1.5度の温暖化でも、沿岸地域を離れないといけないレベルで海面上昇の可能性

Image: Bernhard Staehli / Shutterstock

不確かさが小さくなるほどに脅威が大きくなるのやめてほしい。

新しい研究によると、世界平均気温が1.5度上昇しただけでも、海面上昇の影響で何百万もの人々が沿岸地域からの移住を余儀なくされるそうです。

研究成果の著者たちは、現時点の温暖化レベルでさえ、今世紀末までに最悪の場合1m近く海面が上昇し、沿岸地域の住民に深刻な影響を及ぼす可能性があると警鐘を鳴らしています。

すでに壊滅的な海面上昇を起こすレベルまで気温が上昇

学術誌Communications Earth and Environmentに掲載された研究結果では、現時点での気温上昇レベル(産業革命前の水準と比較して1.2度上昇)でも、壊滅的な海面上昇と大規模な移住を引き起こす可能性があることを示唆しています。

つまり、今すぐに世界全域で温室効果ガスの排出量をゼロにしても、海面上昇によって十分に深刻な影響を受ける人々がいるということです。

ブリストル大学の氷河学者で、この研究の共著者であるジョナサン・バンバー氏は、CNNの取材に対して次のように述べています。

いまの傾向が続くようなら、現代の人類文明が始まってから一度も経験したことのない大規模な移住が起こるでしょう。

グリーンランドと南極大陸で起きている急速な氷床の融解が海面上昇の主な要因とのこと。融解速度は1990年代の4倍で進んでおり、現在では海面上昇の最大の要因になっているといいます。ちなみに、海面上昇は、主に温暖化に起因する海水温の上昇による熱膨張と、陸地の氷床や氷河の融解によって起こっています。

今回の研究では、300万年前までさかのぼる温暖期のデータや最近の氷床の減少傾向、気候モデルを用いて、さまざまな気候シナリオにおいて将来的に氷床がどのように変化するかを予測したといいます。

最終氷期が終わる約1万5000年前は、海面上昇が現在の10倍速で進んでいたそうです。また、大気中の二酸化炭素濃度が現在と同じレベルだった約300万年前の海面は、今よりも10〜20m高かったとのこと。こわいこわい。

1.2度未満でも海面が数メートル上昇する可能性

世界平均気温の上昇を産業革命前の水準と比較して1.5度未満に抑えるというパリ協定の目標を達成するために、化石燃料の使用を急激に削減したとしても、数メートルの海面上昇が起こり得ると研究チームは結論づけています。

また、パリ協定の「1.5度目標」は、気候変動による最悪の影響を防ぐための最善策とされてきましたが、正直なところほぼほぼ不可能な状況に近づいています。

数字的に不可能ではないものの、政治環境的には絶望的。しかも1.5度目標は、どこかの時点で1.5度を超えてから、今世紀末までに1.5度未満まで気温を下げる「オーバーシュート」が前提となっています。

そしてこの研究結果でもっともよろしくないのは、気温上昇を1.2度に抑えたとしても、将来的な海面上昇は数メートルに達する可能性があること。

1.5度、1.2度、どちらにしても数メートル上昇。海面は数百年から数千年かけてゆっくり上昇するとはいえ、1cmの違いが生死や被害の深刻さを分ける場合もあるので、軽く見ちゃいけないんですよね。

現実は2.9度以上。海面上昇12メートル?

研究チームは、海面上昇を安全な範囲におさめるには、気温上昇を1度未満に抑える必要があるとしています。

ただ、どの時点で決定的な変化が起こるのか、いわゆる「転換点(ティッピングポイント)」を正確に特定するためには、まださらなる研究が必要とのこと。

現在のところ、今世紀末までに気温が2.9度上昇すると予想されていますが、そこまでいくとグリーンランドと西南極の氷床はほぼ確実にすべて融解してしまいます。

そんなことになると、海面は12メートル上昇。現時点で海抜10メートル以内の地域に世界人口の8分の1にあたる約10億人が、さらにそのうち約2億3000万人が海抜1メートル以内の地域で生活しており、その影響は計り知れません。

ダラム大学の気候科学者で、本研究の主執筆者であるクリス・ストークス氏は声明で以下のように述べています。

海面上昇は、私たちが適応するのが非常に困難なペースで加速していく可能性が高いことを、人々は知っておく必要があります。若い世代が生きている間に、1年に1cmずつ海面が上昇するという事態も、決してありえない話ではないのです。

海面上昇を1cmでも低く、上昇ペースを少しでも遅く

世界平均気温は、2024年に観測史上初めて1.5度を超えましたが、まだ平均して1.5度という水準までは達していません。なので、状況を改善するための時間はまだ残されています。

研究チームは、海面上昇による最悪の影響を食い止めるために、迅速な気候変動対策を今すぐ始める必要があると強く訴えています。たった数cmの差が、現世代の被害や、未来の世代が生きる気候を大きく変えることになります。

ストークス氏は、声明でこう付け加えています。

1.5度上昇ですべてが失われるわけではありませんが、氷床にとっては1度の気温上昇も非常に重要です。そして、温暖化を止めるのが早ければ早いほど、そのあとでより安全な水準まで戻すのがずっと楽になるのです。

何が起こっているのか、何が起こるのか、何をしなきゃいけないかを科学は示していて、大半の人々が気候変動を止めてほしいと考えているのに、肝心な各国政府や国際社会が化石燃料からの脱却と再エネへの移行を少しでも先送りにしようとしているのが問題なんですよね…。

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