アングル:「何もかもが足りない」、がれきの山から未来を描くガザ住民
[ベイルート 21日 トムソン・ロイター財団] - 爆弾の雨が降り、パレスチナ自治区ガザの街並みは荒廃した。シェイマ・アブアラッタさん(21)にとって、15カ月続いた攻撃のトラウマを乗り越える唯一の手段は、「教育を受ける」ことだった。
コンピューターサイエンスとコンピューターエンジニアリングを学ぶアブアラッタさんは、得た知識をガザの復興に役立てたいと考えている。基本的なライフラインさえ途絶えたガザで、人々はあらゆるものが不足する中で生活している。
「私はこの国に、自分が今いる場所に留まりたい。親族や愛する人と一緒にいたい」とアブアラッタさんは言う。
綱渡りのような停戦が実現した今、パレスチナの人々は恐る恐る復興を見据え始めた。230万人の住民全体が家を失い、複数回にわたり避難を強いられただけに、一筋縄ではいかない大仕事だ。
ガザ侵攻の間、アブアラッタさんにとって唯一自分でコントロールできたのは勉強を続けることだった。攻撃開始後の最初の3カ月は何もできず、ようやくノートパソコンを開いたとき、感極まって涙がこぼれた。
北部への空爆から逃れ、ガザ中心部で電話インタビューに応じたアブアラッタさんは、「何かを達成できる機会があるというのは、これほどにも恵まれたことなのか、と感じた」と話す。
イスラエル軍の作戦でガザの大半が瓦礫の山となり、ガザ医療当局によれば、少なくとも4万7000人が命を落とした。ガザ医療当局は、がれきの下にはまだ多くの遺体が埋まっている可能性が高いとしている。
停戦合意では、ハマスに拘束されたイスラエル人と外国人98人のうち33人を解放することが決まっている。また、イスラエルは毎日600台のトラックによる支援物資の搬入を6週間許可するという。
アブアラッタさんは「国境を制限なしに開放する必要がある。何もかもが足りない」と言う。
彼女にとって懸案の1つは「電気の確保」だ。毎日テントから充電拠点まで歩き、ネットに接続する。戦火が止めば、この地域にも太陽光発電パネルが増えることを期待している。
「がれきを片付け、その上にテントを張らなければならない」と彼女は言う。「テント生活から始め、ゆっくりと発展させていく」。だが、口で言うほど簡単ではない。
<「想像を絶する」規模の人道危機>
慈善団体「セーブ・ザ・チルドレン」のアレクサンドラ・サイエ氏はトムソン・ロイター財団の取材に対し、人道上の危機は、「およそ想像を絶する」と語った。「複数の差し迫った危機が進行していて、それぞれがお互いに深く絡み合っている」
セーブ・ザ・チルドレンは、子どものための食料と水、医薬品を送ることが優先だとする。
「飢餓の影が忍び寄る中で、空腹と病気に直面している子どもたちを一刻も早く救わなくてはいけない」とサイエ氏は言う。
国連では、4200万トンに及ぶガザのがれきを撤去するには、10年以上の時間と12億ドル(1872億円)の費用がかかるだろうと述べている。
また、支援団体「アクション・アゲインスト・ハンガー」の運営トップを務めるビンセント・ステーリ氏は、淡水化プラントを動かすための燃料も不可欠だと指摘する。上水道網を修復するには金属製パイプなどの物資が必要になるが、イスラエルは今のところ、こうした品目のガザ搬入を禁止している。
「がれきの撤去を10-15年も待っていられない」とステーリ氏は言う。「復興を始め、重要な施設の復旧に着手する必要がある」
アブアラッタさんも同意する。彼女はガザを本拠とする大学がオンライン講義を中断したため、学費無料の「ユニバーシティ・オブ・ピープル(UoPeople)」でコンピューターサイエンスを学び始めた。来年には卒業できると考えている。
UoPeopleのシャイ・レシェフ総長はトムソン・ロイター財団に対し、ガザの学生への奨学金支給のために30万ドルを集めたと語った。「さらに募金が集まったとしても、ガザの学生のために、できるだけ多くの資金を集めたい」と総長は言う。しかし、学校や大学が再建されるのを待っていては、学生たちの教育には間に合わない。
「今の子どもたち、学生たちはどうする。オンラインで教えるしかない」
(翻訳:エァクレーレン)
Reporting by Kentaro Kojima
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