新「Mac mini」と「Mac Studio」を分析する ローカルAIで変わる位置付け
8月25日、アップルは「Mac mini」と「Mac Studio」を刷新した。
Mac miniには、新しいプロセッサーである「M6」と「M5 Pro」を搭載したモデルが用意され、Mac Studioも「M5 Max」と「M5 Ultra」という新プロセッサーを搭載している。
アップルが秋の発表会の前に製品を発表することは珍しい。おそらく、秋の発表会で取り上げるべきプロダクトが多い、もしくは1つのプロダクトに時間をかけたいという意図があり、先に発表してもよい製品を発表しておきたかったのだろう。もちろん、9月9日(米国時間)に行なわれる発表会に対して注目を集める意図もありそうだ。
では、新しいMac miniやMac Studioはどのような位置付けにあるのだろうか?
デザインは変わっていないが、その位置付けは少し変わっている。その理由、そして新しいプロセッサーの狙いを考えてみよう。
まず、Mac miniとMac Studioがどのように生まれた製品かを振り返ってみたい。
Mac miniが生まれたのは2005年のこと。すでに20年の歴史がある。最初のモデルはプロセッサーにPowerPCを使っており、2006年発売モデルからインテルプロセッサーに移行し、2020年にはAppleシリコンへ移行した。
当初のモデルは光学ドライブを搭載しており、今多くの人が思い出す「小型でシンプルなハードウェア」になったのは2011年モデルから。2024年に発売されたモデルでは特に小型化され、話題を集めた。以下の写真は、筆者が私物として2024年発売モデルを購入した時に撮影した写真だ。Magic Trackpadよりも小さい。
2005年にMac miniが発売されたとき、当時のアップルCEOであるスティーブ・ジョブズ氏は、プレゼンの中で「BYODKM」というキーワードを使った。「Bring Your Own Display, Keyboard and Mouse」、つまり「ディスプレイ、キーボード、マウスは自分のものを」という意味だ。
Mac miniは小型でシンプルなMacだが、それに加え、「キーボードやマウスが付属しない」ということが特徴だ。その点は今も変わっていない。もともとの思想としては、すでにWindowsを持っている消費者に「自分のキーボードやマウスをそのまま使ってください」とアピールし、低コストかつ身軽に併用を……という流れだったのである。
現在でいう「ミニPC」的な流れであり、この基本思想は今も変わっていない。
性能面で見れば、Mac miniはハイエンドではない。最も廉価なモデルであれば、Macの中でも比較的手に入れやすい製品と言える。
現状のPC/Mac市場はノート型が中心であり、特に日本では、出荷されるPCの9割がノート型だ。そういう意味では、「キーボードなどが付属しないデスクトップ型」は少々特殊な存在ではある。だが、少なくとも最も安価なモデルについては、そこまで特別なMacではない。
2024年に販売されたモデルは94,800円からで、今年のモデルは149,800円から。ドルだと599ドルからだったものが899ドルとこちらも値上げ幅は大きいものの、日本円の場合、さらに高くなったように感じるのは事実だ。
この2年間で、メモリーとストレージの価格が劇的に変わった。2024年モデルについても、今年6月に134,800円へと値上げされたばかりだ。そこからさらに値上げし、価格的には厳しくなっている。
それに対してMac Studioは、Mac miniの性能強化版として生まれたところがある。プロニーズでは「高性能なデスクトップ型」が必要になる。しかし、Appleシリコンへの移行以降、拡張性を備えた「Mac Pro」の位置付けは縮小が続いた。
その上で、Mac miniよりもグラフィック性能が高く、CGや動画制作などに携わるプロに向けた「ノート型でないハイエンド」とし、Mac miniを大型化したような製品として登場したのがMac Studio……というところだろうか。
今期のMac miniについては、通常のPCとは違うニーズが生まれている。
それは「動かし続けるPC」という存在だ。
AIサービスの拡大により、関連する作業を常に動かしたいというニーズは増えている。昨年末から今年前半にかけては「OpenClaw」のような専用アプリが注目を浴びた。一時期は、OpenClawを使うためにMac miniが売れている……という話があったほどだ。
OpenClawのようなものだけでなく、ChatGPT(Codex)やClaudeも、PCの中で動き続け、アプリを作ったり、文書を処理したりする「エージェンティックAI動作」を活用するニーズが生まれている。
以下は、6月に撮影した、Perplexityによるデモの様子だ。MacをPerplexityが代わりに操作し、それをスマホから操作する。こういった使い方は、どのAIサービスでも採用され、広がっている。
十分な性能があり、AIと相性が良く、そこそこ低価格で消費電力も低く、動作音もほとんどしない。
こうした特性を持つPCは意外と少ない。そういう意味でMac miniはぴったりな存在だ。
だから売れている部分があるが、その点は「マス向け」というほど一般的な使い方ではないだろう。とはいえ、「日常的に使うPCのほかに、常時AIやストレージのために動き続けるPC」を求める人は、意外と多いのが実情だ。筆者もMac miniを、そのように使っている。
アップルとしても、Mac miniの売れ方の変化に合わせてメッセージを変えてきており、それが「常時稼働のエージェント型コンピューティング」というキーワードになる。
ではその中で、新製品で搭載されたM6はどんな役割を果たすのだろうか?
実はこの点は、M6搭載製品とM5 Pro搭載製品、M5 Max/M5 Ultraを搭載したMac Studioでは明確に異なる部分がある。
数字でわかるように、M6は、Appleシリコンとしては最新のものだ。CPUコア、GPUコア、そしてAI用のNeural Engineまで刷新されている。製造プロセスには最新のTSMCの2nmプロセスを採用している。
一方でM5 Pro、M5 Max、M5 Ultraは、最新のプロセッサーではあるがCPU・GPUコアの世代はあくまで「M5」である。製造プロセスはTSMCの第3世代3nmプロセスである「N3P」であり、M6より1世代古い。
ここでM6とM5という2つのアーキテクチャが併存しているのには理由がある。両者の役割が全く異なるものになり、その結果として、優先する部分も大きく異なるためである。
M6搭載のMac miniは、常時稼働型のAIを使うことも想定しているが、基本的には「ベーシックなMac」といっていい。M6は今後、MacBook AirやMacBook Proの廉価モデルなどに広く使われていくだろう。
一方で、「Pro以上」のプロセッサーはハイエンドだ。価格も上がってきており、まさに「プロが仕事のために選ぶ」ものだ。
過去、といってもほんの3年前まで、プロ向けとスタンダードモデルの間に存在したのは、比較的シンプルな「性能の差」だった。
だが現在は違う。特にM5 Max・M5 Ultraクラスは、もはや使い方自体が変わってしまった。
そこで中核になるのはAI、それも「ローカルAI」である。
ここで重要なのは、スタンダードモデルで使うローカル(オンデバイス)AIと、Mac Studioが扱うローカルAIとは、規模感がまったく異なってきていることだ。
あらゆるMacでは、小規模なオンデバイスAIを常時動かすことが求められるようになってきている。アップルのAI機能である「Apple Intelligence」が存在しているためだ。
Apple Intelligenceは、今年の秋に公開される新OSに搭載されるバージョンで大きく刷新する。
新しいApple Intelligenceでは、音声アシスタントである「Siri AI」の動作も含め、多くのAIモデルが背後で動作し続ける。その中では、性能が足りない場合にクラウドへと処理を回す「Private Cloud Compute」で動く部分もある。
誤解がないように伝えておきたいが、新しいApple Intelligenceのための処理性能が、今のM5や、iPhone向けプロセッサーである「A19」で不足しているというわけではない。
しかし、さらに消費電力を下げるにはより効率的な処理が必要だ。Private Cloud Computeを使っていることをユーザーが意識することはないが、アップルとしては、本体で処理性能が足りないシーンを減らし、できるだけ処理がPrivate Cloud Computeへ回る機会を減らしたいと思っているだろう。当然、そのことは運営コスト削減に直結するからだ。
だとすれば、スタンダードなMacやiPhone向けのプロセッサーでは、オンデバイスAIの処理系であるNeural Engineの強化とメモリー使用効率の向上が重要になってくる。
M6ではNeural Engineが2系統化され、16コア×2へと増えた。
もちろん、CPUコアやGPUコアが増え、GPU自体のAI性能も上がっている。それらを合わせ、トータルでのAI性能が上がっているわけだが、そこでフォーカスしているのは、AIモデルのサイズが比較的小さく、ユーザーは「動いていることを意識しない」タイプのものだ。
おそらくは、次のiPhoneに使われるプロセッサーも、同じく2nmプロセスで作られ、Neural Engineの強化が図られる。そうやって、Apple Intelligenceを使う上での効率を上げていくことが、アップルのデバイスとしての価値を上げることに直結する。
一方で、ハイエンドなMacに求められるAI性能は全く異なる。
Mac Studioなどで動かすことを求められるのは、ローカルLLMといっても、より大きなAIモデルを使うものだ。
Qwen3.6/3.8やGemma 4、DeepSeek V4、Kimi K2.6のようなLLMでは、大きなメモリーに比較的大きなAIモデルを配置して使うのが一般的だ。
例えば、現状で最高に近い性能を持つ「Qwen3.8-27B」の場合、実用的な能力で使うなら、GPUが扱うメモリーは25GBから56GB程度必要になる。もっと大きなモデルもあり、メモリーは「あればあるほどいい」状況だ。
その中で、MacのAppleシリコンは、大容量のメモリーを搭載しつつ、CPUとGPUでそれを共有する「ユニファイドメモリ」構造を採っている。
特に「Max」系、「Ultra」系では広帯域なメモリーを大容量搭載する。128GB・256GB・512GBといったメモリーを搭載し、それを比較的自由に使えることが大きなメリットである。
GPU単体の処理性能で言えば、NVIDIAのGPUの方が高い。だが、Macに求められる処理は主に「推論」であり、GPU自体の処理性能以上に、広帯域メモリーをじゃぶじゃぶと贅沢に使えることの方が有利になる。
サーバー向け機器となれば、Macよりも高性能なのは間違いない。一方で、比較的手に入りやすい機器を組み合わせるとなると、Mac Studioは圧倒的に「お買い得で使いやすい」存在なのだ。
さらに現在は、Mac miniやMac Studioをクラスタ化して使うパターンも出てきた。以下は前出と同じく、WWDCで撮影したデモだ。ローカルAIを扱う「LM Studio」で、Thunderbolt 5ケーブルで接続した4台のMac Studioを、1つのAIモデルを動かすマシンとして使っている。
こうした使い方は、もちろんコンシューマの世界とは違う。ほとんどの環境において、大規模なAIを使う場合には、OpenAIやGoogleなどの「クラウドでフロンティアAIを提供するサービス」を使った方がコストパフォーマンスが良い。
だが、企業内でクラウドに依存せずAIを使いたい場合や、ソフトウェアエンジニア、デザイナーなどが高度なAIモデルを自由に使いたい場合なら、ハードウェアコストを支払う意味がある。数百万円という価格も、数千万円から数億円になるサーバー資産を所有するのに比べれば圧倒的に有利でもある。
また、高いとはいえ、100万円用意すれば、超広帯域のメモリーを96GB搭載したMac Studioが手に入る。もしくは、128GB搭載でM5 Maxを採用したMac Studioでもいいだろう。ローカルAIに興味があるエンジニアなどなら、「高いが価値は見出せる」ものだ。
このような用途では、メモリーの量と帯域が重要になる。M6がApple Intelligenceを重視した構成になるのとは異なり、こちらでの優先度はなにより「メモリー」だ。
メモリーをチップメーカーから確保し、最新の製品に搭載して生産することは急務だ。M6アーキテクチャの製品が揃うのを待つ必要はなく、M5系であっても、十分に性能はアップする。だからこそ、ハイエンドであるMac Studioは「M5系」なのだ。
これらを考えると、一般向けの製品とハイエンドとでは、想像以上に製品の方向性が違っているのがわかる。
Macで言えば、
- 最も安価でiPhone用プロセッサーを活用したMacBook Neo
- スタンダードな製品であり、M5もしくはM6を使ったMacBook AirやMac mini
- グラフィックなどを扱うことも前提にGPUを中心に強化したMacBook Pro
- ローカルAIの活用を想定し、より業務用機器に近い使われ方をするMac Studio
というところだろうか。
上の2つは10万円台で購入でき、3つ目のMacBook Proは40万円から50万円が中心価格帯だ。Mac Studioは100万円からスタートという感じで、どんどん価格が離れていく。
Windows PCの場合、下位製品のニーズと価格帯はそこまで違わず、その上にゲーミングPCがある。数百万円のワークステーションはあるが、そこはもはやPCとは違う領域の製品とも言える。
ローカルAIの価値向上により、PCの市場区分では、上位と下位が一気に乖離してきている。
メモリーが高騰していない状況なら、そこまでの差はなかっただろう。昨年前半なら、メモリー128GBの製品を30万円台で買うこともできた。しかし今は、メモリーの量は価格に劇的な違いを生み出しており、「それでも必要」な製品が上位に残っていることになる。
この傾向は当面変わらないだろう。だが、ローカルAIを使うニーズはじわじわと増えていく。他社のプロセッサーも広帯域・大容量メモリーを目指す方向にあり、NVIDIAが作った「RTX Spark」は明確にこのゾーンの製品である。
現状、アップルはこの分野で想像以上の成功を見せており、そのことが、Mac Studioの強気の価格にも表れている。そして、すでに納期が10~12週間待ちになっているところを見ると、この戦略は当面うまくいくと考えてよさそうだ。