不同意性交等罪が「美人局」に利用されている?"法の欠陥"の実態…1000万円で示談も

性的な行為を伴うような男女間のトラブルが生じた際、結果として捜査機関が「美人局の手段」に利用されているのではないか──。刑事事件に長く取り組んできた弁護士が、自身の経験を踏まえて、そうした懸念を口にする。(弁護士ドットコムニュース編集部・塚田賢慎)

琉球新報(12月6日配信のネット記事)によると、示談金名目で150万円を要求し、現金5万円を脅しとったとして、デリバリーヘルス(派遣型の性的サービス)従業員の女性が恐喝の疑いで逮捕される事件があった。

記事によると、沖縄県那覇市のホテルでのサービス終了後、女性は「不同意で性交された。警察に訴えたら捕まるよ」などと告げ、金銭を要求したという。

また、弁護士ドットコムニュースは、デリヘルを利用した男性が、不同意性交等罪で逮捕されたケースを今年報じている。

男性の妻によると、夫はサービス中に「金銭を伴う本番行為」を持ちかけられ、これを断ったところ、女性から警察に通報されたという。男性は10日にわたり勾留され、高額な示談金を支払って釈放された。

妻は「悪質な性風俗店によるハニートラップや美人局の被害だ」と主張している。

男女間のトラブルは密室で発生しやすく、「同意」の有無を客観的に確認することは、捜査機関にとっても容易ではない。

刑法改正で導入された不同意性交等罪(刑法177条)は、被害者が「同意しない意思を形成し、表明し若しくは全うすることが困難な状態」にあった場合に成立する。

法改正では、アルコールの影響など、8つの具体的な要件が例示され、従来の強制性交等罪の「暴行・脅迫」要件(被害者の反抗を著しく困難にする程度のもの)から、処罰範囲の明確化が図られた。

性暴力の被害を受けながら、立証の壁に阻まれて泣き寝入りせざるを得なかった被害者を救うために実現した改正である。一方で、審議の過程では、構成要件が拡大することへの懸念も指摘されていた。

「その懸念が、実際のものになりつつあるのでは」

こう語るのは、北海道で刑事弁護に長年携わってきた中村憲昭弁護士だ。中村弁護士は、いわゆる「美人局」が疑われる事案に接してきたという。

1年以上前に担当した事件では、知人宅を訪れた男性が、知人の留守中に交際相手の女性と性交に及んだ後、数日して不同意性交等罪で逮捕された。

男性が相当な高額所得者であることを、その知人は知っていた。

「鍵が開いているから入っていて」と言われて訪れた部屋には女性一人がいた。後に「同意はなかった」と被害届を出された。

示談交渉は、交際相手と称する知人男性が窓口となった。結局男性は、1000万円近い慰謝料を支払わざるを得なくなった。

今年、札幌弁護士会の電話相談でも「出会い系サイトで出会った女性とホテルに行ったら、不同意性交等罪で警察沙汰になっている」という相談が複数寄せられたという。

こうした手口が、特定の地域で共有されているのではないかと中村弁護士は懸念を示す。

数年前には、路上で声をかけた女性とトラブルになった会社経営者のケースもあった。いわゆるナンパで、性的な行為はなかったにもかかわらず、100万円の示談金を支払って和解した。女性はスマホで動画を撮影していたという。

「金銭請求の交渉に現れた女性の知人や代理人の顔ぶれが、風俗業界でよく知られた存在だったこともあったほか、ほかの弁護士からも同様の話が伝わっており、一定のノウハウが広まっているのではと感じています」(中村弁護士)

●「一発実刑」の恐怖…闘える男性はほとんどいない

不同意性交等罪で被害を申告された場合、疑いをかけられた側の選択肢は、現実的にはきわめて限られるという。

「密室の行為は、合意だったのか、後から翻意して被害を訴えているのかを区別するのは警察でも難しい。疑われた側が相手の主張を覆すほどの証拠を起訴前に入手することは、ほぼ不可能です」

北海道警察本部(はっさく / PIXTA)

強制性交等罪以降の法定刑の下限は5年。起訴されて有罪となれば、原則として執行猶予のつかない実刑となる。

従来の強姦罪は3年で、執行猶予もつく可能性があった。

「しかし現在では、起訴されて有罪となれば即実刑となる可能性が高く、被疑者にとっては相当な重圧となります。弁護人としては依頼者の説明が合理的で、勝ち筋が見える事案だと思っても、依頼者の多くは裁判を争おうとは考えず、和解を望むのが現実です」

実際、過去に、ホステスとアフターでホテルに行き、後から「強姦」(当時)の被害にあったと訴えられた男性は「報道されると、経営する会社がつぶれる。早期に和解してくれ」として、1000万円以上支払って示談したという。

「だからこそ、結果的に捜査機関が『美人局』を後押ししているように見えてしまうのです」

●犯罪に利用されているなら「問題ではないか」

中村弁護士は、性被害に遭った女性の相談を受けることがあり、女性の尊厳を踏みにじるような事件も目の当たりにしてきた。それだけに「改正前に時間を巻き戻すべきではない」と考えている。

「それでも半グレと思われるような属性の人たちのシノギに使われているのであれば、法の欠陥と言わざるを得ないのではないでしょうか」

知人の交際相手に手を出したことや、配偶者の存在がありながらホステスと関係を持つことなど、不用意な行動や倫理的に非難される余地があるケースもあるだろう。

前者は、女性が恐喝のおとりとして使われたともいえるケースで、女性が被害者であることは紛れもない事実だ。

「しかし、それでも犯罪と非犯罪との区別は可能な限り客観的であるべきだし、刑事罰の威嚇により本来果たすべき民事上の責任以上の賠償を被疑者が負わせられるのは相当ではない。法律が反社会的勢力のシノギに用いられるのはもってのほかだ」と中村弁護士は指摘する。

「後から女性の言動一つで、実刑を伴う重罰に直結するのはあまりに乱暴すぎます。同意なき性交渉が許されないのは当然ですが、犯罪行為の境目には、もっとわかりやすいラインを引いてほしいと感じます」(中村弁護士)

不同意性交等罪の改正には、施行から5年後に「同意の位置付け」などを見直す附帯決議がついている。

捜査機関に申告できる被害者はわずかで、周囲にも相談できず、泣き寝入りする人は少なくない。だが、美人局の被害も、警察に相談できない「暗数」が多いのではないかと中村弁護士は指摘する。

中村弁護士が担当した事件に「性風俗サービス」を舞台としたものはなかったが、仮に風俗業界でこうした事件が広がれば「業態全体の信頼を損なう。それは種籾を食っているようなものだ」と警鐘を鳴らしている。

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