宇宙最大の謎「ダークマター」、ついに「見えた」か…東大教授が発見 「正体を突き止めた」可能性
銀河を結びつけ、我々の周囲に満ちているとされる不可視の物質、ダークマター。暗黒物質とも呼ばれるこの存在は約100年前にスイスの天文学者フリッツ・ツビッキーによって提唱されたが、その正体は長らく謎に包まれてきた。 【写真】100年以上の時を経て、ついに観測されたダークマターの姿 ダークマターは光を吸収せず、反射も放出もしないため、直接観測したりその正体を理解したりするのは極めて困難だ。ある理論によれば、ダークマターは「弱く相互作用する質量のある粒子(WIMP)」であり、陽子よりも重い一方、他の物質との相互作用は非常に弱いとされる。 しかし、このWIMP同士が衝突すると、対消滅を起こし、ガンマ線の光子などの粒子を放出するという。 研究者たちは長年、この現象を手掛かりにダークマターを明らかにしようとしてきた。天の川銀河の中心などのダークマターが集中していると予測される領域を観測し、特徴的なガンマ線の信号を探してきたのだ。 そしてついに、東京大学の研究者たちが、フェルミ・ガンマ線宇宙望遠鏡の最新データの中に、ダークマターの証拠と思われるものを発見した。 東京大学大学院理学系研究科の戸谷友則教授(天文学)は「これまでにも多くの研究がフェルミ衛星(NASAが運用している宇宙からの高エネルギーガンマ線を観測するための人工衛星)のデータを使ってダークマターの探索を試みてきた。今回の研究が成功した鍵は、銀河中心から離れた、これまでほとんど注目されてこなかった『ハロー』(銀河の中心から銀河全体を包み込むように球状または楕円状に広がる、星間物質や球状星団がまばらに分布している領域)に着目したこと、そして15年にわたり蓄積されたデータを用いたことだ」と本誌に語った。
「我々は、フォトンエネルギー(光を構成する粒子、光子(フォトン)が持つエネルギー)が20ギガ電子ボルト(1電子ボルトは、1個の電子が1ボルトの電位差で得るエネルギーを指す。200億電子ボルトは、極めて大きなエネルギー)に達するガンマ線を検出した。このガンマ線は天の川銀河の中心に向かってハロー状に広がる構造を持っており、放射分布は(理論上予測されていた)ダークマターハローの形状と非常によく似ていた」と戸谷は言う。 「もしこれが正しければ、人類は初めてダークマターを『見た』ことになる。そして、このダークマターは現在の素粒子物理学の標準模型には含まれていない、新たな粒子ということになる。天文学と物理学における大きな前進だ」 戸谷によると、観測されたガンマ線の強度から推定されるWIMPの対消滅の頻度も、理論的な予測の範囲内に収まっている。 さらに、観測されたガンマ線は、他の一般的な天体現象や放射によって簡単には説明がつかないため、今回のデータがダークマターによるガンマ線放出の可能性が高いと考えている。 「もしこの発見が正しければ、ダークマターの正体がWIMPであることを突き止めたことになる。宇宙論における最大の謎のひとつに答えを示すことができる」と戸谷は語る。 「素粒子物理学の標準模型に含まれていない新たな素粒子の発見を意味するだけでなく、基礎物理学における重大な進展をも意味する」 しかし、この成果は他の研究者による独立した解析によって検証されなければならず、これがダークマターであるかどうかはさらなる証拠が必要だ。 「これが真にダークマターであると確信するには、同じスペクトルのガンマ線が、たとえば矮小銀河といった他の領域からも検出されることが必要だ」と戸谷は本誌に説明した。 「フェルミ衛星や、CTAOのような地上の大型ガンマ線望遠鏡によるデータのさらなる蓄積が極めて重要になる」
ハンナ・ミリントン