ウォール街も警戒、トランプ減税法案の「報復条項」-米国債に影響も
トランプ米大統領は、政権1期目で導入した大型所得減税の恒久化を柱とする税制・歳出法案の成立を目指し、議会の動きを強力に後押ししている。1000ページ余りの法案に目立たない形で存在する税制上の措置を警戒するのは、ウォール街だけではない。
米下院が22日に可決した法案には、税制を「差別的」と見なす国・地域の個人・企業を対象に税率の引き上げを求める第899項「不公正な外国税に対する救済措置の執行」が盛り込まれている。
数兆単位の米国資産を保有する可能性がある外国人投資家の利子や配当といったパッシブインカム(受動的所得)への課税強化がこれに含まれる。
専門用語で覆い隠されてはいるが、「報復」条項としてすぐに知られるようになった救済措置の意味は、アナリストには明らかだ。かつて一分の隙もないと思われた国債など米国資産への外国人投資家の信頼は、トランプ政権の不安定な貿易政策や財政悪化で既に揺らいでいる。この法律が成立すれば、外国人投資家がさらに離反することになりかねない。
米国際貿易裁判所は28日、トランプ政権の上乗せ関税を違法で無効と判断し、差し止めを命じた。これに伴い、第899項に関連するリスクがより差し迫ったものになったと受け取る向きもある。いわゆるトランプ関税は税制・歳出法案の看板政策、大型減税を支える主要な財源と位置付けられており、代わりの財源をどう賄うかが問題だ。
メルボルンの証券会社ペッパーストーン・グループのストラテジスト、マイケル・ブラウン氏は「外国人投資家にとって、米国債が最も魅力的な投資先と恐らく言えない市場環境にわれわれは既に対峙(たいじ)している。大いに不利な課税措置が話題になれば、遠ざかる新たな理由になるだけだ」と見解を示した。
ペッパーストーンは米国外の顧客だけに対応している。不安を抱く顧客からの問い合わせが相次ぎ、ブラウン氏は分析リポートを急きょ作成したという。
政府系ファンドや年金基金、政府機関などの機関投資家に加え、米国資産を保有する個人投資家と企業も影響を受ける恐れがある。
メタ・プラットフォームズなど大手テクノロジー企業を念頭に「デジタル課税」を導入する英仏、カナダ、オーストラリアのほか、最低法人税率(15%)で合意した国際課税ルールを適用する国・地域も、第899項の標的となり得る。
当該国・地域に拠点を置く投資家や機関について、米国内で得る利子や配当に課す連邦所得税率を当初5ポイント、その後も毎年5ポイントずつ引き上げ、法定税率に最大20ポイント上乗せする仕組みだ。
この税制措置は、関税に重きを置くトランプ政権の貿易政策とは別物だが、スティーブン・ミラン米経済諮問委員会(CEA)委員長が昨年11月公表の論文で提唱した立場や、ドル安誘導の多国間取り決め「マールアラーゴ合意」を目指す動きとも軌を一にする。
いずれも米国が他の国・地域から受けてきたと考える不公平な扱いに対し、的を絞った手段を用いて、より対等な立場を実現するというものだ。しかし、米国資産に外国人投資家が一斉に押し寄せる状況が何年も続いてきたことを考えると、第899項の影響は広範囲に及びかねないと専門家は懸念している。
ドイツ銀行の外国為替調査責任者ジョージ・サラベロス氏は29日のリポートで、第899項について、「米国の経済的目標を推進するレバレッジ(てこ)として、外国勢の米国資産保有への課税を明示的に活用することにより、米資本市場の開放性に異を唱える米資本市場の武器化」を法制化することになると指摘した。
サラベロス氏は「米政権が望めば、貿易戦争を資本戦争に転換できる余地を生む法案とみている。トランプ氏の貿易政策を制約する司法判断が出る状況を考えると、極めて重要な意味を持つ」と分析している。
モルガン・スタンレーのストラテジストらは、税制・歳出法案の「よくある質問」で第899項を取り上げ、米国へのエクスポージャーを持つ欧州株とドルを押し下げる方向に働くと評価した。
アクサグループのチーフエコノミスト、ジル・モエック氏は、今月数年ぶりの高水準に達した米長期金利に上昇圧力がさらに加わる可能性があるとみている。
原題:Obscure Tax Item in Trump’s Big Bill Alarms Wall Street (1)(抜粋)