週刊エコノミスト Online
地球深部探査船「ちきゅう」が2月、小笠原諸島・南鳥島沖の海底から、レアアース(希土類)を含む泥の引き上げに成功した。レアアース国産化に向けて期待が集まるが、「レアメタルキング」と呼ばれ、半世紀にわたってレアメタル調達に携わってきた中村繁夫さんの目にはどう映るのか。(聞き手=伊藤奈々恵/桐山友一・編集部)
中村繁夫〈なかむら・しげお〉UMC会長 1947年京都市出身。74年、静岡大学大学院修士課程修了。専門商社の蝶理で約30年間、レアメタルの買い付け業務に従事。2004年、レアメタル専門商社アドバンストマテリアルジャパンを設立。社長を経て22年からレアメタルのコンサルティング業務を手掛けるUMC会長。半世紀にわたるレアメタル調達の経験から「レアメタルキング」の異名を持つ。
南鳥島沖のレアアースは「学術」「産業」「安全保障」の三つの観点に分けて考える必要がある。この三つを混同するから、過剰な期待や誤解が生まれてしまう。
まず学術的な観点から見れば、非常に意味がある。水深およそ6000メートルという深海から、実際にレアアースを含む堆積(たいせき)物を採取した。この事実そのものが、日本の国際的な存在感を高めることにつながる。国際学会や海洋資源を巡る会議の場で、日本は「ここまでやっている国だ」と示すことができる。
資源開発は実際に掘るかどうかという以前に、資源の存在を証明して把握していることが重要だ。日本は環境分野や海洋資源分野で必ずしも主導的な発言力を持ってきたわけではない。そうした中で、南鳥島沖の研究は、日本が発言権を持つための実績になり得る。
では、産業として成立するのか。答えは極めて難しい。確かに、南鳥島沖のレアアース泥は、魚の骨などに吸着したレアアースが由来で、ジスプロシウムやスカンジウムといった重希土類を多く含む。その一方、ウランやトリウムといった放射性物質は少なく、地表にある鉱石と比べれば製錬コストは抑えられる可能性がある。しかし、その前段階が致命的に高コストだ。
技術には応用可能性
水深6000メートルは約600気圧の環境であり、普通のものはすべて潰れてしまう。そこにパイプを下ろし、安定的に泥を吸い上げるコストが経済性に見合うとは思えない。また、南鳥島は日本本土から約2000キロも離れており、移動の時間や人的コストも膨大になる。正直、月から金を取ってくるようなものだと思う。アイデアとしては成立しても、非常に難易度が高い。
技術的には興味深いものが多い。例えば、スムージー状の泥をストローで吸い上げるような揚泥技術。これは単体で見れば、非常に優れた技術だ。企業にとっては、自社技術を示す材料にもなる。しかし、その「一つの技術」だけでは事業は成り立たない。
三つ目が、最も重要な外交・安全保障の観点だ。仮に商業開発が難しくても、「存在している資源」は外交カードになり得る。たとえば、日本と米国が権益を持ち、共同開発という形を取る。たとえ象徴的な意味合いにとどまったとしても、米海軍が周辺海域を巡回することになれば、それ自体が安全保障上の意味を持つ。尖閣諸島への抑止力、台湾有事への備えにもなるだろう。
また、技術開発としての価値も高い。6000メートルでは難しくとも、100メートル、200メートルの海底であれば可能性は広がる。日本近海には、コバルトリッチクラスト、マンガン団塊、熱水鉱床など、将来の資源開発につながる鉱物が存在する。南鳥島沖で培った技術が、そうした分野で生きるかもしれない。
週刊エコノミスト2026年5月19・26日合併号掲載
鉱物 大争奪戦 南鳥島沖のレアアース泥 中村繁夫氏 「“月から金を取ってくる”難易度 学術・安保とは切り分け必要」