頭の化石が行方不明の恐竜がついに新種に、ベロキラプトルの仲間

シュリ・ラパックス(Shri rapax)と命名された新種の恐竜。モンゴルから密輸され、闇市場から救い出されたが、2016年にCTスキャンを受けた後、頭蓋骨が行方不明になっている。(PHOTOGRAPH BY THIERRY HUBIN, ROYAL BELGIAN INSTITUTE OF NATURAL SCIENCES)

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 頭の化石が行方不明になっているベロキラプトルの近縁種に、ついに名前が付けられた。その名は「シュリ・ラパックス(Shri rapax)」だ。この新種に関する論文は7月13日付けで学術誌「Historical Biology」に発表された。

 シュリ・ラパックスは体長約1.8メートル、シチメンチョウほどの大きさで、7100万年以上前の先史時代の砂漠を歩き回っていた。やはりモンゴルで発見されたベロキラプトルと同じドロマエオサウルス類の恐竜だ。デイノニクス、ユタラプトルなどの羽毛に覆われた肉食恐竜からなるグループで、いずれも後肢の第2指に大きなかぎ爪がある。(参考記事:「肉食恐竜ユタラプトルの集団化石、米国ユタ州で」

「象徴的なベロキラプトルと同じ地層から、このようなドロマエオサウルス類が見つかったことにとても驚きました」と、論文著者の一人であるイタリアの独立研究者で古生物学者のアンドレア・カウ氏は述べている。

 頭が行方不明になりながら、新種として報告されたいきさつはこうだ。

 2010年以前のあるとき、化石であふれるモンゴル、ゴビ砂漠の赤い砂岩層から、保存状態の良い恐竜の骨格が盗掘された。化石は国外に密輸され、闇市場で取引された。日本や英国の個人コレクションを経て、フランスの化石会社エルドニアが取得した。

 2016年、ベルギーの博物館で頭蓋骨と4つの椎骨のCTスキャンが行われたが、その後、頭部と首が行方不明になった。その所在は今も不明だ。化石会社、古生物学者、政府当局者による交渉の結果、恐竜の骨格はモンゴルに返還され、これまでのものとは似ていないベロキラプトルの仲間として管理、研究されることになった。

 モンゴルではこのほかにも、ベロキラプトルに似た恐竜が次々と発見されており、ガチョウのような首を持つ細身のハルシュカラプトル・エスクイリエイ(Halszkaraptor escuilliei)やナトベナトル・ポリドントゥス(Natovenator polydontus)など、意外な多様性が明らかになっている。

2016年のCTスキャンをもとに作製された頭蓋骨の模型。本物の頭蓋骨の行方は現在も不明だ。(PHOTOGRAPH BY THIERRY HUBIN, ROYAL BELGIAN INSTITUTE OF NATURAL SCIENCES)

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かむ力はより強く、かぎ爪はより大きい

 ハリウッド映画で有名なベロキラプトルの近縁種であるにもかかわらず、シュリ・ラパックスは大きく異なる恐竜だった。実物の頭蓋骨の化石はまだ発見されていないが、2016年のCTスキャンをもとに作製された模型から、シュリはより短くてがっしりした口吻と大きな口を持っていたことがわかる。この発見は、ベロキラプトルよりかむ力が強かったことを示唆している。(参考記事:「“最も誤解されている恐竜”ベロキラプトル、真相は?」

「比較的短い口吻、体の割に長い首、短い尾といったほかの違いは、この2つの近縁種が異なる生態学的な好みを持っていたことを示しています」と論文の共著者である米ノースカロライナ自然科学博物館の古生物学者ツォグトバータル・チンゾリグ氏は述べている。

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