“孤立しやすさ”は遺伝子も関係あるか? 日本人6万人のゲノム解析 東北大などがNature系列誌で発表:Innovative Tech
2019年にスタートした本連載「Innovative Tech」は、世界中の幅広い分野から最先端の研究論文を独自視点で厳選、解説する。執筆は研究論文メディア「Seamless」(シームレス)を主宰し、日課として数多くの論文に目を通す山下氏が担当。イラストや漫画は、同メディア所属のアーティスト・おね氏が手掛けている。X:@shiropen2
東北大学や京都大学、岩手医科大学に所属する研究者らがNature Translational Psychiatryで発表した論文「Genome-wide association study of social isolation in 63,497 Japanese individuals from the general population」は、日本の一般住民6万人以上のデータを解析し、社会的孤立に関与する遺伝的特徴を東アジアで初めて明らかにした研究報告だ。
研究では、気分の落ち込みとしての主観的な寂しさや孤独感ではなく、実際に人と会う・話す・支え合うといった行動をする親族や友人が何人いるかなど実際のつながりを測定する。
具体的には、家族や友人に関する6つの簡単な質問から社会的孤立を計測する6項目の質問票「 Lubben Social Network Scale」(LSNS-6)を用いる。これには、月に1回以上やりとりする親族や友人は何人いるかや、困ったときに気軽に相談できる相手や頼れる相手が何人いるかなどが含まれる。
実験では、平均年齢59歳の6万3497人(東北メディカル・メガバンク計画による日本人一般住民のデータ基盤)を対象に、LSNS-6で数値化し、その情報と数百万か所に及ぶ遺伝情報を統計的に照らし合わせるゲノムワイド関連解析を実施した。
解析の結果、社会的孤立のなりやすさには生まれつきの遺伝的な個人差が関与している可能性を示した。具体的には、家族と友人を合わせた全体のつながりの欠如にはACADSBやHMX3といった遺伝子の近傍領域が関連し、友人のつながりの欠如にはLINC02315やLRFN5といった遺伝子の近傍領域が関連していることが判明した。
これらの遺伝子は、脳の形成過程や神経系の発達、シナプスの機能維持など、脳や神経系の働きに関与することが知られている。このことは、人との関わりにおける行動の土台となる脳の働きが、孤立のしやすさに部分的に影響を与えている可能性を示唆している。また、家族とのつながりと友人とのつながりにおいて、関連する遺伝的要因が異なる点も重要な示唆だ。
一方、この研究において推定された遺伝の寄与率は、全体のつながりで約4%、家族のつながりで約2%、友人のつながりで約4%にとどまった。すなわち、社会的孤立の大部分は遺伝以外の環境要因や社会的背景によって説明されるものであり、今回の発見は遺伝子が人間関係を一意的に決定づけることを意味するわけではない。
あくまで、環境要因が強く作用する前提のもと、個人差が生じる背景の一部に生物学的な要因も重なっていることを示したものだ。
Source: Ohseto, H., Inoue, K., Takahashi, I. et al. Genome-wide association study of social isolation in 63,497 Japanese individuals from the general population. Transl Psychiatry(2026). https://doi.org/10.1038/s41398-026-03896-9
- がんになれば“アルツハイマー病”になりにくい……一体なぜ? マウスで検証 中国チームが発表 中国の華中科技大学に所属する研究者らは、がんとアルツハイマー病の逆相関関係の分子メカニズムを解明した研究報告を発表した。
- 老化したヒト細胞を若返らせる「スイッチ」を見つけるシステム 米国チームが開発 マウスが3週間で8カ月若返り 米カリフォルニア大学サンフランシスコ校に所属する研究者らは、老化した細胞を若返らせる「スイッチ」を発見するシステムを開発した研究報告を発表した。
- “図書館の本が多い街”ほど要介護者が少ない──図書館と高齢者の関係、京大と慶大が調査 7万人以上を対象 京都大学と慶應義塾大学に所属する研究者らは3月、日本の公共図書館とその街に住む高齢者の機能障害リスクの関係を調査した研究報告を発表した。
- 「お母さんには言わないで」──ChatGPTが自殺方法を指南→16歳の子供が死去 両親がOpenAIを提訴 ChatGPTを「最も信頼できる相手」として心の問題などを相談していた米カリフォルニア州の16歳の少年が、自らの命を絶った。両親によるOpenAIへの訴状には、ChatGPTが自殺の手助けをするに至ったやりとりが克明に記されている。
- “太陽系外生命”の有力な証拠 英ケンブリッジ大学などが発見 「人類は宇宙で孤独なのか?」 英ケンブリッジ大学や米宇宙望遠鏡科学研究所などに所属する研究者らは、太陽系外の惑星において生命活動の可能性を示す有望な兆候を検出した研究報告を発表した。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
続きを読むには、コメントの利用規約に同意し「アイティメディアID」および「ITmedia NEWS アンカーデスクマガジン」の登録が必要です