デジタルヘルス50社、調達額15億ドル超 AI活用へ移行

CBインサイツは2024年のデジタルヘルスの有望スタートアップ50社をまとめた。50社の株式による資金調達は24年に15億ドル(約2300億円)を超えた。人工知能(AI)を導入した製品への移行が業界全体で進んでおり、ベンチャーキャピタルや医療機関、大手テック企業が積極的に投資をしている。
日本経済新聞社は、スタートアップ企業やそれに投資するベンチャーキャピタルなどの動向を調査・分析する米CBインサイツ(ニューヨーク)と業務提携しています。同社の発行するスタートアップ企業やテクノロジーに関するリポートを日本語に翻訳し、日経電子版に週2回掲載しています。

CBインサイツはデータと独自スコアに基づき、2024年のデジタルヘルス分野の有望スタートアップ50社を選出した。

医療・ヘルスケアではAIを搭載したインフラ、高度な診断、疾患特化型診療プラットホームへのシフトが進んでおり、このリストは医療機関の最高投資責任者(CIO)、デジタルヘルス分野の投資家、ライフサイエンス企業の経営陣が新たな技術の導入、投資機会、戦略提携の際に企業を調べる手がかりになる。

24年の50社から浮上した4つの主なテーマは以下の通りだ。

AIは今後、医療・ヘルスケアのインフラの土台になるだろう。保険請求AIアシスタント(米アラフィア・ヘルス=Alaffia Health)から医療に特化した大規模言語モデル(LLM)(米ヒポクラティックAI=Hippocratic AI)まで、50社中36社がAI製品を手掛けていることがその証しだ。医療・ヘルスケアではAIは特定のシステムに搭載されるだけでなく、医療の提供に欠かせない存在になりつつあることを、こうしたスタートアップは示している。

「診断イノベーション(技術革新)」は前年に続き最大のカテゴリーとなった。このカテゴリーには画像診断(エアーズ・メディカル=AIRS Medical、韓国)、病理診断(米プロシア=Proscia)、非侵襲的診断(アリメトリー=Alimetry、ニュージーランド)などのツールを開発する企業11社が入り、最多タイとなった。こうした次世代診断では早期発見に重点を置きつつ、検査を手軽にし、身体への負担をなくすことに力を入れている。

「遠隔&ハイブリッド(遠隔と対面の組み合わせ)診療」は5社から11社へと2倍以上に増えた。メンタルヘルス(米トーカイアトリー=Talkiatry)やがんケア(レジリエンス=Resilience、フランス)など専用プラットホームが増えていることがその理由だ。遠隔診療が一般内科から疾患特化型に移行しつつあることを示している。

25年には業務フローの効率化が主な優先事項になりそうだ。医療文書の処理(米テナー=Tennr)、診療時の患者と医師の会話に基づく臨床文書の作成(米アブリッジ=Abridge)など19社が管理業務や臨床業務の合理化に取り組んでいる。医療分野での自動化ツールの急増は、医療機関が人手不足から効率化を重視し、医療従事者の時間を事務処理から患者へのケア提供に移行させようとしていることを示している。

厳密な3段階の審査により、50社を選出した。

まずは、デジタルヘルス分野のスタートアップ約1万社を独自の指標(商業的な成熟度、企業の健全度を示すモザイクスコア)に加え、提携、資金調達、特許、経営陣、従業員数に関するデータに基づいて分析した。

そこからモザイクスコアが500点超で、最近の市場での活動が活発な企業1500社を候補に選んだ。企業が提出したアナリスト分析も参考にした。

さらに、戦略的提携、市場での製品・サービスの導入状況、成長指標に基づいて有望50社を絞り込んだ。

24年のデジタルヘルス有望50社のハイライト

資金調達額と調達件数

今回のデジタルヘルス有望50社の創業以降のエクイティ調達件数(24年11月14日時点)は171件、調達総額は計35億ドル(いずれも公表ベース、以下同)だった。調達総額が最も多いのは米モノグラム・ヘルス(Monogram Health)の5億5500万ドル、2位はアブリッジの2億800万ドルだった。

50社による24年(11月14日時点、以下同)の調達件数は47件、調達額は計16億ドルだった。大型ラウンド上位5件は以下の通りだ。

・アブリッジ:シリーズC、調達額1億500万ドル

・米スーパールミナル・メディシンズ(Superluminal Medicines):シリーズA、1億2000万ドル

・米グローセラピー(Grow Therapy):シリーズC、8800万ドル

・サイトリーズン(CytoReason、イスラエル):シリーズA、8000万ドル

・米アンビエンス(Ambience):シリーズB、7000万ドル

5社は主に診療文書作成(アブリッジ、アンビエンス)か創薬(スーパールミナル・メディシンズ、サイトリーズン)のAIアプリケーションを手掛ける。

ステージ別内訳

24年の有望50社のうち、56%がアーリーステージ(シードまたはシリーズA)企業だった。ミッドステージ(主にシリーズBまたはC)企業は44%だった。

トップ投資家

50社への投資件数が最も多いベンチャーキャピタル(VC、コーポレート・ベンチャー・キャピタル=CVCも含む)は米アンドリーセン・ホロウィッツ(8社)だった。同社はデジタルヘルスの様々な分野に投資している。

・ダイレクト・ツー・コンシューマー(D2C)検査:米ファンクションヘルス(Function Health)

・臨床インテリジェンス :アンビエンス、ヒポクラティックAI、スクライブノート(Scribenote、カナダ)

・遠隔&ハイブリッド診療:トーカイアトリー、米ポメロケア(Pomelo Care)

・医療費の透明化:米ターコイズ・ヘルス(Turquoise Health)

・業務フローの最適化 :テナー

2番目に投資先が多いのは米ボックスグループ、米ゼネラル・カタリスト、Nベンチャーズ(米エヌビディアのCVC)で、それぞれ5社だった。

Nベンチャーズの投資先5社はいずれもAI製品を開発している。5社は臨床インテリジェンス(ヒポクラティックAI、アブリッジ、米アーティサイト=Artisight)と創薬(米アイアムビック・セラピューティクス=Iambic Therapeutics、スーパールミナル・メディシンズ)に二分される。

医療機関やその他の大手テック企業も50社に積極的に投資している。米メイヨー・クリニック、米メモリアル・ハーマン病院、米アルファベット傘下のGV(旧グーグル・ベンチャーズ)はそれぞれ3社に投資している。

地理的分布

24年の有望50社の拠点は9カ国に及ぶ。大半(36社)は米国に拠点を置いている。

米国の次に多いのはドイツの3社で、カナダ、イスラエル、韓国、英国がそれぞれ2社で続いた。

ニュージーランド、ベルギー、フランスはそれぞれ1社だった。

従業員数の伸び

24年の有望50社の従業員数は計7500人以上に上る。グローセラピー、米ヌーリッシュ(Nourish)、モノグラム・ヘルス、米オクターブ(Octave)の4社で全体の約40%を占めている。

12カ月間(23年9月〜24年8月)の従業員数の伸び率が最も高かったのはテナーの320%で、ヌーリッシュが250%、ポメロケアが244%で続いた。

50社の従業員は同期間に2900人以上増えた。グローセラピーが800人と最も多くの雇用を創出した。

50社の従業員1人当たりのエクイティ調達額の中央値は48万7000ドルだった。スーパールミナル・メディシンズが810万ドルと最も多く、2位は米チャイ・ディスカバリー(Chai Discovery)の430万ドル、3位はアイアムビック・セラピューティクスの260万ドルだった。

企業の健全性

健全性と成長力を示すCBインサイツ独自のモザイクスコア(1000点満点)の24年11月14日時点での50社の平均は771点だった。

24年の有望50社のうち、このスコアが700点以上だったのは40社だった。全業界の全ての未上場企業のモザイクスコアと比較すると、この40社は上位4%に入る。

50社でこのスコアが最も高かったのは米ミディ(Midi)の932点で、2位はヌーリッシュ(887点)だった。

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