【山田祥平のRe:config.sys】iPhoneと写真をやり取りできるようになって肩身がちょっと広くなったAndroid

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 iPhoneとAndroidスマホでは、所有率と通信量でねじれ現象が起きているという。所有率はAndroidが優勢と言ってもそれはわずかでほぼ1:1というのが最新の調査結果だ。そして今、両陣営がデータを共有する方法が1つ増えた。

 iPhone同士ではAirDrop、Android同士ではQuick Shareがデバイス同士のピア・ツー・ピアでデータを共有するもっとも簡易な方法だ。写真に限らず、今見ているサイトのURLなどを共有するのも簡単だ。iOSとAndroidで一般的な共有方法が異なるのは、AirDropとQuick Shareでは相互のやり取りができなかったからだ。

 ところが、先立って(2025年11月21日)GoogleがQuick ShareをAppleのAirDropに対応させると発表した。Pixel 10シリーズから対応が始まり、今後ほかのAndroid端末に拡大していくという。

 実際の使い勝手として、既知の相手と情報を共有するためには、相手の連絡先はいろいろと分かっている。SNSのダイレクトメッセージを使ったりすればそれで済むので、相互の互換性がなくても、それほど困ることはなかった。

だが、見知らぬ相手と一時的に情報を共有するときに不便を感じることは多かった。ノートに走り書きしてビリッと破って手渡すようなイメージの情報共有は難しかった。

 Quick ShareはもともとSamsung(Galaxy)独自の機能だった。GoogleはGoogleでNearby Shareと呼ばれる機能を提供していた。Galaxyでは、Quick ShareもNearby Shareも両方が使えたので、二刀流の共有手段を持っていたということになる。だが、そのことがエンドユーザーを混乱させてもいた。

 ところが、2024年1月に、GoogleとSamsungがAndroidの情報共有標準規格を統一することを発表、このときに「Nearby Share」が廃止され、ブランド名としてSamsungの「Quick Share」が採用されたのだ。機能や性能については両者の優れた部分を共有するかたちで再構築されたという。

 Samsung発祥の技術が、Android全体の標準になり、そして今回はiPhoneともつながるようになったわけだ。手元のGeminiによれば「『Samsung生まれ、Google育ち、iPhoneとも友達』という全スマホ共通のユニバーサルな規格へと出世した」ということなのだそうだ。

 肌感覚で情報を共有したい未知の相手は、iPhoneを使っている可能性は高く「エアドロであげる、もらう」ができるようになったのはうれしい限りだ。

 AirDropとQuick Shareは、技術的には似ているが双方は異なる方法だ。どちらもBluetooth LEで相手を見つけて、Wi-Fiでデータを送るのだが、そのWi-Fiベースのトラフィックで、AirDropはAWDL(Apple Wireless Direct Link)というApple独自の技術を使い、Quick Shareは標準規格のWi-Fi Directを使っている。

 今回は、AppleのAWDLをGoogleがリバースエンジニアリングで解析したということらしい。このことについてはGoogleのセキュリティブログで「Android クイックシェアの AirDrop サポート: クロスプラットフォームのファイル共有への安全なアプローチ」として発表されている。

 ここで、別のデバイスから無線プロトコルを介して送信されたデータを受信して解析するためにRust言語を使ったことが公表されている。このブログの中で、Googleは今回の実装をGoogleが主語の「our implementation」と表現していることから、独自実装であり、Appleとの共同開発ではないことが分かる。

 現在の相互共有実装はAirDropの「全員に10分間(Everyone for 10 minutes)」モードでの連携だ。Googleでは、この実装は第一歩に過ぎず、将来的には「連絡先のみ(Contacts Only)」のサポートをAppleと共同で実現できる機会を歓迎したいとしている。

 つまり、「連絡先のみ」を実現するには、Appleのサーバー認証による電話番号やメールアドレスの照合が必要だが、現時点ではそれができない。だから、フルコンパチにするためには、どうしてもAppleとの協業が必要となり、それをGoogleは期待しているということでもある。

 今回の相互接続は、「長年存在した『OSの壁』がついに崩壊した」とまで言われているようだ。

 EUのデジタル市場法がAppleに対して相互運用性の確保を命令した結果として、AppleはWi-Fi Awareのサポートを開始している。これは、サードパーティ製のアプリ同士がiPhoneとAndroidの間で直接通信ができるようにするための開放措置だ。Wi-Fi Awareで相手を探し、Wi-Fi Directで送るのがQuick Shareの基本手順だ。探すのにWi-Fi Awareを使うのは圧倒的な省電力を実現できるからだ。

 今回のGoogleは、独自のインプリメントでAWDL互換を果たしている。転送時、Android相手の場合はWi-Fi Directを、iPhone相手の場合はAWDLを使う。なぜならAppleがAirDropでサポートするプロトコルがAWDLのみだからだ。AppleはAWDLで「探す」と「送る」の両方をシームレスに実現している。だから、どうしてもそうするしかなかった。

 すでに「AirDropではBluetooth LEで発見して、AWDL転送する」という仕組みを説明したが、発見のプロセスは2段階あり、相手のアイコンが画面に出る瞬間からAWDLが使われる。Bluetooth LEがビーコンを出し、その呼びかけに反応するのにはAWDLを使う。つまり、相手を発見して許可を待つ時点でAWDLで通信が行なわれているということになる。だからこそ、GoogleはリバースエンジニアリングでAWDLのプロトコルを解析する必要があったわけだ。

 サードパーティはiPhoneアプリとAndroidアプリ相互の情報共有でWi-Fi Awareを使えるようになったが、Apple自身はそれを強いられるわけではない。将来的にAppleがAirDropでWi-Fi Awareのサポートを開始するようなことがあれば、それこそが、本当の意味での壁崩壊ということになるんじゃないか。

 蛇足かもしれないが、AirDropは送りたいオブジェクトを選んでからAirDropを選ぶ。先にAirDropを選ぶのは受け取る場合だけだ。Androidでは、先に送りたいオブジェクトを選んでもいいし、先にQuick Shareを選んでもいい。順序はどちらでもいい。ただ先にQuick Shareを選べるのは写真などのファイルオブジェクトの送信時に限定されるようだ。このあたりの違いも興味深いが、それはまた今度。

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