ついに「AIバブル崩壊」の予兆か…「日経平均6万円割れ」を引き起こした米国で主要AI銘柄が総崩れしている理由(プレジデントオンライン)
■遅れが資金難を呼ぶ悪循環 施設の遅れが資金調達を難しくし、資金調達の難化が施設の遅れを大きくする。この循環に入れば、地域の一つの計画をめぐる問題が、半導体、電力、冷却設備などに連なる投資全体へ波及する。今回の売りが周辺銘柄に広がったことは、AIへの期待が、設備を実際に稼働させる条件と切り離せないことを示している。 AIの利用が広がることと、すべてのAI投資が予定どおり利益を生むことは、別に検討しなければならない。 将来、大きな需要が生まれても、そこまで資金が持たなければ事業は続かない。需要がある場所と建設できる場所が違えば、移転や接続に時間がかかる。 技術の未来が明るいという見通しだけでは、目の前の事業を支えられない場合がある。 『易経』の大過を手がかりにすれば、問うべきは「AIはどこまで大きくなるか」に加えて、「その大きさを何が支えるか」である。■日経平均株価も一時4000円超下落 11月6日朝の東京株式市場で、日経平均株価の下げ幅は一時4000円を超え、6万円を割り込んだ。取引時間中に6万円を下回るのは5月20日以来、およそ半年ぶりである。東京エレクトロンやアドバンテストも、ともに1割以上下落した。前日の米国市場では、主要半導体銘柄で構成するフィラデルフィア半導体株指数が一時12%安となり、新型コロナ危機初期の2020年3月以来の下落率となった。米国のAI投資をめぐる不安は、日本の半導体関連企業へ波及した。
この動きを、大過の「本末弱」から考えてみたい。現代の産業では、成長の中心と、それを支える条件が、国境を越えて離れている。日本企業の技術への需要を、米国の電力網や地域の合意が支えている。自社から遠い場所にある支えの変化が、自社の成長を左右するのである。
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■企業の成長は、支える現場を追い越していないか 同じ構造は、AI投資以外にも現れる。 売上を急拡大させた企業で、品質管理や顧客対応が追いつかなくなる。店舗を増やした企業で、現場を任せられる人材が不足する。新しいシステムを導入した組織で、教育や業務設計が間に合わず、働く人の負担が増える。 いずれも、拡大した部分と、それを支える部分の歩調がずれた状態である。経営者が売上や投資額だけを見ていれば、成長は順調に見える。現場から上がる困難も、一時的な努力で乗り越えられる問題に見えてしまう。 だが、その負担を引き受けてきた人が離れれば、成長を支えていた能力そのものが失われる。 企業が確認すべきなのは、目標に対して何が足りないかだけではない。目標を追う過程で、何を弱らせているかである。成長の成果が見えやすいときほど、その成果を生み出している人や仕組みの状態を見る必要がある。■成長の先を読むには、成長を支える側を見る 本書で着目したのは、「動因、始まり、成長、転換点、頂点、崩れ、終わり、反復性」という8つの要素である。この枠組みを使うと、現在の強さだけでなく、その強さがどのような条件で生まれ、どこから変質するのかに目を向けられる。 今回、その読み方を『易経』の大過へ広げると、AI投資を見る問いも変わる。 巨額の投資を発表しても、それだけで計算能力は増えない。電力を確保し、地域との合意を整え、稼働まで資金をつなぐ。その条件を満たして初めて、投資は競争力に変わる。次の優位を決めるのは、拡大を支える条件を、どこまで築けるかである。 中間選挙後の市場の動きだけで、AI投資の将来が決まったわけではない。規制の具体化も、企業の対応も、これから進む。 そのなかで問われるのは、投資を続けるための条件を整える力である。国家の競争力を求める政府、事業を伸ばしたい企業、暮らしを守りたい住民。それぞれの要求を、共に続けられる事業の条件へ変えていかなければならない。 棟木がたわんだとき、重さを加えるだけでは建物を高くできない。支えを強くした分だけ、次の高さが決まる。----------田中 道昭(たなか・みちあき)日本工業大学大学院技術経営研究科教授、マージングポイント代表取締役社長、戦略コンサルタント上智大学文学部卒業。在学中に、哲学・歴史・文学・宗教などを学び、人間・社会・文明を読み解く視座を培う。シカゴ大学経営大学院MBA(ストラテジー、ファイナンス、計量経済を専攻)。専門は、企業・産業・技術・金融・経済・国際関係を横断し、企業・社会・国家の構造と未来を読み解く戦略分析と戦略策定・実行。三菱東京UFJ銀行投資銀行部門調査役、シティバンク資産証券部トランザクター(バイスプレジデント)、バンク・オブ・アメリカ証券会社ストラクチャード・ファイナンス部長(プリンシパル)、ABNアムロ証券会社オリジネーション本部長(マネージングディレクター)などを歴任。テレビ東京「WBS」コメンテーター。日本経済新聞電子版「Think!エキスパート」。テレビ朝日「大下容子ワイド!スクランブル」月曜レギュラーコメンテーター。ニッセイ基礎研究所客員研究員、Ridgelinez戦略アドバイザー、公正取引委員会独占禁止懇話会メンバーなども兼務。著書に『古典で読み解く!10年後の未来 何が世界を動かしているのか』(朝日新聞出版、近著)、『フィジカルAIの衝撃』(朝日新聞出版)、『GAFA×BATH 米中メガテックの競争戦略』(日本経済新聞出版社)、『世界最先端8社の大戦略』(日経BP)などがある。
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■『易経』が描いた、強大さの中にある弱さ 『易経』には、六十四の卦を通じて、変化する状況と、その状況にどう向き合うかを考える視点がある。 ここでは占いとして未来を当てるためではなく、現在の構造を捉えるために読む。 第二十八卦「沢風大過」の卦辞には、「棟橈む」とある。屋根を支える棟木がたわむ姿である。彖伝は、その理由を「本末弱きなり」と説明する。卦の中央に四つの陽が集まる一方、両端は陰である。中央の強い力に対し、それを支える部分が弱いという構図が表されている。 この構図を現代のAI投資に重ねると、見えてくるものがある。 中央に集まるのは、巨額の資本、優秀な人材、高性能の半導体、そして国家の期待である。一方、その力を現実の事業として支えるのは、電力、水、送電設備、建設人材、地域との合意、投資を回収する収益である。 前者の強さは、投資額や技術性能として目に見えやすい。後者の不足は、工事が遅れ、許可が下りず、住民が反対し始めてから意識されやすい。しかし、事業を動かすには、その両方が必要になる。 「もっと資金を集めればよい」「もっと大きな施設をつくればよい」という判断が通用するのは、それを支える条件にも余力があるときである。支えが追いつかない段階で中央の力だけを強めれば、棟木にかかる重さは増す。問題は、力の絶対量だけでなく、力の釣り合いにある。■成長を急ぐほど、建設が進まなくなる この問題を、民主党による規制強化だけに帰すと、変化の起点を見誤る。 共和党のアボット知事も、選挙前から対応を強めていた。8月3日、送電網への接続を求めるデータセンターについて、監査を終えるまで承認を停止する方針を示し、州公益事業委員会とテキサス電気信頼性協議会(ERCOT)に包括的な検証と監査を指示した。 ERCOTは、最初の審査対象となる計画群の審査を停止した。8月時点で、ERCOTの接続待ちには、大規模な電力需要を伴う計画が1800件以上並んでいた。確認事項は、税制優遇、電力の使用と発電、水の使用と冷却、地域への影響を減らす取り組み、施設の所有者である。
承認停止は、政党が交代して始まったわけではない。選挙で焦点となったのは、停止をいつ、どのような条件で解除するかである。企業は稼働までの時間を読み直し、地域が受け入れられる条件を整えなければならない。
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■省いた時間は、遅れとなって返る ロイターが伝えたゴールドマン・サックスの推計では、開発規制が強まる可能性のある州に、米国の計画中のデータセンター容量の約45%が集中し、テキサス州だけで約25%を占める。これは中止が決まった割合ではない。計画が集中する地域の判断が、米国全体の投資の速度を左右し得ることを示している。 企業が建設の速さだけを追えば、住民への説明や条件調整は、事業を遅らせる作業に見えるかもしれない。 だが、そこで省いた時間が、後に許認可の難航や制度変更によって、さらに大きな遅れとなって返ってくる可能性がある。 個々の企業には合理的な拡張であっても、同じ地域に集中すれば、電力や水をめぐる負担が積み上がる。その総量に住民が異議を唱えれば、後から来た企業だけでなく、地域全体の開発が制約を受ける。 ここに、成長を急ぐほど成長が難しくなる仕組みがある。 地域との合意にかける時間も、投資を実現するための時間である。それを削ることが、本当に事業の加速になるのかを問う必要がある。■地域の不満が、金融市場の不安へ変わる 建設の遅れは、工事現場の問題にとどまらない。施設の稼働が遅れれば、売上を得る時期も遅れる。一方、土地や設備への支出、借入金に伴う負担が、同じように後ろへずれるとは限らない。収入の開始が遠のくほど、追加の資金が必要になる。調達条件が厳しくなれば、採算はさらに悪くなり得る。 住民の反対、許認可の遅れ、収益化の遅れ、資金調達の難化。一見別々の問題が、一つにつながるのである。 ロイターは、10月からの株式・債券市場の売りによって、データセンター開発に携わる企業の資金調達が難しくなっていたと報じた。選挙結果は、既に弱まり始めていた投資の基盤に、建設の遅れという懸念を重ねたのである。
さらに、株価の上昇に追随して買う「モメンタム投資」では、相場が下落に転じると売却が重なり、値下がりを増幅することがある。実際の建設停止が広がる前に、金融市場が将来の遅れを織り込んで動くのである。