【連載】トランプVS米名門大学「文化マルクス主義」との戦い(10)権威失墜するハーバード大

米マサチューセッツ州ケンブリッジにあるハーバード大学(UPI)

 トランプ米政権の圧力でコロンビア大学など東部の名門私大が相次いで改革要求に応じた。だが、トランプ政権には攻め落とすべき「本丸」が残っている。世界最高学府ハーバード大学だ。

 トランプ政権は4月、ハーバード大学に改革要求リストを突き付けたが、大学側はこれを拒否。政権は報復として、22億㌦の補助金凍結、留学生の受け入れ資格剥奪、非課税資格の剥奪示唆など、大学経営を直撃する圧力措置を次々に打ち出した。

 トランプ政権の要求の中で、特に重要なのが「意見の多様性」の促進だ。ハーバード大学は「多様性・公平性・包括性(DEI)」を推進し、人種的、性的少数者には寛容だが、“思想的少数者”、つまり保守派には極めて不寛容だからだ。

 ハーバード大学の学生新聞「ハーバード・クリムゾン」が教員を対象に実施している調査によると、2022年の調査結果では自身を「リベラル派」と答えた教員は82%に達する一方、「保守派」と答えたのは1%だった。保守派の教員は「絶滅危惧種」といっていい。

 「ハーバード大学の教授陣は長年、保守派教授を追放し続け、全高等教育機関の中で最も言論の自由に敵対的な環境をつくり上げた」。ジョージ・ワシントン大学法科大学院のジョナサン・ターリー教授は、米メディアへの寄稿でこう厳しく指摘している。

 非営利団体「個人の権利と表現のための財団(FIRE)」が毎年公表している大学の言論の自由ランキングでは、ハーバード大学は23年、24年と2年連続で最下位になり、特に23年はスコアがゼロだった。

 実際、大学幹部や教員からは、異論は許さないという主張が堂々と表明されている。ローレンス・ボボ社会科学部長は昨年、大学の指導部や方針を非難した教員は処分対象になると警告。LGBT活動家であるティモシー・マッカーシー教授は、トランスジェンダーへの性別適合治療に反対する教員は解雇すべきだと発言した。

 クローディン・ゲイ前学長は23年12月の下院公聴会で、「ユダヤ人虐殺を訴えることは、大学の行動規範に違反するか」との質問に、「文脈による」と明確に肯定せず、猛烈な批判を招いた。その後、過去の論文に盗用疑惑が浮上し、辞任に追い込まれたが、名門の権威を揺るがすスキャンダルと言っていい。

 ハーバード大学は黒人ら人種的少数派を入学選考で優遇する「アファーマティブ・アクション(積極的差別是正措置)」を長年続けていたが、アジア系らへの「逆差別」だとして訴えられ、23年6月に連邦最高裁から違憲判断を下された。

 人種的優遇措置によって入学基準を引き下げたことで、専門家からは学生の学力が低下しているとの指摘が出ていた。ハーバード大学が今年から高校数学の補習授業を導入せざるを得なくなったことは、その証拠だという見方がもっぱらだ。

 大学の統治機関である「ハーバード・コーポレーション」は現在、オバマ民主党政権で商務長官を務めたペニー・プリツカー氏が率いているが、卒業生で著名投資家のビル・アックマン氏は、プリツカー氏の下でハーバード大学は「特定政党のための政治活動団体」と化したと非難し、同氏の辞任を含め抜本改革を要求している。

 トランプ政権の圧力は「やり過ぎ」との批判が多い。だが、ハーバード大学の腐敗ぶりを見ると、改革実現には“劇薬”が必要と支持する声も少なくないのが実情だ。

 532億㌦もの巨額の基金を持つハーバード大学だが、トランプ政権の圧力で経営は揺らいでおり、政権との合意に応じざるを得ないと報じられている。

(早川俊行)

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