「世界のFUNAI」泥沼の破産手続き…破産と民事再生で対立、経営権巡っては告訴・告発相次ぐ
テレビ事業でシェア(占有率)を広げ、「世界のFUNAI」と呼ばれたAV機器メーカー・船井電機(大阪府大東市)が破産手続きに入ってから3か月が過ぎた。破産か民事再生かを巡って関係者が異なる主張を展開し、経営権の売却などについても告訴や告発が相次ぐなど、状況は泥沼化している。
◆異例の方法
2024年10月24日、創業家関係者で当時取締役だった船井秀彦氏が「約117億円の債務超過に陥り、現預金もほぼ尽きている」として、破産を東京地裁に突然申し立て、破産手続きが開始された。取締役会を経ずに単独で申し立てられる「準自己破産」という異例の方法だった。
船井電機の本社(大阪府大東市で)船井電機は主力のテレビ事業の低迷が続き、21年5月、大手コンサルティング会社出身の上田智一氏(51)が率いる出版会社「秀和システム」(東京)の傘下に入った。
上田氏は事業の多角化を目指し、23年4月、脱毛サロン運営会社「ミュゼプラチナム」を買収したが、業績が振るわず、24年3月にミュゼを売却した。
船井電機を巡る主な経緯半年後の9月27日、船井の経営権が1円で東京の企業に売却され、同じ日にIT関連会社に譲渡された。上田氏は同日付で社長を退任。元環境相の原田義昭氏(80)はその後に会長に就任したとしており、IT関連会社などの幹部は読売新聞の取材に「知人を通じて原田氏に船井を紹介した」と話している。
◆「資金流出」
船井電機を巡る構図最大の焦点は船井の資金の流れだ。船井秀彦氏側の破産申立書によると、現預金は秀和の傘下に入る前に約347億円あったが、24年10月の申請時点でほぼ枯渇していた。関連会社への貸し付けやミュゼへの支援などで資金繰りが悪化し、約300億円が流出したとしている。関係者は「不透明な資金流出を食い止めるために申し立てた」と語る。
これに対し、上田氏は取材に「いずれも適正な手続きを踏んだ支出で、違法なことは一切していない」とし、「グループ全体では債務超過でも支払い不能でもなかった」と述べている。
船井の破産手続きについては、原田氏も反発し、事業継続を目指して民事再生法の適用を東京地裁に申請した。
親会社の「FUNAI GROUP」を巡っても、船井の破産管財人が破産を申し立てて破産手続きが開始され、上田氏側は民事再生法の適用を申し立てている。
裁判所の判断が注目されるが、破産手続きの開始決定を覆すのはハードルが高いとみられる。東京商工リサーチによると、19年1月~24年10月の破産3万2998件のうち、破産開始決定が取り消されたのはわずか5件だった。
企業の破産に詳しい法政大の杉本和士教授(倒産法)は「民事再生の方が『債権者に多くのお金を支払える』と裁判所が判断しない限り、このまま破産手続きが進む可能性が高い」と指摘している。
◆慎重に精査
経営権の「1円売却」の経緯についても関係者の主張は分かれている。
上田氏は債務約100億円を引き取ることが条件だったのに、履行されていないと主張。今月9日、「だまされて経営権を譲渡した」として、IT関連会社などの幹部ら5人に対する詐欺容疑の告訴状を大阪府警に提出し、10日にはIT関連会社側に船井の経営権の返還などを求める訴えを東京地裁に起こした。
IT関連会社の幹部は「債務を引き受けようとしていたところだった。だますつもりはなかった」と話している。
船井を巡っては他にも複数の関係者から告訴状や告発状が府警などに出されているが、いずれも受理されていないとみられる。関係者の主張には食い違いがあり、府警は慎重に情報収集をしている。
◆ 船井電機 =ミシン問屋を経営していた船井哲良(てつろう)氏が1961年に設立。大手メーカーへのOEM(相手先ブランドによる生産)での供給を軸に米国や日本のテレビ事業で売り上げを伸ばし、2000年には東証1部(当時)に上場した。だが、近年は中国メーカーとの価格競争の激化もあり、赤字が常態化していた。
解雇社員550人、いまだ再就職できず
船井電機の破産の申し立てに伴い、解雇された社員約550人の多くが今も再就職できていない。元社員向けに「特別相談」を行う大阪労働局の担当者は「突然の解雇で準備期間がなく、再就職に時間がかかる人もいるだろう」と話す。
影響は取引先にも及んでいる。大阪市のOA機器会社は約30年前から船井にコピー機を貸し出していたが、数年前からその台数が減少。コピー機は返却されたが、数か月分のレンタル代約20万円の支払いは滞っているという。
同社の社長は「かつての上場企業で、安心して取引していた。破産開始を知った時は驚いたが、レンタル代はもう諦めている」と打ち明ける。