横浜市議会が傍聴席映すカメラ設置へ、爆破予告や不審者対応のため?…有識者は「市民との合意形成必要では」
横浜市議会が本会議場内の傍聴席を映す防犯カメラを設置することになった。官庁などに相次ぐ爆破予告や不審者の侵入に対応するためといい、神奈川県内の自治体では初の試みとなる。早ければ今年度中の設置を目指しているが、有識者からは「市民との合意形成も必要では」といった声が上がる。(松岡妙佳)
共産以外が賛成
横浜市議会の本会議場。左側が傍聴席(横浜市議会議事堂で)市議会局などによると、防犯カメラの設置は日本維新の会・無所属の会が提案し、3月10、25日に各会派団長会議(非公開)が開かれ、賛否を確認した。読売新聞が情報公開請求した会議資料によると、近年、爆破予告が他都市の市役所で頻発していることが懸念として出され、市でも議場が無断で撮影され、SNSに投稿された事例などが示された。
出席した市議によると、会議では自民、公明、立民、維新、民主フォーラムが賛成し、共産のみが反対。賛成多数で設置が決まった。
市管理課などによると、市議会議事堂では一般の傍聴者は住所や氏名を書いて受け付けをし、議事堂内にも防犯カメラは複数台設置されている。台数や位置は防犯上の観点から非公開だが、「警備員が常時モニターで確認できるようになっている」という。
市議会ではこれまで、傍聴者の目立ったトラブルはないものの、昨年度は議場や委員会室で傍聴規則に違反し、ヤジを複数回飛ばしたとして延べ5人が退場させられた。設置は、そうした言動がエスカレートするのを抑止するためでもあるとみられ、ある市議は「議員や他の傍聴者を守る必要がある」と理解を示す。一方で反対した共産市議は「受け付けをして傍聴席に入るのに更に防犯カメラが必要だろうか」と疑問視する。
全国的にも珍しく
本会議場で発言者を映すインターネット中継用のカメラは多くの自治体で設置が進んでいるが、傍聴席を映すカメラは全国的にも珍しいとみられる。読売新聞の調査では、県と県内32市町村(横浜市を除く)で、設置済み、または設置を検討している自治体はなかった。国会でも衆議院はなく、参議院は「防犯上の観点から回答できない」とした。
傍聴席を映すカメラについては、そもそも議論に上がったことがないという自治体がほとんどだ。相模原市や横須賀市では警備員や職員を議会に配置し、両市議会局の担当者は「スムーズに対応できている」。小田原市の担当者も「課題と感じておらず、他にやることがある」などと話す。
横浜市によると、カメラの具体的な仕様などは決まっておらず、今後、設置の時期や位置など詳細を決めていくという。
「市民と合意形成 必要」…有識者
防犯カメラの設置を巡っては、犯罪抑止や捜査とプライバシー保護とのバランスなど、長年議論が進められてきた。公共の場で設置が進む契機となったのは、2002年に警視庁が東京・新宿の歌舞伎町に50台のカメラを導入したことで、その後も大事件や国際的なスポーツイベント、会議の警備などを経て、全国的に増えた。21年の小田急線内での刺傷事件を受け、鉄道各社が車内に設置する動きも進んでいる。
公共施設の安全管理などに詳しい日本大危機管理学部の福田充教授(危機管理学)は「監視強化は安心安全を高める一方、やり過ぎれば自由や人権問題と衝突する」と指摘。公共の場での設置は市民と話し合いながら進めてきた経緯があるとし、「開かれた場で一緒に決めていくことも必要だ」と強調する。
傍聴席を映すカメラについては「行動の抑止にはつながるだろうが、設置によって爆破予告などがなくなるわけではない」と語る。