Official髭男dism、フィジカルなライブバンドとしての凄み 音楽で7万人と繋がった日産スタジアム公演
2025年6月1日18時、日産スタジアムでは淡いオレンジ色を帯びた夕暮れが雲を染めていた。この日は、大阪・ヤンマースタジアム長居と神奈川・日産スタジアムの4公演で約25万人を動員したOfficial髭男dismのスタジアムツアー『OFFICIAL HIGE DANDISM LIVE at STADIUM 2025』のファイナル公演。7万人のファンが開演を待つなかSEが流れると、一時は強い雨に打たれていた日産スタジアムが熱気を帯びはじめた。オープニング映像の終盤では、ステージへと向かう藤原聡(Vo/Pf)、小笹大輔(Gt)、楢﨑誠(Ba/Sax)、松浦匡希(Dr)がリアルタイムで映し出され、スタッフとハイタッチする光景も。そして、ヒゲダンを背後から追うカメラが、客席にいる私たちをステージから映し出した。ライブの幕開けだ。
ステージ上の巨大LEDスクリーンが映し出す青を背景に歌われたのは「Same Blue」。藤原のボーカルの高音が早くも澄みわたり、ヒゲダンはダイナミックな演奏を展開していく。「Universe」では、小笹のロックギターがうなると、藤原はハンドマイクで歌い、ファンとともに右手を高く掲げて振った。ホーンセクションもこの楽曲に生命力を吹き込んでいく。楢﨑のベースと松浦のドラムによるリズムセクションとともに、ソウルナンバーとしての「Universe」が完成され、最後は藤原が日産スタジアムを包み込む熱唱を聴かせた。
楢﨑のベースが冴えわたるのが「ミックスナッツ」だ。ジャズ的なフィーリングをたたえながら、爽快なサビへと突き進む。まさにヒゲダン流のジャズロックを聴かせるのだ。コーラス陣の活躍も加わり躍動的で、それでいてポップ。そこにヒゲダンの「技」が光る。
藤原はMCで足を運んでくれたファンに感謝し、「素晴らしいファイナルをみんなと作りたいと思っています」と述べ、会場のあらゆる場所のファンに演奏を届けたいと抱負を語った。そして、スタジアムを経てより良いバンドになるためにこの場に立っているとも語り、ファンの拍手を浴びた。さらに、ひとりで来たファンに「ひとりじゃありません、非常にデカい顔をしてヒゲダンがいますから」とユーモアを交えて呼びかけた。開演時に天候が回復したことにも触れ、「とにかくネガティブなものが何ひとつないファイナルにしたい」と語った。
「パラボラ」は、藤原のピアノが優しくファンの一人ひとりを励まし、肯定していくかのようだ。「Laughter」はブリティッシュロックの香りがする楽曲。藤原はスタンドマイクで歌い、小笹、楢﨑、松浦が骨太なロックサウンドを担った。藤原のボーカルとバンドの演奏が狂おしいほどの高揚感を生んでいき、7万人の両腕が左右に振られた。「115万キロのフィルム」は、藤原のピアノの弾き語りによって始まった。普遍性をしっかりと獲得している「115万キロのフィルム」のメロディが日産スタジアムを満たすかのように響く。
「Pretender」は、ヒゲダンを一躍国民的ロックバンドに押しあげた大ヒット曲だ。そのイントロが鳴った瞬間、私の胸にえもいわれぬ興奮が渦巻いた。「Pretender」は、J-POPに数多あるラブソングのなかでも、ひときわ高い解像度を誇る。この曲で描かれる恋愛における生々しい葛藤を、藤原のボーカルの高音が強靭に支えていく。藤原の澄んだ歌声が余韻を引くなか「Pretender」は幕を閉じた。
聴く者の胸を高鳴らせる「イエスタデイ」では、ステージ前で水が高く噴きあげられた。スクリーンの映像にも水面が映し出され、この曲のしなやかさを視覚的に増していた。「Subtitle」の歌詞もまた日本の大衆の胸に刺さったはずだ。藤原はスタンドマイクで歌い、その歌声が恋愛の機微を鮮やかに描きだす。
テクノで幕を開け、激しいロックサウンドへ展開していったのが「FIRE GROUND」。ファンの腕のザイロバンドも赤く点灯しはじめた。小笹、楢﨑、松浦による演奏がラウドに響きわたり、藤原の煽りに応えるように、ステージ前で火が噴きあがった。一気にロックショーへと変貌してしまうのもヒゲダンの面白さだ。
MCで藤原は「ここからお祭りゾーンに突入するからね」と宣言。そして、乾杯という形でファンに水分補給をうながした。この日から6月、もう初夏なのだ。藤原がファンを煽り、「ブラザーズ」へ。楢﨑はサックスを吹き、噴きあげられる水は照明で色づいている。松浦の煽りから始まったのは、「ノーダウト」のスカバージョン。まさに「お祭りゾーン」としてファンを盛りあげ、それは「Cry Baby」でも続いた。大量の照明がステージはもちろんのこと、日産スタジアムをも彩った。
会場には冷たい風が吹きはじめたが、「ホワイトノイズ」がそれを吹き飛ばす。イントロでは藤原がパーカッションを叩き、ドラムの松浦とアイコンタクトをした。そして、広大なステージの左右へと藤原と小笹が歩んでいった。「宿命」の冒頭では小笹もパーカッションを叩いた。ヒゲダンの強い求心力が、会場のファンに強い一体感をもたらしていく。
「宿命」が終わると、藤原はピアノを弾きながら「めちゃくちゃ楽しい!」と喜びもあらわに言い、ツアーファイナル公演への想いを語った。10年前に同じ横浜でアコースティック編成でライブをしたことを回想し、どんなライブも絶対忘れたくないと熱く語り、「最後の一音まで心に刻みつけていこうと思います」と述べた。
そして「TATTOO」へ。サビでは、藤原とコーラス陣とが掛け合いを聴かせ、それはゴスペルのように響いた。
「TATTOO」が終わると、藤原は残り2曲だと告げ、2012年にヒゲダンが島根県のライブハウスで生まれ、これまで活動してきた日々を回想する。4人で変わらず楽しくやってこられたことをメンバーに感謝した。そして、メンバーたちもお互いに感謝の言葉を述べた。さらに、自分たちの音楽を愛してくれる人たちに恵まれていると語り、「つまりみなさんのことです」と重ねて感謝した。「君たちはこれから先の僕たちの音楽の目的です」と話し、「みんなが生きて暮らしていることは、このバンドにとってとても大切な光」と表現して、それは綺麗事ではないと言い切った。「あなたがヒゲダンを強くしていることを忘れないでほしい」と呼びかけ、ファンに改めて深く感謝した。
そして始まったのは、「Chessboard」。スタンドマイクで歌う藤原の真摯な歌声が、7万人の胸に迫るかのようだった。終盤ではザイロバンドが緑に点灯し、日産スタジアムを染めあげた。本編ラストを飾ったのは、最新曲である「50%」。端正で美しいメロディである一方、ラップパートもあり、しかもシンガロングもあるという多面性が、ヒゲダンの現在地の充実ぶりを雄弁に物語った。会場の一体感のなか、銀テープがアリーナに噴射された。