NTTソノリティの集音器「cocoe Ear」――使いやすい価格とカジュアルな使用感で“聞こえ”の問題を解消

 NTTとNTTソノリティは3日、音響機器の新ブランド「cocoe(ココエ)」と、ブランド第一弾製品としてオープンイヤー型の集音器「cocoe Ear」を発表した。価格は3万9600円。12月23日からクラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」でプロジェクトを開始する。

 同社の音響技術PSZ技術を採用した製品で、耳を塞がない「オープンイヤー型集音器」は同機が初だという。

 PSZ技術は、スピーカーからの音を打ち消す音波を逆方向に発射することで、周囲への音漏れを抑制する技術。同機でも、オープンイヤー型でありながら、ユーザーの耳元に音を閉じ込め、自然な装着感と聞こえを両立させている。

 重さは片耳約10g、本体の物理ボタンで集音機能のオン/オフや音量を調整できる。集音器としての機能以外にも、スマートフォンなどとBluetooth接続できるイヤホン機能や、LE AudioのAuracast機能を搭載。別売りでAuracast対応の送信機も用意される(後述)。

装着イメージ
正面に電源ボタン、側面には音量調整スイッチを搭載。
アプリでは、集音音量の調整やイヤホン利用時の音量調整、Auracastのオン/オフと音量調整などができる
NTT常務取締役の大西佐知子氏

 NTT常務取締役の大西佐知子氏は、日本の高齢化社会にともない、「聞こえ方に課題を持つユーザー」が多くなってくると指摘する。国内の難聴患者は推定1430万人いるとされており、55歳~64歳のレンジでも8.90%とおよそ10人に1人が難聴または自覚しているという。

 大西氏も、この55歳~64歳の年代に当てはまる。これまで難聴の診断もなく自覚もなかったとする一方、家族の指摘でテレビの音量が徐々に上がっていることが発覚したと語る。家族間で適切なテレビの音量が違うことも多く、大西氏の自宅でも家族と同じテレビを見て過ごす時間が減ってきていることを実感していると話す。

 難聴は、人との会話機会が少なくなってしまうリスクもある。会話する相手の言葉が聞き取りづらくなると、人と会話することが“おっくう”に感じてしまい、会話のきっかけが徐々に少なくなっていく。人との会話が減っていくと、認知症のリスクが上がると言われており、難聴は今後の生活においてさまざまなリスクを孕んでいる。

 その一方で、難聴者に占める補聴器の普及率を見ると、欧米では50%近いのに対し、日本では15%とまだまだ普及が進んでいない現状がある。

 長年、電話技術に取り組んできた同社。通信だけでなく、受話器のスピーカーやマイクといった音に関する技術にも精通している。最近の事例では、大阪・関西万博でPerfumeが登場するリアルとバーチャルを融合させた音響XR技術を出展し、音でエンターテインメント性をより高める取り組みを行っている。

 今回の新ブランド、新製品では、同社の音響技術を取り入れ、「補聴器でもイヤホンでもない」立ち位置で“聞こえる”と“暮らし”をアップデートすると大西氏は語った。

 同社の音響技術は、すでにグループのNTTソノリティで製品化されている。NTTソノリティでは、耳元に音を閉じ込めるPSZ技術やユーザーの声だけを拾い相手に届けるMagic Focus Voice技術を使い、オープンイヤー型イヤホンやヘッドホン、ビジネス向けのコミュニケーションサービスを展開している。

NTTソノリティの新ブランド「cocoe」
グループとの連携も進める。NTTドコモでは一部店頭で視聴体験を実施

 先述の通り、日本における難聴者の補聴器所有率は約15%と低く、 NTTソノリティ代表取締役社長の坂井博氏は「わずらわしい」や「自分はそれほどひどくない」「自分はまだ大丈夫」となかなか普及しづらい実情を語る。その一方、シニア世代のSNS利用実態をみると、2018年→2022年で利用率が倍増していたり、シニアの趣味で散歩や旅行などが上位だったり、“社会との関係を持ち続ける”シニア世代が多くなってきていると指摘する。

 これらのシニア世代に向けて、より幅広い“聞こえの選択肢”を届けたいという想いから、新たな挑戦を始めたと坂井氏は話す。

NTTソノリティ代表取締役社長の坂井博氏

 同機の具体的な性能について坂井氏は、「オープンイヤー型によるハイブリッドで自然な聞こえ」と「日常に溶け込み、さっと使える」、「スマートフォンやテレビも楽しめる」3点を特徴として取り上げる。

 具体的には、開発を担当した新規事業開発室プロダクトグループの中野達也氏が説明する。中野氏は、前職から補聴器の開発に関わっており、補聴器が普及しづらい理由として「技術の壁ではなく文化の壁や価格帯が影響していた」ことを実感していたといい、同機の開発では、「もっとユーザーに身近なものにしていきたいという想いがあった」と語る。

新規事業開発室プロダクトグループの中野達也氏

 まず、特徴の1つ目「オープンイヤー型によるハイブリッドで自然な聞こえ」については、レイテンシー(遅延)とハウリングの2点に大きな課題があったという。

 中野氏によると、加齢による聞こえづらさは、高い音が聞こえづらくなる一方、低い音の聞こえは変わらないことが多いという。同機では、自然に聞こえる音に高い音を補完するかたちでユーザーの聞こえをサポートしているが、遅延が大きいと、音が重なって聞こえてしまい聞き取りづらくなってしまう。

 同機を含めて補聴器や集音器では、拾った音を信号処理してスピーカーから出力するが、その際に処理遅延が発生する。同機のように、自然に聞こえる音とのハイブリッド方式だと、わずかな遅延でもユーザーが違和感を感じてしまう。同機では、この処理遅延を0.0025秒に抑えることで、ユーザーが違和感を感じない自然な音質を実現している。

 講演やカラオケなどで起こりがちなハウリングでは、スピーカーから出力された音をマイクが拾ってしまい、その音を増幅してしまうループが発生してしまい、音が無限に増幅され続けてしまう。ハウリングを抑制するため、同機ではPSZ技術による音漏れの抑制や構造の工夫、ハウリングを抑制する機能のチューニングが行われている。

 中野氏は、「イヤホンでありながらも耳の困りごとを解決する、イヤホンと補聴器の両方を持ち合わせるプロダクトを目指した」とコメント。従来の集音器は、聞こえにくいシーンでわざわざ装着するものだが、同機ではオープンイヤー型で、普段からイヤホンとして利用できるものにしたいという想いから、あらゆるユーザーが利用できるような仕掛けが施されている。

 本体は、フルワイヤレスイヤホンのように、左右それぞれが独立している。同機の開発にあたりユーザーから意見を募ると、「フルワイヤレスイヤホンは落としそう、なくしそう」「実際に道に落ちているイヤホンを見た」といったコメントがあり、紛失への不安が大きいことがわかった。これを受け、同機では首から掛けられるネックストラップを装着できるようにした。

 さらに、耳に掛けるだけで電源がオンになり、耳から外せば自動的にオフになるインターフェースを採用。イヤホン本体にもオン/オフスイッチを搭載しており、付けっぱなしでも違和感を感じない生活に寄り添った利用体験を提供する。

 製品デザインでもユーザーの声を拾っており、眼鏡よりも軽い片耳10gの重さやスピーカー、フックの位置なども微調整を重ねたという。

 先述のNTT大西氏もテレビ視聴時に音の悩みを抱えており、同機ではテレビの音量問題も解消できるという。

 同機では、スマートフォンとペアリングすることで、イヤホンとして利用できる。これはBluetoothを活用したものだが、従来のBluetoothイヤホンでは、1つのデバイスに対して1つの音響機器とペアリングして使用できるかたちが基本となっている。一方、Bluetooth LE Audio技術群の1つに「Auracast」機能がある。これは、1つのデバイスに対して多数の音響機器と接続できる機能で、ほかの人とオーディオを共有したり、空港のアナウンスをイヤホンで聴けたりできる。

 同機では、このAuracastに対応しており、別売の送信機「cocoe Link」(1万500円)を用意すれば、テレビの音を同機経由で聞けるようになる。集音器としての機能を活かしたままテレビの音声も聞けるので、テレビの音量を上げずに、また家族との会話も楽しめる。

 「cocoe Link」は、イヤホン端子とテレビを接続することで、Auracastの送信機としてBluetooth経由で音声を届ける。また、「cocoe Link」本体にはスピーカーも搭載されており、テレビの設定に詳しくないユーザーでもテレビのスピーカーに近づけて置くだけでも利用できる。

 先述の通り、「cocoe Ear」の価格は3万9600円、「cocoe Link」は1万500円で、まずは12月23日からクラウドファンディングサイト「GREEN FUNDING」で提供する。一般発売は2026年春頃としている。

 坂井氏は、クラウドファンディングのメリットとして「新しいカテゴリーの製品を出した場合、生々しいユーザーの声を直接聞ける」とユーザーの声をすぐに反映できる点に言及。同機では、クラウドファンディングと一般発売時で製品仕様の変更予定はないというが、今後の製品開発にもユーザーの声を活かしていく姿勢を見せた。

 「集音器」というイヤホンでも補聴器でもないデバイスの市場について中野氏は「年間300万台くらいの規模とみている」とコメント。アップル(Apple)の「AirPods Pro 2/3」でも補聴機能(ヒアリング補助機能)が搭載されており、補聴器/集音器市場への参入は進んできていると分析するが、集音器をまとめて展示されている販売店はまだまだ少ないのが現状だ。説明会でも、「cocoe Ear」を「集音器」と「イヤホン」どちらで売り出すかを決めかねている様子がうかがえた。

 坂井氏は、「55歳以上の5人に1人が耳の課題を抱えている」点やオープンイヤー型イヤホンの市場成長率の上昇を踏まえ、2026年~2027年の2年間で10万台、売上高30億円を目標にするとしている。

NTT大西氏とNTTソノリティ坂井氏、中野氏

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