今の憲法にはあるのに?参政党の創憲案で消された私たちの「権利」

参政党の独自憲法構想案で明記されなかった権利や自由

 長らく憲法改正が政治課題となる中、参院選が行われている。改憲、護憲、論憲。憲法に対する各政党の立場は異なるが、参院選前の5月に独自の憲法構想案を公表して「創憲」を訴えるのが参政党だ。

 その中身を見てみると、現行の日本国憲法では明記されているのに、盛り込まれなかった「権利」がある。今の日本に暮らす私たちにはありながら、なくなったものとは――。

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消えた「法の下の平等」

 「すべて国民は、法の下に平等であって、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない」

 日本国憲法14条は、そう記す。これによって定められているのが、誰もが等しく扱われるべきだという「平等権」だ。

 たとえば、地方と都市部の人口差によって生じる選挙の「1票の格差」。1人の政治家を選ぶにあたり、有権者の数はなるべく等しくあるべきだという考えは、この条文に基づく。

参政党の独自憲法構想案。日本国憲法では「主権の存する日本国民」(第1条)とされているが、参政党案では「国は、主権を有し」という文言がある

 ほかにも、「女性は離婚後100日間、再婚できない」という女性だけに課された民法上の定めが2024年4月に廃止された。これは、法の下の平等に反するという最高裁の判断が15年にあったことがきっかけになった。

 このように、男女の性差や生まれた土地によって差別されないという原則も14条が保障する。

 ただ、参政党案には、これに該当する条文はなく、法の下の平等という考え方も盛り込まれなかった。6月に党が作った解説本「参政党と創る新しい憲法」(編著者・神谷宗幣党代表)も、その理由には触れていない。

「表現の自由」「職業選択の自由」もなく

 同様に、参政党案では書かれていない権利がほかにもある。憲法19~22条には、それが明記されている。

 「思想・良心の自由」(19条)

 「信教の自由」(20条)

 「表現の自由」(21条)

 「居住、移転、職業選択、国籍離脱の自由」(22条)

参政党本部=東京都港区で春増翔太撮影

 この四つの条文は、それぞれ国民が自由に行使できる権利を定めている。どんな思想を持っても構わず、どんな宗教を信じても構わない。どんな職業を選ぶか、どこに住み、どの国に移るかも自らの判断で決めることができる。

 政府による言論統制があった戦前の反省から、権力批判を含む言論の自由が21条には明記され、検閲を認めないとも書かれている。

 この四つの条文が示す権利は、参政党の憲法案には見当たらない。

「黙秘権」もなくなって……

 また日本国憲法の特徴の一つに、「世界的にも類例を見ないほどに詳細」(日本弁護士連合会)と評される、刑事手続きに関する人権規定がある。31~40条が、これに当たる。

 これらは刑事司法における容疑者や被告の権利で、たとえば「裁判を受ける権利」を32条で保障し、36条では拷問を禁じている。

日本国憲法原本(国立公文書館所蔵)=東京都千代田区の同館で2017年4月11日、長谷川直亮撮影

 こうした条文が並ぶのは「戦前に人権侵害が多く起こった実態に対する反省の表れ」(参院憲法審査会)とされる。

 一方の参政党案では、刑事人権保障を定める条文はない。それにより、裁判を受ける権利のほかに「黙秘権」(38条)も失われている。

 神谷氏が編著を担った前述の解説本には「個人の権利が、結局は私益にすぎず」という一節がある。参政党の憲法案は、そんな思想を背景にしている。【春増翔太】

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