SSRIへのスタチン上乗せ、抑うつ症状を改善せず
大うつ病性障害(MDD)と肥満はしばしば併存するが、合併例ではMDDの標準的薬物療法に治療抵抗性を示す例が多い。ドイツ・Charité-Universitätsmedizin BerlinのChristian Otte氏らは、LDLコレステロール(LDL-C)低下作用に加えて抗うつ作用も有することが示唆されているスタチンのうち、シンバスタチンを選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)エスシタロプラムに上乗せし、抑うつ症状の軽減を検討するプラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)を実施。検索的評価項目の血管リスクプロファイルが有意に改善したにもかかわらず、抗うつ効果は増強されなかったとの結果を、JAMA Psychiatry 2025年6月4日オンライン版に報告した。
近年、スタチン使用とうつ病リスク低下の関連性が報告
MDDと肥満はしばしば併発し、一方の疾患があるともう一方の疾患の発症リスクが約50~60%高まることが報告されている(Arch Gen Psychiatry 2010; 67: 220-229)。そのためMDDと肥満合併例に対するより良い治療法のためのエビデンスに基づくガイダンスの作成が喫緊の課題である。
スタチンは、LDL-C低下作用に加えて抗うつ作用も有する可能性が示唆されており、近年の大規模コホートおよびレジストリ研究ではスタチン使用とうつ病リスクの低下の関連性が示されている(Lancet Psychiatry 2020; 7: 982-990、Gen Hosp Psychiatry 2024; 90: 108-115、J Affect Disord 2024; 349: 342-348)。
MDDと肥満の合併例では治療困難で、MDDの標準的な薬物療法に治療抵抗性を示す可能性が高い(J Affect Disord 2021; 287: 54-68)。
Otte氏らは、MDDと肥満合併例に対し標準的な抗うつ薬であるエスシタロプラムにシンバスタチンを上乗せすることで、うつ病が大幅に改善するとの仮説を立て、RCTを実施した。
対象は、2020年8月21日~24年6月6日にドイツ9施設で登録されたMDDと肥満を合併する161例で、1例を除きエスシタロプラム(最初の2週間は10mg/日、その後試験終了時まで20mg/日に増量)にシンバスタチン(40mg/日)を上乗せするシンバスタチン群〔81例:平均年齢39.0±11.0歳、女性78%、Montgomery-Åsberg Depression Rating Scale(MADRS)25.8±4.8点〕とプラセボ群(79例:同39.0±12.0歳、80%、25.2±5.2点)にランダムに割り付けた。
主要評価項目は12週時におけるベースラインからのMADRSスコアの変化、主要な副次評価項目は患者報告によるうつ病重症度(BDI)-IIの改善とした。精神関連および血管リスクプロファイルに関する検索的評価項目についても設定した。
抑うつ関連スコア低下も有意差なし
試験完遂率は95.6%と良好だった。重篤な有害事象は2例に4件発生したが、両群で差はなかった。うち3件は意図しない妊娠において数日後に自然流産した1例で関連して報告され、もう1例はうつ症状の悪化による入院だった。計123例に頭痛と吐き気などの有害事象が報告されたものの、両群で差はなかった。
ITT集団では12週時におけるMADRSスコアはシンバスタチン群が-13.97点(95%CI -15.88~-12.06点)、プラセボ群が-13.50点(同-15.41~-11.58点)といずれも大幅に減少した。
線形混合効果モデルmixed models repeated measures(MMRM)を用いて解析した結果、MADRSスコアの最小二乗平均差は0.47点(95%CI -2.08~3.02点)と、シンバスタチン上乗せによるスコアの有意な低下は認められなかった(P=0.71)。
さらに患者報告によるBDI-IIについては、両群でうつ病症状の改善が見られたものの、シンバスタチン上乗せによる有意な改善は示されなかった(両群差0.69点、95%CI -2.80~4.18点、P=0.70)。
検索的評価項目:LDL-C値、総コレステロール値、CRPは有意改善
今回、検索的評価項目が設定された。
精神関連では、臨床全般印象度-重症度評価(CGI-S、群間差0.03点、95%CI −0.34~0.41点、P=0.86)、社会的職業的機能評定尺度(SOFAS、同−0.42点、−4.53~3.69点、P=0.84)、包括的QOL尺度(EQ-5D、同 −2.41点、−8.26~3.44点、P=0.42)のいずれも、シンバスタチン上乗せによるスコア改善は示されなかった。
一方、シンバスタチン上乗せによる改善が示された検索的評価項目は、①LDL-C値(シンバスタチン群−40.37mg/dL、95%CI −47.41~−33.33mg/dL vs. プラセボ群−3.78mg/dL、95%CI −11.18~3.62mg/dL、P<0.001)、②総コレステロール値(シンバスタチン群−39.07mg/dL、95%CI −49.42~−28.73mg/dL vs. プラセボ群−4.89mg/dL、95%CI −15.64~5.87mg/dL、P<0.001)、③C反応性蛋白(CRP、シンバスタチン群−1.04mg/L、95%CI −1.89~−0.20mg/L vs. プラセボ群0.57mg/L、95%CI -0.28~1.42mg/L、P=0.003)―の3項目だった。
以上の結果を踏まえ、Otte氏らは「肥満を合併したMDD患者にシンバスタチンをエスシタロプラムに上乗せするRCTにおいて、検索的評価項目とした心血管リスクプロファイルが有意に改善したにもかかわらず、抗うつ効果は増強されなかった」と結論。「これらの患者には、心血管疾患の一次・二次予防のガイドラインに従ってスタチンを用いるべきである」と付言している。
(編集部・田上玲子)