低い酸素濃度、生物の進化を決定づけた地球の「退屈な10億年」(Forbes JAPAN)
かつて地球は、10億年近くにわたって進化の停滞期に陥っていたようだ。18億年前から8億年前は、「退屈な10億年(Boring Billion)」呼ばれている。この期間は、酸素濃度が低い状態にとどまり、地殻運動が減速し、生命は活動停止状態にはまりこんでいたと見られている。 しかしこの時代は、その見かけとは異なり、決してつまらない休憩時間などではない。最近の研究では、退屈な10億年は、進化のデッドゾーンというよりはインキュベーター(培養器)であり、その後に続く複雑な生物の爆発的進化の舞台がこの時期に着々と整えられていたことが示唆されている。 ■なぜそれほど「退屈」になったのか? 「退屈な10億年」という語は、地質学的にも、生物学的にも停滞しているように見える時期を表すものとして、古生物学者のマーティン・ブレイジアが考案した。 地球の歴史上少なくとも3回起こったとされる全球凍結(スノーボールアース)事象や、「カンブリア爆発」と呼ばれる生物多様性の急激な拡大といったドラマチックな激変とは異なり、この時期は、地殻の安定や気候の平衡状態を特徴とし、一見したところでは、生物の進化に関する展開もない。 この期間には、コロンビアやロディニアといった超大陸が形成されたが、比較的変化のない状態で保たれた。その一方で、地球大気の酸素濃度は、現代の呼吸可能な空気と比べて、はるかに低い水準に保たれていた。 地球は、安定した低エネルギー状態に閉じこめられていたのだ。 科学者たちはかつて、この時期には重要なことは何も起きなかったと考えていた。だが、この安定は停滞に等しいわけではない──実は、隠れた変革の時期を後押ししていた。生物史屈指の重要な進化的展開のいくつかが根付いたのは、まさにこの時期だった。 ・最初の真核細胞が現れ、あらゆる複雑な生物へと至る道が敷かれた ・有性生殖が発生した可能性もある。これにより、遺伝的多様性が大きくなった ・比較的単純なものにとどまってはいたものの、最初の多細胞生物が登場した さらにいえば、2018年3月に『Scientific Reports』で発表された研究によれば、この時期に起きた比較的穏やかな変化は、複雑さを生むために必要な前奏曲だった可能性があるという。 つまり、地球の生物圏を安定させる「退屈」な10億年を経たからこそ、より複雑な生物を支えるための準備が整ったというわけだ。 ■退屈な10億年の「酸素パラドックス」が、進化を妨げていた 退屈な10億年のなかでもひときわ不可解な点が「酸素パラドックス」だ。 およそ24億年前に起きた大酸化事変(Great Oxidation Event:光合成を行うシアノバクテリアの登場が引き金となったとされる)により、大気中の酸素濃度は劇的に上昇した。しかし酸素濃度は、そのまま上昇を続けることはなく、ほぼ10億年の間、横ばいだった。