“見せる充電器”で差別化 Ankerの牙城を揺るがす「SHARGE」、ハイエンド路線で世界拡大中

中国は世界最大のモバイルバッテリー(充電器)生産国である。業界の推計によると、世界出荷台数の80%〜90%を中国製が占めている。 中国税関のデータによると、2022年には3億台以上のモバイルバッテリーが輸出され、同年に世界全体の出荷台数は約3億5000万~4億台と推定されている。 SHARGEの製品をもっと見る 中国発のモバイルバッテリーブランドは数が多く、競争も激しい。 アンカー(Anker)、シャオミ(Xiaomi)、ベースアス(Baseus)、羽博(Yoobao)、ユーグリーン(UGREEN)などが市場シェアの大半を占めている。 そのなかで、2019年に設立された「閃極科技(SHARGE)」は、精緻なマーケティング戦略と技術革新を武器に、過当競争が続くモバイルバッテリー市場で独自のポジションを確立した。

同社が初めて投入した窒化ガリウム(GaN)を採用したモバイルバッテリーは、米国クラウドファンディング「キックスターター(Kickstarter)」で数百万ドル(数億~十数億円)を集めた。米アマゾンでの発売から2年後には、200ドル(約2万9000円)の価格帯の製品で販売ランキング首位に立った。2024年には売上高は2億元(約40億円)を超えたという。

コストパフォーマンスと価格競争で市場を拡大する他のモバイルバッテリーメーカーとは異なり、SHARGEはハイエンド路線に軸足を置いている。革新的な製品への強い好奇心を持ち、性能や使用体験を重視するマニア(ギーク)やエンジニアなど、専門性の高い層を主要ターゲットとしている。そのため、同価格帯の製品であっても、原材料の選定や設計工程において、他社の2〜3倍のコストをかけて品質を追求している。 米アップルのパソコン「iMac G3」に着想を得て、SHARGEはモバイルバッテリーの外装に透明な素材を採用している。プリント基板(PCB)や半導体チップ、バッテリーなどの内部構造がはっきりと見え、高い技術力を視覚的に訴求するデザインとなっている。また、一部のモデルでは、ディスプレイに充電残量、入出力の電圧・電流、充電速度、バッテリーの温度などをリアルタイムで表示。ユーザーはデバイスの充電状態を一目で把握できる仕組みになっている。 このため、モバイルバッテリーのサイズや重量、消費電力が増加し、製造コストの上昇にもつながる。SHARGEの製品は、一般的な同種の製品と比べて2~3倍高い価格設定となっている。 例えば、5000mAhの超小型製品「フローミニ」は、テスラ車にも採用されている車載グレード21700電池(直径21ミリ、長さ70ミリ、0が円型を意味する)を使用し、充放電の回路を再構成することで、スマートフォンの下部に直接取り付けて充電できる。 この製品の価格は約150元(約3000円)で、市場に出回る5000mAのモバイルバッテリーが一般的に1個あたり50~60元(約1000~1200円)とは価格帯も大きく異なっている。 「実地調査とユーザーからのフィードバックによると、製品の性能とデザインを重視するユーザーは、多少価格が高くても、見た目が良くて性能の優れた製品を選ぶ傾向がある」と、SHARGEの創業者兼CEOである張波氏語る。「この層の市場は、今後もまだ成長の余地がある確信している」。 モバイルバッテリー業界では、技術的な参入障壁がすでに低くなっており、現在ではターゲットとなるユーザー層を細分化し、ニーズに応じた商品を的確に届ける戦略が求められている。SHARGEは、 国内外のユーザーの嗜好や利用シーンの違いに応じて、市場ごとに製品戦略を差別化している。 たとえば、中国市場では、利便性や充電効率、幅広い活用シーンとコストパフォーマンスが特に重視されている。多くのショッピングモールや飲食店では、モバイルバッテリーのレンタルサービスが非常に普及している。そのため、SHARGEは従来のレンタル用製品より軽量でコンパクトなモデルを展開。電池容量と充電速度は維持しながら、価格帯は主に100〜200元(2000~4000円)に設定している。 一方、海外、特に欧米市場では、ユーザーはデバイスにより高い性能と使用体験を求める傾向が強い。 新技術への関心も高く、こうしたニーズに応えるため、窒化ガリウム技術を用いた高出力・高速充電対応のモバイルバッテリーを主力製品として打ち出している。 現在、最高の性能を持つハイエンドモデルが海外で最も売れており、顧客単価は100~200米ドル(約1万5000~約3万円)に達するという。毎月の売上高は概ね40万〜50万ドル(約5800万~約7200万円)を維持している。2024年のSHARGEのバッテリー事業では、海外市場が全体の60%を占めた。 今後は、ウェアラブル型モバイルバッテリーの開発を進め、ユーザーの“手の解放”を目指す。 さらに、出荷量が急増しているAIデバイス向けに、専用充電器を開発する予定である。 *1元=約20円、1ドル=約145円で計算しています。 (36Kr Japan編集部)

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