子供に「はい、論破」と言われたら…「それってあなたの感想ですよね?」は小学生流行語ランク上位

 異なる意見の相手を否定し、自分の正しさを強調する「論破ブーム」が、子どもたちの世界にも広がっているという。相手より優位に立ちたいという気持ちが強く、「はい、論破」などの決めぜりふで会話を打ち切ってしまうこともある。背景を探ってみた。(野口季瑛)

子どもに言われたら

 「それってあなたの意見ですよね」。一般社団法人「アルバ・エデュ」(東京)代表の竹内明日香さんは昨年、ある小学校で、4年生の男児からこう言われた。竹内さんは普段、小中学校での出前授業で、議論やプレゼンテーション(発表)の方法を教えており、発声練習で「大きな声を出すには少し体を緩めて立ちましょう」と伝えたところ、食ってかかるような様子だったという。

 このほか、相手の発言を遮ったり、言いよどんだ隙に「はい、論破」と言い放ったりする子も。2022年頃から目立つと感じており、「ロジックがないことも多く、言い負かすことが目的化している。深い意図や悪意はなく、本人たちはかっこいいと思ってやっているようです」。

 こうした「はい、論破」などの決めぜりふはネットで広がり、子どもの世界でも使われ始めた。

 「それってあなたの感想ですよね?」は論客として知られる「ひろゆき」こと実業家の西村博之さんが使う言葉として知られる。ベネッセコーポレーションが発表した22年の「小学生流行語ランキング」では首位、23年も4位にランクイン。同社によると「友達が言い訳をしたとき」「先生などに『テストの点数が悪いな』と言われたとき」に用いるという。

 なぜ子どもはこうした「論破」に魅了されるのか。

 青山学院大教授で小児精神科医の古荘純一さんによると、小学校低学年から思春期前までくらいの子どもはこれまで、「お前の母ちゃん、でべそ」など、友達や大人との言い合いを楽しみながら社会性を身につけてきたという。一方で、最近の「論破」は従来のような言い合いによるコミュニケーションではなく、やり取りを遮断する点が特徴だとする。

 一因として、「自分の価値を認める『自己肯定感』の低さがあるのでは」と古荘さん。自信のなさが承認欲求に結びつき、攻撃的な言動につながることがあるという。

 23年度のこども家庭庁の調査によると、「自分自身に満足している」の問いに「そう思う」と答えた日本の子ども(13~20代)は17%。36%だったアメリカやフランスなどと比べて低く、古荘さんは「他者を思いやるためにも、子どもの自尊感情を育む必要がある」と話す。

 「子どもは社会の鏡。『論破』に夢中になっている大人をまねている」と指摘するのは、社会批評を中心に執筆する作家の物江潤さんだ。例えば、最近の選挙戦では、候補者が相手を論破するような様子が短い「切り抜き動画」となってネット上で拡散され、それが支持される。「短い言葉で分かりやすく、相手より優位に立ったように見せるパフォーマンス的な言動が好まれている」と分析する。

 では、どうしていくべきなのか。大阪大教授(現象学)の村上靖彦さんは、対話の重要性を社会全体で見直す必要があるとする。「立場や意見の異なる相手の言葉を忍耐強く聞いて、個別の複雑な事情を寛容に受け止めることは手間がかかる。しかし、そうした時間をショートカットすると、意見の応酬に終始するだけとなり、社会の分断を生むだけだ」と警鐘をならす。

 子どもとの接し方についても、村上さんは「例えば、大人はしゃべらず待つ。時間をかけ、子どもの話を聞く、議論する姿勢が求められるのではないか」と話している。

「やめなさい」はダメ、親の対応「論破ゲームだね」

 もし我が子から「はい、論破」と言われたとき、竹内さんがおすすめするのは「ラベリング」と呼ばれる手法だ。

 ラベリングとは言動にあえて名前をつけ、可視化する手法。例えば「また『論破ゲーム』が始まったのね」と「ゲーム」というラベリングをすると、子どもは次第にやり取りをゲームだと受け取るようになる。冷めて「論破」と言わなくなることもあれば、本当にゲームのように楽しみ、けんか腰ではない良いコミュニケーションに変化することも。「『やめなさい』とは言わないこと。相手と同じ土俵に乗らないように」と竹内さんはアドバイスする。

 一方、時間があるとき、真剣に話し合うのも一つの方法。「子どもの考えで尊重すべき点があれば、『その意見はいいね』と素直に認める。言い負かされるのは恥ではないという姿勢を見せることも重要です」

スマホ向けアプリ登場

 「論破」がテーマのスマホのゲームも登場している。AI(人工知能)と議論できるアプリ「論破少年まなぶくん」は、「子どものスマホ利用の是非」などのテーマで、「まなぶくん」というキャラクターとチャット形式で討論する。

 アプリは24年1月に発表され、ユーザーの多くが10~20代の子どもや若者だという。開発した「トーキョースマートゲームス」代表の深野真人さんは「論理的な思考力を鍛えたい人から、単にストレス発散したい人まで、幅広く使われているようです」と話す。

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