トランプ関税は法的に止められないのか?
トランプ関税は史上最大の経済的自殺行為だ、とサマーズ元財務長官は批判した。
“This is the biggest self-inflicted wound we’ve put on our economy in history. … Until we have a reversal, I think we’re going to have a real problem.” Watch my interview on @ThisWeekABC with George Stephanopoulos.
via @YouTube— Lawrence H. Summers (@LHSummers) April 6, 2025
全世界で反トランプのデモがおこなわれたが、トランプは意に介さないで休日ゴルフをしている。関税執行を止めるのは法律だけだからだ。
反トランプデモ(ロイター)
Q. トランプ関税の実施を止める方法はないのか?
アメリカ議会(特に上下両院)が法律を通すことで関税政策を覆すことは可能。
- 例えば、大統領が使う通商拡張法(Section 232)や通商法301条に基づく権限を制限する法案を通せば、関税発動を防げる。
- ただし、トランプ氏が大統領であれば拒否権(veto)を行使する可能性が高く、それを覆すには上下両院の3分の2の賛成が必要。
- カナダとメキシコに対する関税を差し止める法案が(共和党議員4人も加わって)上院で成立したが、共和党が多数を占める下院では審議されない見通し。
2. 司法による差し止め
- 関税に反対する企業や業界団体が連邦裁判所に提訴し、「違憲」あるいは「法的根拠の逸脱」として争うことも可能。
- ただし、過去のトランプ政権の関税(例:鉄鋼やアルミニウムへの関税)は、裁判所である程度合法とされた例があり、裁判所による差し止めは難しい場合も多い。
3. 国際的な圧力
- 関税が世界貿易機関(WTO)のルールに違反しているとして、他国が提訴することも可能。
- WTOは米国に関税撤回を勧告できるが、米国が従わないこともあるため、実効性に限界がある。トランプ氏は過去にWTOに否定的な姿勢を取っており、無視する可能性もある。
Q. トランプ関税の法的な問題点は?
トランプ大統領が国際緊急経済権限法(IEEPA)を根拠に課した最大49%の「相互関税」は、議会の権限を越えるものであり、最高裁が近年重視する「重大問題ドクトリン」に明確に抵触すると指摘されている。
1977年に制定されたIEEPAは、外国の脅威に対応するために大統領に一定の経済措置を認める法律であり、もともとは敵国資産の凍結などに用いられてきた。だが、今回のように貿易赤字や友好国にまで広く関税を課す行為は、本来の目的を逸脱し、貿易や税に関する議会の権限(憲法第1条第8節)を侵害しているとされる。
最高裁は2022年の「ウエストバージニア対EPA」判決などで、経済・政治に大きな影響を与える政策には明確な議会の授権が必要だとする立場を示しており、トランプ氏の関税政策もこの基準に照らして違法とされる可能性がある。IEEPAの条文には関税に関する明示的な規定はなく、トランプ氏の行動は「非常時対応」ではなく「恒常的な通商政策の制定」に近い。
このような前例が容認されれば、今後どの大統領でも「緊急事態」として恣意的に政策を推し進める危険性がある。ゆえに、最終的には議会が通商政策の主導権を取り戻す必要があり、もしトランプ氏が拒否権を発動しても、最高裁が「重大問題ドクトリン」に基づいてその行為を制限することが、アメリカの三権分立を守る唯一の道であると結論づけている。
Q. すでに行政訴訟も起こっているが、どうなるのか?
トランプ大統領による中国への20%関税に対して、保守系団体NCLAが違法だとしてフロリダ連邦地裁に提訴した。根拠とされたIEEPAには関税の導入には明記されておらず、専門家らは憲法違反の可能性があると指摘している。
トランプ氏は、対中関税に続き、貿易赤字を理由に「相互関税」の導入も表明しており、60カ国以上が対象となるが、これに対しても追加の訴訟が起こる可能性がある。IEEPAが関税を認めていない点は共通しており、法的にはさらに脆弱とされる。これらの関税は今後数日内に発動される予定で、提訴は発動後になる見通しだ。
NCLAの弁護士ヴェッキオーネ氏は、「IEEPAは敵国への禁輸や資産凍結は認めても、関税の導入は認めていない」と強調し、「50年の歴史の中で、関税目的に使われたことは一度もない」と述べた。NCLAは年内にトランプ関税の違憲判決を目指しており、裁判の結果が今後の関税政策に大きな影響を与える可能性がある。
連邦最高裁の9人の判事のうち6人は保守派とされるが、ロバーツ長官は穏健派であり、従来の法解釈を逸脱するトランプ関税を違憲とする可能性がある。
結論
4月9日の関税実施を阻止する法的手段はないが、トランプ関税がIEEPAに違反する疑いは強いので、連邦最高裁まで行けば、差し止め命令が出る可能性がある。
違憲訴訟は今後も数多く起こされる見通しだが、連邦最高裁に直接提訴し、差し止め決定が出れば、今年中に関税が一旦停止になる可能性もある。長期的にもこのような乱暴な関税が続くとは考えにくいので、何らかの法改正がおこなわれるだろう。