死にゆく星が作り出した“宇宙の蝶”「バタフライ星雲」をジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が観測

こちらは、惑星状星雲「NGC 6302」の中心部。

画像の作成には、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)と、アルマ望遠鏡(ALMA)の観測データが使用されました。

中心の死にゆく恒星を取り囲む複雑な構造が、繊細に捉えられています。

【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とアルマ望遠鏡(ALMA)が観測した惑星状星雲「NGC 6302」の中心部(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, M. Matsuura, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), N. Hirano, M. Zamani (ESA/Webb))】

さそり座の方向、約3400光年先にあるNGC 6302は、その形から「バタフライ星雲(Butterfly Nebula)」とも呼ばれています。

最初の画像では蝶には見えないかもしれませんが、ハッブル宇宙望遠鏡(HST)の観測データを使って作成された次の画像を見れば、その連想にも納得できるのではないでしょうか。

【▲ ハッブル宇宙望遠鏡(HST)が観測した惑星状星雲「NGC 6302」(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, K. Noll, J. Kastner, M. Zamani (ESA/Webb))】【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とアルマ望遠鏡(ALMA)が観測した惑星状星雲「NGC 6302」の中心部(右)と、その観測範囲をハッブル宇宙望遠鏡(HST)の可視光線(左)と赤外線(中央)の画像で示した図(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, M. Matsuura, J. Kastner, K. Noll, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), N. Hirano, J. Kastner, M. Zamani (ESA/Webb))】

惑星状星雲とは、超新星爆発を起こさない比較的軽い恒星(質量は太陽の約0.8倍~8倍)が、恒星進化の最終段階で周囲に形成する天体です。発見当初は惑星のように見えたことから今も「惑星状」と呼ばれていますが、実際には無関係の天体です。

太陽のような恒星が晩年を迎えると主系列星から赤色巨星に進化し、外層から周囲へとガスや塵(ダスト)を放出するようになります。やがて、ガスを失った星が赤色巨星から白色矮星へと移り変わる段階(中心星)になると、放出されたガスが星から放射された紫外線によって電離して光を放ち、惑星状星雲として観測されるようになります。

宇宙の長い歴史に比べれば惑星状星雲は短期間しか存在せず、2万年ほどしか続かないとされています。

中心星の位置特定やPAH検出などでジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が活躍

【▲ ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡(JWST)とアルマ望遠鏡(ALMA)が観測した惑星状星雲「NGC 6302」の中心部、英語注釈付き。右上と左下に流れていくジェットをはじめ、中心星を囲むゆがんだトーラスやバブルといった構造が詳細に捉えられている(Credit: ESA/Webb, NASA & CSA, M. Matsuura, ALMA (ESO/NAOJ/NRAO), N. Hirano, M. Zamani (ESA/Webb))】

ESA=ヨーロッパ宇宙機関によると、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の「中間赤外線観測装置(MIRI)」を使用した観測によって、NGC 6302の中心星の位置が特定されました。

中心星の温度は約22万℃という高温で、これまで検出されたことがなかった周囲の塵の雲を加熱し、MIRIが得意とする中間赤外線の波長で明るく輝かせています。NGC 6302の中心星は塵に覆われているため可視光線では観測できず、塵の向こう側を見通せる赤外線でも従来の観測装置では感度と解像度が不足していたため、正確な位置はわかっていませんでした。

また、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡の観測データは、中心星を取り囲むトーラス(ドーナツ状の構造)が結晶質・非晶質のケイ酸塩や、不規則な形の塵粒子で構成されていることを示しています。塵の大きさは宇宙塵としては大きな1μm程度であり、長い時間をかけて成長してきたことがうかがえます。

さらに、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡はPAH=多環芳香族炭化水素(ベンゼン環を2つ以上持つ化合物の総称)から放射された赤外線も捉えました。PAHは中心星が吹かせる星風の“泡”が、周囲のガスに突入することで形成されたと予想されています。

NGC 6302でのPAHの検出は、酸素が豊富な惑星状星雲でPAHが生成されることを示す初めての証拠になる可能性があり、こうした分子の形成プロセスを詳しく理解するための重要な手がかりになるかもしれないと注目されています。

冒頭の画像はESAから2025年8月27日付で公開されています。

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

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