【128】妊娠中のカルシウム摂取と子どもの精神的健康にはどのような関連性があるのか?|シティリビングWeb

こんにちは。産婦人科医の齊藤英和です。 今回は、妊娠中の母親のカルシウム摂取量が、子供のうつ症状の発症リスクと関連しているかどうか?について、妊娠中の母親のカルシウム摂取量と出生後13歳の時点での子供のうつ状態の発症リスクについて研究をしている研究論文についてお話しします(Miyake Y, et al. J Psychiatr Res. 2025;187:80-84)。

妊娠中にカルシウム摂取量が多いと、13歳時の子供のうつ症状のリスクが低い

カルシウムが不足すると、骨折や骨粗しょう症など、骨の病気の原因となることはよく知られています。これは体に存在するカルシウムの大半が骨に貯蔵されていることによります。

しかしそれ以外にも、カルシウム不足は高血圧や動脈硬化、脳の神経細胞の働きを低下させて認知症、細胞の免疫力を低下させ、癌化などの原因となっています。

このように、カルシウムの働きは骨をつくることだけでなく、各臓器の細胞の代謝にも大切な作用を持っています。

今回の研究論文では、2017年に、5件の研究を用いたメタ分析が行われ、カルシウムを摂取するとうつ病リスクが有意に減少することが報告されました。現在では栄養バランスの偏りや特定の栄養素の不足は、うつ症状の発症リスクを高める可能性があると考えられるようになっています。

研究対象者の母親は、九州地方の7つの県と沖縄県のいずれかに居住しながら妊娠した女性で、2007年4月から2008年3月の間にリクルートされています。結果として、妊娠5週から39週の妊婦1757人がこの研究への参加し、初期の調査を完了しています。

その後継続して、出生時、産後4ヶ月、1歳、2歳、3歳、4歳、5歳、6歳、7歳、8歳、10歳、11歳、12歳、13歳時点で追跡調査が実施されました。初回時点に1757人が登録され、このうち、878組(49.9%)の母子ペアが15回目(13歳時点)までの調査に参加しました。さらに一部のデータが不足している5組が削除され、最終的なサンプルサイズは873組となりました。

13歳時追跡調査では、子供がCenter for Epidemiologic Studies Depression Scale(CES-D)の日本語版に回答し、うつ症状の評価を行いました。また、母親の妊娠中の食習慣に関するデータは、自記式食事歴法質問票(DHQ)を用いて収集しています。

873組において、子供の13歳時うつ症状の有症率は23.3%でした。最初の調査時の平均妊娠週は17.0週、母親の平均年齢は32.0歳であり、約18%が妊娠中にうつ症状を呈しました。1日のカルシウム摂取量の中央値は482.5mgでした。

次に、初回調査時の母親の年齢、妊娠週数、両親の教育歴などで補正した多重ロジスティック回帰分析により、妊娠中の母親のカルシウム摂取量別にみた、13歳時の子供のうつ症状に対するオッズ比(OR)を算出しました。その結果、妊娠中の母親のカルシウム摂取量の第1分位(最低摂取量)を基準として比較した場合、第2、第3、第4分位における子供のうつ症状の補正OR(95%信頼区間)は0.63(0.39~0.99)、0.91(0.58~1.41)、0.58(0.36~0.93)でした(P=0.10)。

本研究より、妊娠中の母親のカルシウム摂取量を増やすことで、13歳時の子供がうつ症状を発症するリスクが低下する可能性が示唆されました。このことより、小児期のうつ症状を予防する可能性のある手段として、妊娠中の母親のカルシウム摂取を増加させることが考えられます。妊娠中は、いろいろな点で、健康管理が重要ですね。

PROFILE齊藤英和先生

1953年東京生まれ。梅ヶ丘産婦人科ARTセンター長。昭和大学医学部客員教授。近畿大学先端技術総合研究所客員教授。国立成育医療研究センター臨床研究員。浅田レディースクリニック顧問。専門分野は生殖医学、特に不妊症学、生殖内分泌学。

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