英国で異例のタコ豊漁、海洋生態系を脅かす-水温は記録的上昇

英国の一部漁師は今シーズン、タコの大漁に沸いている。だが、これは記録的な水温上昇で海洋生態系が脅かされていることの裏返しでもある。

  今春は北大西洋に高気圧が停滞し、西からの冷たい風や海洋深層の低温水を混合させる海流を遮ったため、既に異常に暖かかった水温の上昇が加速したと、アイルランド気象庁の気候学者であるポール・ムーア氏は説明した。

  英国の気象庁によると、5月のアイルランド西方の海面水温は例年を4度上回り、英国周辺では最大2.5度高く観測史上最高を記録した。

  こうした水温は、タコには適している。だが、生態系の一部が変化すれば、連鎖的な効果が及ぶ。タコの急増により、タコが捕食する貝類は減少した。

  英仏海峡に面するイングランド南西部ブリクサムを拠点に水産会社を営むニール・ワトソン氏は、今のところ恩恵を受けている側の1人だ。

  「捕獲用のかごを開けると、タコと、それが食べた大量の貝の破片が詰まっている」とワトソン氏。5月27日だけで同氏の漁船が水揚げしたタコは48トンと、前年比240倍に上ったという。「こんなことは過去になかった」と語った。

  タコのほか、クラゲやスズキなども水温上昇で数を増やしている。一方で、英国の代表的な食べ物である「フィッシュ・アンド・チップス」に使われることが多いタラのような魚は犠牲になっている。さらに重要なのは、海の食物連鎖の基盤であるプランクトンに影響が及んでいることだと、英環境・漁業・水産養殖科学センター(CEFAS)の上級海洋科学者、ゲオルク・エンゲルハルト氏は警鐘を鳴らす。

  最近は不順な天候が続き、気圧が下がって海水温も一時に比べて低下したが、それでも例年より高い状態が続いていると、ムーア氏は指摘。8月の夏のピークに向けて海洋熱波が悪化する可能性が増しているとの見方を示した。

  「向こう数カ月でちょっとした要因があれば、水温はまた上昇する」と同氏は述べた。

  夏にかけては、今年の記録的な気温の高さや日照り、風力発電量の落ち込みをもたらした高気圧の再来も予測されている。こうした気象パターンが地球温暖化と相まって海水温を押し上げ、海洋熱波を深刻化させている。

  豊漁のタコに欧州から好条件での注文も入ったワトソン氏だが、漁業に対する長期的な打撃を懸念している。

  CEFASのエンゲルハルト氏によると、海水温の上昇で魚類の生息パターンが変わりつつあり、タコの卵や幼生の生存率は上がっている。だが、貝類の個体数は減少し、海に不均等な影響を及ぼしている。

  「極めて前例がないと言うだけだ」と同氏は指摘した。

  海洋熱波は海洋生物の「勝者」と「敗者」に関係なく脅威をもたらす。藻類を大量発生させて海中の酸素が消費し尽くされ、大量の魚が死ぬ「デッドゾーン(死の海域)」を生み出しかねない。毒素や病原体の発生も促され、害は人間の健康に及び得る。

  「海水浴に行くビーチや、人間が食べるカキやムール貝などに影響が出るだろう」とエンゲルハルト氏は語った。

原題:Octopus Invasion in English Channel Shows Risks From Warming Sea(抜粋)

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