トランプ大統領の越権行為か、国内の軍派遣で広がる波紋-QuickTake
不法移民の強制捜査に対する抗議活動に、トランプ米大統領は数千人のカリフォルニア州兵を派遣しただけでなく、数百人の現役海兵隊員を動員した。国内の不測事態への対応としては、これは従来の慣行と一線を画した行為だ。ロサンゼルス市のバス市長とカリフォルニア州のニューサム知事は、部隊派遣は不要であり挑発が目的だと強く反発している。連邦政府が知事の要請なしに州兵を動員するのは、1965年以来。リンドン・ジョンソン大統領(当時)がアラバマ州の公民権デモ参加者を守るために投入したのが最後だ。
州兵とは
起源は17世紀の民兵にさかのぼる。連邦制度に組み込まれたのは1903年。現在は全米32万5000人余りで構成し、人員の大半は地元で募集される。通常は知事の指揮により、森林火災や洪水といった災害に対応する。治安維持での任務はまれだが、2021年1月6日には、トランプ氏支持者による襲撃から連邦ビルや当局者を保護するために動員された。
国外に派遣されることもあり、両大戦では欧州戦線に投入されたほか、ベトナム戦争やイラク、アフガニスタンなどにも送られている。
派遣の権限と目的
州兵の出動を定めているのは合衆国法典第10編(州統制)と第32編(連邦統制)。トランプ氏は後者を用いた。歴代大統領も暴動時に州兵を派遣した例はあるが、ほぼ全て知事の要請に基づいていた。白人警官による黒人暴行事件を発端にロサンゼルスで暴動が起きた1992年、当時のジョージ・H・W・ブッシュ大統領は知事と市長の要請を受けて州兵を派遣した。
米国内での活動制限
国内での連邦軍展開には、1878年制定法と関連規制、その修正条項によって厳しい制限があり、事実上禁じられている。ただし1807制定の「反乱法」にはこれに対する例外規定が存在し、大統領は一定の条件を満たせば議会の承認なしに軍を動員できる。トランプ氏は6月7日の大統領布告で、「外国による侵略もしくは反乱、あるいは反乱の危機」を根拠に第10編の規定を適用した。しかし国内での民間人に対する法執行はやはり禁じられている。
大統領布告はヘグセス国防長官に「合理的に必要な行動」として軍を指揮する権限を付与。移民当局や連邦職員の保護に軍を使う可能性が示唆されたが、武力行使の可否は明らかでない。トランプ政権は州政府が秩序を回復できていないと主張し、部隊派遣を正当化する一方、ニューサム知事は反乱も侵略も存在しないとして、大統領を提訴した。トランプ氏による越権行為かどうかは法廷の判断に委ねられる。議会が新たな法案を可決しない限り、大統領権限の見直しは見込めない。
過去に問題化した例
1957年、アーカンソー州知事が黒人学生の高校登校を止める目的で州兵を派遣。アイゼンハワー大統領が陸軍を派遣して秩序を回復させ、黒人学生を護衛した。
最も有名なのは1970年にオハイオ州で起きたケント州立大学銃撃事件で、ベトナム反戦運動に参加していた学生らが州兵に銃撃されて死亡した。
最近ではトランプ氏の大統領1期目の2020年、ジョージ・フロイドさんが白人警官に殺害された後、ミネアポリスで起きた抗議活動の制御目的で、複数の州知事が州兵動員を容認した。当時のエスパー国防長官は後の議会証言で、トランプ氏が現役軍隊の派遣を意図していたが、何とか踏みとどまらせたと語った。
トランプ氏は23年、2期目を目指す選挙演説で、複数の都市を「犯罪の巣窟」と呼び、過去には軍投入を控えたが今後はより強硬策をとると表明した。
原題:Why Trump’s Use of Military in US Is So Controversial: QuickTake(抜粋)