定員割れから人気大学へ 「地域の孫になる」学生たちが、限界集落と向き合う学び
共愛学園前橋国際大学は、教員数約35人、学生数約1300人の小規模大学ですが、20年以上にわたって学生数の増加傾向が続いています。「大学ランキング」(朝日新聞出版)の学長アンケート調査では、全国の大学の学長が「教育面で注目する大学」部門で2016年から常に上位にランクインし、「注目する学長」部門では大森昭生学長が4年連続で1位に選ばれています。 しかし、同大学は2000年頃には入学定員割れの危機に直面していました。 改革の契機となったのは、ある教員の一言でした。 「地元の子が来たいと思わないのに、全国から学生が集まるわけがない」 大森学長は、この言葉によって大学のあり方を根本から問い直すことになったと振り返ります。 「それまでは、研究を重視した『ミニ東大』を目指したり、早稲田や慶應のような大規模大学のプロジェクトに憧れたりしていました。そして、全国から学生を集めようとしていました。でも、地方の小規模大学には違う役割があります。地域の学生たちを預かり、幸せな生涯を送るための力を育て、地域にお返しする。本学はそうした方向に舵を切りました。今では、私たちの教育は東大や早慶にはできないと自信を持って言えます」
同大学では、予測困難な時代を生き抜くために、学修を通じて育成するものとして「共愛12の力」を設定しています。具体的には、「共生のための知識・態度」「グローカル・マインド」「協働する力」「分析し、思考する力」「構想し、実行する力」などです。そして専門科目だけでなく、全学共通科目を重視し、「地域での学び」として地元企業や自治体と連携した多彩な実践型プログラムを実施しています。 「前橋市や群馬県の職員が担当する授業、半年間大学に通う代わりに市役所や地元企業に『通勤』する長期インターン、富岡製糸場や桐生の絹織物の現場で行う課題解決型学習など、地域の皆さんと一緒に授業をつくっています」 「地域の孫になる」プロジェクトというユニークな取り組みもあります。過疎化が進む群馬県みなかみ町藤原地区に学生たちが継続的に通って、雪かきや畑仕事、見守り活動などを行い、「地域の孫」として限界集落の暮らしに入り込むプロジェクトです。 「一般的な短期研修とは異なり、限界集落の課題と徹底的に向き合います。集落がなくなることを止めることはできないが、孫として集落の風習や食べ物、そこにどんな木の実がなっていたのかまで目や耳に焼きつけて帰ってくる──。そういう覚悟で学生たちは臨んでいます。大学に喪服で来た学生が『地区のおじいちゃんが亡くなったのでこれからお葬式です』と話すこともあります。限界集落からまた一軒なくなっていくという現実を、孫として体感するのです。本年度からは授業から学生たち自身で取り組む学生プロジェクトに発展しています」 また、「ミッショングローバル研修」では、群馬県の企業から与えられたミッションをタイのバンコクで実践し、企業の現地法人に課題の解決プランを提案します。例えば、「飲み物を冷やす文化がないタイで自動販売機を普及させるには?」という課題に対し、学生は現地で飲料のニーズを調査します。英語が通じない中でインタビューやアンケートを試みながら、チームでプランを練り上げます。 「群馬県には海外拠点を持つ企業が多数ありますが、B to B(企業間での取引)の企業が多く、学生には知られていません。タイ研修でその存在を知り、現地で雇用を生み出して尊敬されている様子を見て驚く学生もいます。誇りに感じて『群馬ラブ』になって帰ってくるんです」 全学共通科目では、地域の中で学ぶことに加え、グローバルな視点、英語や中国語などの言語、デジタルスキルなどを学びます。 「グローバル人材やデジタル人材が必要なのは、実は東京より地方です。地方では、ものづくりと農業が産業の中心で、グローバル化の中でもがいています。DXの推進も不可欠ですが、圧倒的に人材が足りていません。学生にはこれらの力を身につけ、地域で発揮してほしいです。2026年度には新たにデジタル共創学部もできます」
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国際社会学部情報・経営コース4年の春山奈緒さんは、印象に残っている授業として「バーチャルカンパニー」を挙げます。 「受講生がグループで仮想企業を立ち上げ、地元企業と商品開発する授業です。私が社長役となった企業では、群馬特産の桑茶を使った焼き菓子を開発しました。私は地元出身にもかかわらず、桑茶が群馬の特産だということも知りませんでしたが、飲んでみると意外と飲みやすく、鉄分やミネラルが豊富で体にいいんです。桑茶の製造会社や農家が衰退していることを知り、桑茶を使ったお菓子を通じてSDGsの一つでもあるウェルビーイングを子どもたちに伝えたいと考えました」 一番苦労したのは、協力企業を探すことでした。 「10社以上に電話して自分たちのプランを説明しましたが、目指していることを明確に伝えることが難しかったです。ようやく桑茶の製造会社と、群馬県産こんにゃくセラミドを使ったヘルシーなお菓子の製造会社から協力を得られ、私が2社をつないで桑茶のお菓子『もちもチルケーキ』を開発しました。東京の国際展示場でプロモーションし、京都の大学で行われた商品開発コンテストにも参加しました」 春山さんは、ミッショングローバル研修にも参加し、ゼミではビジネスモデルの新規開発を行うなど、積極的に学びのフィールドを広げてきました。大学での学びについて、春山さんはこう語ります。 「商品開発、マーケティング、プロモーションなどを実践的に学べて、試行錯誤しながら『こう動けばいいんだ』と体感的に理解できたことが大きかったです。タイ研修では、海外の人への接し方や気持ちの伝え方を学びました。また、ゼミでは子どもの感情を色で可視化できるインソール(靴の中敷き)とアプリを開発しました。マネタイズや収支計画まで考え、実際にビジネスを生み出す難しさや面白さを学びました。就職する企業では、海外営業職を希望しており、大学での学びを生かして現地に合った営業を模索したいです」 卒業生の進路は、地元企業や市町村などの自治体、教員が中心です。同大学では、学生が自身の学びの成果をまとめるウェブポートフォリオ「KYOAI Career Gate」を導入し、これを見て地元企業が学生を採用する動きも出ています。