「決闘する恐竜」、ティラノサウルスの解釈を一新 化石は別種だった可能性
ティラノサウルスよりも多くの歯を持つナノティラヌスの口の部分/NC Museum of Natural Sciences
(CNN) 米ノースカロライナ州ローリーのノースカロライナ自然科学博物館に収蔵されている伝説的な化石には、先史時代の戦いで互いに組み合ったまま化石化したと思われる2体の恐竜の骨格が含まれている。それは、世界で最も人気の高い恐竜、トリケラトプスとティラノサウルス・レックスの壮絶な対決場面を捉えたものだと、古生物学者たちは考えていた。
だが、過去5年間にわたり、この「決闘する恐竜」と呼ばれる化石群を研究してきた研究者らは、誤認の可能性を突き止めた。小型の恐竜はティラノサウルス・レックスの幼体ではなく、ナノティラヌス・ランケンシスという、かねて論争の的となってきた別種の成体であることが判明した。
「骨の微細構造に成長記録が保存されており、それが成体であることを示している」と、英科学誌「ネイチャー」に発表された新論文の共著者ジェームズ・ナポリ氏は述べた。この発見により、これまでティラノサウルス・レックスの幼体として識別されてきた多くの化石の再検討が必要になったと同氏は付け加える。
外見こそ似ているものの、両種の特徴は大きく異なる。ナノティラヌスは全長約5.5メートルで、長い脚と強い腕を備えた俊敏な捕食者だった。一方、全長約12.8メートルのティラノサウルス・レックスはがっしりとした脚を持ち、圧倒的な咬合(こうごう)力で巨大で動きの鈍い恐竜を仕留めていた。
比較的小型ながらも、ナノティラヌスの上肢は、小さな腕を持つ成体のティラノサウルス・レックスよりも大きかったという。「成長しても骨が縮むことはないので、この個体が成体のティラノサウルス・レックスになることはあり得ない」とナポリ氏は指摘した。
ノースカロライナ州立大学の准教授、リンジー・ザンノ氏は「過去30年間にティラノサウルス・レックスの生物学について行われた数多くの研究は無意識に、ナノティラヌスのデータをティラノサウルス・レックスと混同してきた。今回の発見を踏まえ、再評価が必要だ」と述べた。
「決闘する恐竜」の化石は2006年、6550万年前に形成されたヘルクリーク層(米モンタナ州、ノースダコタ州、サウスダコタ州、ワイオミング州にまたがる)から発見された。
誤った同定
分類学的にはティラノサウルス・レックスと同じティラノサウルス科に属するナノティラヌス・ランケンシスは、1940年代にヘルクリーク層から発掘された化石に基づき初めて特定された。
だがその後、科学者らはこの化石を含む小型ティラノサウルス類の化石群を幼体のティラノサウルス・レックスの個体と解釈するようになった。別種が存在するという考え方は次第に支持されなくなったが、その可能性については学会などで議論が続けられていた。
200点を超えるティラノサウルス類の化石を比較検証した今回の新研究により、幼体のティラノサウルスの化石が化石記録で従来考えられていたほど一般的ではなかったことが示唆された。長年にわたり古生物学者らはナノティラヌスをティラノサウルス・レックスの幼体と誤認し、その形態的特徴をティラノサウルス・レックスの成長や行動のモデルに用いてきた。
「この発見の意義は、異なる捕食者が恐竜時代の終わりにどのように関わり合っていたのかという新たな疑問の扉を開くことにある」(ザンノ氏)
不都合な疑問
今回の発見は、ナノティラヌスが幼体のティラノサウルス・レックスであるという説になぜ科学界がこれほど早く飛びついたのかという「不都合な」疑問を投げかけると、米オハイオ大学の古生物学教授、ラリー・ウィトマー氏(今回の研究には不参加)は述べている。
ウィトマー氏は、この発見が単なる分類論争を解決するにとどまらないと指摘。「なぜなら、この論文が覆す前提に基づいて、数十年にわたる研究と数百本に及ぶ論文が存在するからだ。それらの分析はすべて見直しを迫られる」と話した。
英エディンバラ大学の古生物学教授、スティーブ・ブルサット氏(今回の研究には不参加)も、この発見は「ティラノサウルス類の分類と進化の根本的な再評価を促すものだ」と述べた。
ブルサット氏はこれまで長年にわたり、巨大なティラノサウルス・レックスの骨格と同じ地層で見つかった小型の骨格群をティラノサウルス・レックスの幼体と考えていたと語り、今回の発見を受けて、「私は少なくとも部分的には誤っていた」と言い添えた。
ブルサット氏は、すべての小型ティラノサウルス類をナノティラヌスと断定すべきではないと指摘する。「ティラノサウルス・レックスは成体でバスほどの大きさがあり、その成体骨格は、カナダのサスカチュワン州から米ニューメキシコ州にかけて北米西部で数多く見つかっている」と説明した。
それらの中にはティラノサウルス・レックスの幼体も含まれているはずだが、成体または成体に近いナノティラヌスと幼体のティラノサウルス・レックスを見分けるのは、大きさや骨格の特徴が非常に似ているため困難だとし、「今後の古生物学者にとっての課題となる」と付け加えた。
ナポリ氏によると、「決闘する恐竜」はまだ岩石に部分的に埋まった状態で、2体がなぜ絡み合った状態で発見されたのかは不明だという。