中学校で起きた男性教師からの性暴力事件 「娘は守られなかった」と語る被害生徒の母 学校が被害を「口止め」か

[2025/05/26 18:00]

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今年1月、群馬県内の中学校で男性教師(事件当時68)が女子生徒(当時13)にキスをしたり、身体を触ったりする事件が起きた。女子生徒は特定の場面で話すことができなくなる「場面緘黙症(ばめんかんもくしょう)」で、学校では筆談でコミュニケーションを取っていた。26日、不同意わいせつの罪に問われた男性教師に、懲役2年6カ月(執行猶予4年)の判決が言い渡された。

「学校は被害をなかったことにしたかったのではないか」

そう話す女子生徒の母親は、事件後の学校の対応に不信感を抱いた。校長から被害を「口外しないでほしい」と言われたという。 学校で起きる性暴力事件。被害者を守るため、必要な対応とは?

(テレ朝news 笠井理沙 今井友理)

※被害者の特定を避けるため、自治体や学校、被告の名前を伏せて報じています。 ※性暴力被害の実態を伝えるため、被害の詳細について触れています。フラッシュバックなど症状のある方はご留意ください。

■きっかけは「勘違い」 男性教師が語った犯行の理由

不同意わいせつの罪に問われた男性教師(当時68)は、定年退職後、学習支援員として群馬県内の中学校に勤務していた。理科の授業を担当し、女子生徒(当時13)にも指導していた。

判決によると、事件があったのは今年1月17日と22日。中学校の理科準備室と被服準備室で、女子生徒にキスをしたり、胸や下半身を触ったりした。いずれの日も、別の教師が男性教師と女子生徒が2人でいるところを目撃し、事件が発覚した。2月、男性教師は不同意わいせつ容疑で逮捕・起訴され、懲戒免職処分となった。

4月に開かれた初公判で、男性教師は罪を認め、被害を受けた女子生徒とその家族に「大変すまないことをした」と謝罪した。犯行のきっかけについて、男性は「勘違いをした」と説明した。

男性教師 「『おはよう』とあいさつをして、女子生徒と顔と顔が近づき、女子生徒が私の頬にチュッとキスをした。その日は何もなく終わったが、後日、あいさつをして、またキスをされて勘違いをした。それがあの子にとってのあいさつなのだと思い、キスを返した」

裁判の中で、去年11月ごろから繰り返し女子生徒にキスをしたり、身体を触ったりしたことを認めた。自分の授業を熱心に聞く女子生徒を「かわいらしい」と思うようになり、勘違いから始まったキスがエスカレート、胸や下半身を触るようになったと説明した。

女子生徒は1学期ごろから被害を受けていて、口止めをされたと主張。被害者参加制度を利用して法廷に立った被害者の代理人弁護士は、男性教師と女子生徒には大きな身長差があり、女子生徒がいきなりキスをしたなどありえないと指摘した。

一方、男性教師は教師という優位な立場を利用したことや、口止めをしたことは否定した。代理人弁護士の質問に、男性教師はこう答えた。

被害者の代理人弁護士 「被害者がコミュニケーションに問題を抱えていることは知っている?」

男性教師

「はい」

被害者の代理人弁護士

「だからバレないと思った?」

男性教師

「そうではないです」

被害者の代理人弁護士

「手なづけようとしたのでは?」

男性教師

「そういう表現は間違いです。女子生徒は他の生徒から声をかけられないので、朝も下校の時も積極的に声をかけました」

被害者の代理人弁護士

「そういうふうにすれば信頼すると思った?」

男性教師

「授業やあいさつで顔を見て、熱心に取り組んでいるので、信頼されていると思った」

「女子生徒と離れる時間をつくらない限り、やってしまったかもしれない」と自分で犯行を止めることができなかったと語った。

26日の判決で、前橋地裁太田支部の伊藤愉理子裁判官は「教育現場であるまじき行為で卑劣な犯行と言う他ない」とした一方、男性教師と女子生徒の母親の間で民事上の和解が成立し、男性教師が懲戒免職され社会的な制裁を受けているとして、懲役2年6カ月(執行猶予4年)の判決を言い渡した。

女子生徒の母親が被害を知ったのは、2度目の被害を受けた1月22日の夕方だった。学校に呼び出され、校長室で校長から被害について聞かされた。

母親 「頭の中が真っ白な状態で、『なんで?どうして?』と。何が起きたのか理解できなかったです。そんな事が学校で起こるということが信じられなくて…」

ショックを受ける母親に、校長はこう続けたという。

母親 「事件のことは口外しないでほしいということを、まず言われました。学校も受験期なので、こういうことが公になると生徒たちも混乱するから口外しないでほしいと。マスコミに伝えたり、SNSなどで拡散したりしないでほしいと言われました」

この時、校長から男性教師は明日以降出勤させないと説明を受けたが、警察への通報や今後の対応については、話がなかったという。

実際、被害を警察に通報したのは女子生徒が通う病院だった。被害の報告を受けた翌日、女子生徒の通院に付き添った母親が、主治医に被害を相談したことがきっかけだった。

母親は校長から、17日の被害についても報告を受けた。これまで母親に報告しなかった理由について、「女子生徒が『何もなかった』と答えたから」と説明された。

母親 「どうして17日にもっと詳しく調べたり、聞き取ったりしてくれなかったのかなとすごく思います。その時にきちんと調べていれば、22日の被害はなかったかもしれない。もっと早く事件が分かっていたかもしれない」

事件後、女子生徒は学校に通うことが難しくなり、転校を余儀なくされた。

母親 「自分の気持ちをよく絵で表現するのですが、事件の後は、画用紙を真っ黒に塗ったり、何か事件のような漫画を描いたりしていました。言葉で表せない分、絵で表しているのが、見ていて、本当に辛かったです」

母親は、校長から「被害者を守るため」と説明を受けたが、具体的な支援策などはなく、事件後の対応に疑問を抱いている。

母親 「娘は守られていないと感じています。被害者のためと言っていることと、行動が全く違う。娘がコミュニケーションに問題があることもよくご存じなので、この家庭なら外部に言わないと考えたのではないかと思ってしまいます」

■校長を直接取材 「被害者を守る対応をした」

事件後の対応について、学校はどう考えているのか。事件当時と同じ中学校に勤務する男性校長に取材を申し込んだ。校長は、被害者と被害者の家族の特定につながる恐れがあるとして、カメラで撮影しないことを条件に取材に応じた。

校長は、女子生徒の母親に「口外しないでほしい」とは言っていないとした上で、こう答えた。

校長 「一言一句覚えているわけではないが、被害者を守る、被害者が特定されないようにといろいろ話をする中で、お母さんがそのように受け取ってしまったのは、私の言葉足らずだと反省している」

17日の事件について、校長が報告を受けたのは午後6時半を過ぎたころだったという。金曜日で男性教師も女子生徒もすでに帰宅していたため、翌週月曜の20日に担任の教師が女子生徒に聞き取りを実施。女子生徒が「何もない」と答え、普段の様子と変わったところがなかったため、校長は男性教師に聞き取りせず、対応を終えたという。

校長 「女子生徒が普段の様子と変わりがないとのことだったので、問題がないと思い、男性教師に聞き取りをしなかった。教育委員会にも報告しなかった。今思えば、少しでも男性教師に聞き取りをしておけばよかった。早く対応していれば、22日の事件は防げたと思う。それは私のミスだったと、反省しています」

3月、校長は学校内で逮捕者を出した監督不行き届きを理由に、中学校がある自治体の教育委員会から厳重訓告処分を受けた。

学校がある自治体の教育長も、被害者と被害者の家族の特定につながる恐れがあるとして、カメラで撮影しないことを条件に取材に応じた。

教育長 「記録がないため、校長の言う通りとも、母親の言う通りとも判断ができない。校長という職を背負って、母親を傷つけるような行動をしたならば、軽率だと言わざるを得ない」

事件について、校長から教育委員会が報告を受けたのは、22日の午前中だったという。教育委員会は、翌日23日に男性教諭に聞き取りを実施。男性教諭は「何もしていない」と否定したという。県教育委員会に相談し、「警察に通報すべき」となったときに、警察が学校に来たと説明した。

校長と教育長は、取材に対し「被害者を守るため」「被害者のプライバシーを守る」対応だったことを強調した。教育委員会は、逮捕された男性教諭と校長の処分についても公表しておらず、学校が事件について在校生や保護者に説明をしたのは、4月末になってからだった。

教職員らによる児童生徒への性暴力を防ぐため、国は「教員による児童生徒性暴力防止法」を2022年に施行した。この法律では、犯罪の疑いがあると思われた時点で、学校や教育委員会が警察に通報することを定めている。しかし、今回の事件では、学校も教育委員会も警察へ通報していなかった。

この法律に詳しい千葉大学の後藤弘子理事・副学長(刑事法)は、学校と教育委員会の対応は不適切だと指摘する。

千葉大学 後藤弘子理事・副学長 「被害の疑いがあったら、まずは被害者保護を第一に考える対応が期待されます。被害者と加害者を引き離すということが行われてしかるべきですが、行われていない。最初の段階で適切な対応が取られていれば、2度目の被害は防げたと思います」

「教員による児童生徒性暴力防止法」をめぐっては、学校や教育委員会に必要な対応をまとめたマニュアルを作成する自治体もある。東京都のマニュアルでは、教職員による性暴力事件が起きたとき、児童・生徒の安全確保を最優先に、疑いがある段階で加害者と被害者の接触を避けること、本人たちへの聞き取りを最小限にすることなどが定められている。

今回の事件があった自治体に対応マニュアルはなかった。事件後、対応の流れや聞き取りの注意点をまとめたマニュアルを作成した。

後藤さんは、学校や教育委員会が法律の意図を理解し、子どもを守るための取り組みをより具体的に進める必要があると指摘する。

千葉大学 後藤弘子理事・副学長 「児童生徒性暴力防止法は、権力を持つ教員が何かすれば、子どもたちは逆らうことができないということを正面から確認した法律だと思っています。教員は大人であり、懲戒権も持っている。その権力を目の前にしたとき子どもたちがNOというのは不可能に近いことだと思います。教員が権力を持ち、学校が同意のない性的な行為が起こり得る場所だという認識をまずきちんと持つべきだと思います」

女子生徒の母親は、被害に遭った子どもたちを守る対応が取られることを望んでいる。

女子生徒の母親 「娘と同じように、被害に遭った子どもが守られないということを繰り返してほしくないと思っています。この学校に限らず、同じことがあると思う。被害を受けた人がなかなか声を上げられない状況もあると思うので、きちんと被害者の立場に立った対応をしてほしいと思います」

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