1回分の洗車無料を獲得するまでの回数は同じ8回。その後3カ月間で、最後までスタンプを集めた人の割合は、Aが19%だったのに対しBは34%と、明らかな違いが生まれたのだといいます。スタート時にスタンプが2個押してあるだけで、集める意欲が高まったわけです。

実質的に同じ得点であっても、あらかじめスタンプが押してあることで、顧客は「スタンプが2個も無料でもらえた」という感情を抱きます。

これは「ポジティブエフェクト」が働いたということで、そのために「スタンプを集めよう=利用し続けよう」という意欲が高まるのです。すなわちこれが、「エンダウド・プログレス効果」。(234ページより)

継続させるカギは「次回」を匂わせること

「エンダウド・プログレス効果」はさまざまな場面で、「初期の行動を勢いづける」ために活用できるようです。

たとえば仕事Aと仕事Bをやらなければいけない場合は、仕事Aが終わってスッキリした気分で休みをとるのではなく、5分だけでも仕事Bに取りかかってから休憩するべき。

そうすれば、まったくのゼロ状態から仕事Bを始めるよりもモチベーションが高まり、スムーズに仕事に取り組めるというのです。

この方法は、1日の終わりにも使えます。

明日すべき仕事に少しだけ取りかかっておくことによって、翌日の朝、スムーズなスタートダッシュを決められます。(239ページより)

次の仕事に取りかかるのが難しい場合は、次回やるべきことを「タスクメモ」的にまとめておくだけでもOK。あるいは最低限、次の仕事を把握しておくだけでも違いが出るようです。

この方法は仕事以外、たとえばジムや英会話などの習い事でも使えるそう。

だんだん腰が重くなり、いつの間にか通うのをやめてしまった、という状態を防ぐためには、その日のレッスンが終わるときに次回の予約をしておくのです。(240ページより)

そんなシンプルなことが次回の行動へとつながり、継続のモチベーションを高めてくれるということです。(239ページより)

行動経済学の知識を得て実践していくことで、私たちはより賢い生活者になることが可能だと著者は述べています。

また、よりよい選択や行動ができるようになることは、人生を思いどおりに歩んでいくことにもつながるそう。だからこそ本書を参考にしながら、ぜひとも行動経済学を学んでおきたいものです。

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Source: アスコム

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