メキシコ原産のネズミイルカ、10頭以下に減少 救える望みはあるか
(CNN) メキシコ北西部のカリフォルニア湾北部に生息するコガシラネズミイルカ(通称バキータ)は、海生哺乳類の中で最も深刻な絶滅の危機に陥っている。目の周りの黒丸や笑っているような黒い唇が特徴で「海のパンダ」とも呼ばれるが、その数は過去30年間で98%も減少した。
先月報告された最新の個体数は、推定で10頭を切っている。
危機の背景には、トトアバという大型魚を狙って海面から網をつり下げる「刺し網漁」がある。トトアバの浮袋は中国で高級食材とされ、1個1万ドル(約155万円)もの値がつく。コガシラネズミイルカは成体が全長約1.5メートルとトトアバに近く、刺し網で一緒に捕獲されてしまう。
メキシコでは1975年からトトアバ漁が禁止され、2017年にはカリフォルニア湾北部での刺し網漁が違法化された。コガシラネズミイルカとトトアバはどちらも、絶滅のおそれがある希少種の国際取引を規制するワシントン条約の取引禁止リストに掲載されている。しかし違法な刺し網漁は今も続く。メキシコ政府が今年3月に押収した9キロメートル以上の刺し網には、死んだトトアバが72匹かかっていた。
2025年の調査中にドローンで撮影されたコガシラネズミイルカとその子ども(Fabián Rodríguez/Sea Shepherd Conservation Society/CONANP)
ウズベキスタンの古都サマルカンドで先月24日から今月5日まで開催中のワシントン条約締約国会議では、コガシラネズミイルカの保護に向けたメキシコの取り組みが改めて議論されている。
代替漁法への転換を
これまで30年以上にわたりコガシラネズミイルカの保護に取り組んできたメキシコの研究者、ロレンツォ・ロハスブラチョ氏は、コガシラネズミイルカに危害を与えない代替漁法を提供することに注力すべきだと主張する。
ロハスブラチョ氏は23年に国際自然保護連合(IUCN)の種の保存委員会(SSC)に提出した研究の中で、カリフォルニア湾北部では今もえびや魚の漁に刺し網が広く使われ、代替漁法への転換がほとんど進んでいないと指摘した。
同氏によると、代替漁法が開発されてはいるものの、漁業者にとっては転換の動機づけがない。価格が高く効率は低下するうえに、違法な刺し網の取り締まりが徹底していないからだ。
別の漁法へ転換させるには何らかの補償が必要だと、同氏は主張する。
抑止効果があった対策のひとつとして、海底に設置したコンクリートブロックが挙げられる。ブロックの上部には、違法な刺し網を引っかけるフックがついている。しかしロハスブラチョ氏によると、設置されたのはコガシラネズミイルカの生息域のうちほんの一部にすぎず、永続的な解決策にはならない。カリフォルニア湾北部に設定された225平方キロの禁漁区「ゼロトレランス水域」も同じだ。水域内では刺し網の使用が減っているが、同氏によればコガシラネズミイルカはその外にも生息しているため、これだけで個体数が回復することは期待できないという。
ロハスブラチョ氏は一方で、昨年発足したメキシコの新政権下で保護活動が加速することを期待している。発足後1カ月以内にコガシラネズミイルカに関する会合が設けられたのは政治的意志の表れだと、同氏は言う。
漁業や養殖を管轄する政府機関も、国立の研究所も一新された。ただし同氏は、行動を急がなければならないと強調。「政策や行政の面では今が最高のタイミングだが、残ったコガシラネズミイルカの数という面では最悪のタイミングを迎えている」と話す。
需要を抑える取り組み
コガシラネズミイルカを救うには、トトアバの需要を断ち切るという方法もある。
野生生物の取引を監視する国際NGO「トラフィック」の専門家、パオラ・モシグレイドル氏はCNNとのインタビューで、「需要を減らす取り組みがカギだ」と述べた。同氏によれば、トラフィックは最近、中国でトトアバの浮袋の需要抑制に向けた「行動変容プロジェクト」に乗り出した。
トトアバの違法取引を減らすもうひとつの道は、養殖のトトアバの輸出を許可すること。「環境保全型の養殖」と呼ばれる考え方だ。米カリフォルニア大学サンタバーバラ校と仏大学院アグロ・パリテックは最近の研究で、トトアバの養殖によって密漁が防げる可能性を指摘した。メキシコにはすでにトトアバの養殖場があるというが、輸出入は禁止されている。
モシグレイドル氏も養殖が有効な手段になるかもしれないと認めたうえで、輸出入を合法化した場合、違法な魚が市場に入り込む抜け穴ができるおそれもあると指摘。不正を防ぐには、生産段階を把握できるトレーサビリティー(追跡可能性)が不可欠だと述べた。
明るい兆しも
コガシラネズミイルカの個体数はここ2年間、比較的安定を保ってきた。推定値は不確実性が高いものの、「かつてのペースで減少してはいない」と、ロハスブラチョ氏は強調する。
現時点で増えているのか、現状維持の状態なのかを見極めるのは難しいが、最新の調査で幼体や成熟前の個体が見つかっているのは非常に明るい兆しだという。
ロハスブラチョ氏は「若い個体がいるなら、かれらが一生のうちで最も厳しい時期を乗り越えたということ、今も健康な個体から子どもが生まれているということを意味する。それは喜ばしいことだ」と主張した。