「今の仕事にやりがいを感じない」「もっと条件の良い会社に転職したい」 そう思いながらも、「せっかく長年勤めてきたのだから」「上司からも頼りにされているし」と、なんだかんだ同じ仕事をつづけていませんか? 思い切って転職すれば、もっと自分に合った仕事ができて、収入も上がるかもしれないのにーー。 あるいは、ビジネスの現場で、開発費用や時間をつぎ込んで作った新商品。 売行きがわるくても、開発コストを考えると「なんとしてでも売らなくては」と、さらに広告費をかけてしまった。 早々に販売休止した方が、よっぽど赤字を抑えられたのにーー。 このように、「ここで辞めたらもったいない」「なんとか元を取らないと」と執着し、冷静な判断ができなくなってしまう心理を、行動経済学では「サンクコスト効果」と呼びます。 サンクコストとは、すでにかけてしまったコスト=お金・時間・労力のこと。 サンクコスト効果は、仕事、人間関係、そして恋愛でも、執着を生み、私たちの判断を狂わせます。 そして、大きな損失や失敗につながっていく恐ろしいものです。 今回は、昼は経済レポーターとして上場企業の社長たちを取材し、夜は銀座ホステスとしてトップクラスのビジネスパーソンを接客してきた私が、現場で学んだ「執着することの恐ろしさ」についてお話しします。ビジネスマンのあなたの気づきに少しでもつなげていただければ幸いです。
執着心でお客様を失うホステス
夜の世界では、サンクコスト効果が働くと、一瞬にしてお客様を失ってしまいます。 「このお客様にはこんなに連絡に手間をかけたのだから、たくさんお金を使っていただかないと」 そんな風に執着しはじめると、必死さがお客様に伝わって、まず失敗します。 たくさん営業メールをしたからと言って、全員が理想的なお客様として返ってくるわけではありません。 営業は、網引き漁のようなもの。 大きな網を広げれば、網目をするりと抜けて逃げていく小魚もたくさんいます。逃げた小魚たちに目を光らせ、気にしていたらキリがありません。網にかかった大きめの魚たちに目をやれば、全体としてはちゃんと結果が返ってきていることがわかるものです。 お客様一人ひとりに対して結果を求めずに、全体で考えると心が楽になり、余裕をもって接客できて、売上も自然と上がっていきます。 「このお客様には誕生日プレゼントをあげたのだから、私のバースデーイベントにも必ず来てくれるはず」 こうした期待も執着のひとつです。 特に夜のお客様は流れが激しいもの。どんなにお客様の誕生日をお祝いしても、自分の誕生日にはタイミングが合わず、来ていただけないことは当たり前にあります。 そんなときに、自分はプレゼントをあげたのだからとこだわって、「バースデーイベント、来られますか?」としつこく連絡してしまったら、お客様は圧を感じ、本当に関係が切れてしまいます。 「仕方ないか。またそのうちお客様のタイミングで来てくださったらいいかな」 そのくらい大きな心構えでいた方が、お客様も心地よく感じ、長続きします。 お返しは期待しすぎない―。夜の世界に限らず、昼間のビジネスや人間関係すべてにおいて大切なことではないかと思っています。