コカインが混ざった水で育ったタイセイヨウサケ、1.9倍の距離を泳ぐ

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コカインを食べたクマがハイパーハイになるって映画はあったけれど、コカインが混ざった水で育ったタイセイヨウサケは、泳ぐ距離が伸びるのか……。

国際共同研究によって、コカイン由来の化学物質が野生のタイセイヨウサケの行動を変えている可能性が初めて示されました。研究の舞台はスウェーデンのヴェッテルン湖。 グリフィス大学、スウェーデン農業科学大学、ロンドン動物学会、マックスプランク動物行動研究所の共同で実施されたこの研究では、科学者たちがタイセイヨウサケの稚魚約105匹を8週間追跡し、薬物に汚染された水環境が実際の生態系に与える影響を調べました

これまで薬物が魚に与える影響は主に実験室で研究されてきましたが、野生環境での証拠が示されたのは今回が初めてです。INTERESTING ENGINEERINGが伝えました。

汚染されたタイセイヨウサケはより遠くへ泳ぎ続ける

研究チームは魚を3つのグループに分け、コカインまたはその代謝物に曝露された群と、特定の治療または介入を受けない対照群を比較しました。その結果、体内でコカインが分解されて生まれる「ベンゾイルエクゴニン」に曝露されたタイセイヨウサケは、明らかに行動が変化していました

汚染された魚は、汚染されていない魚の約1.9倍の距離を毎週泳ぎ、通常の行動範囲を大きく超えて湖の奥深くまで移動していました。最大で12.3kmも遠くへ拡散したものも確認されました。さらに時間が経つほど、この過活動は強まっていったんです。

ちなみに、タイセイヨウサケは日本に生息するサケとは異なり、産卵しても寿命を迎えることなく、海に戻ってきて複数回産卵する個体もいることで知られています。タイセイヨウサケにとって、移動は生きる上で当たり前のことなんですが、泳ぎ続けられるようになることが良いわけではありません。まず、エネルギーを消耗してしまいます。それに、捕食者の多い場所に入り込んだり、回遊に必要な環境の手がかりを見失う可能性もあります個体の行動変化は、やがて食物網全体のバランスを揺るがしかねません。なので、やはり薬物の介入はご遠慮願いたいわけです。

コカインは湖に捨てられているわけではない

というか、ここまで読んでいて「そもそも何で湖にコカインが? 」と思っていたことでしょう。別に、誰かが意図的にコカインを湖に流していたというわけではありません。

現代の下水処理施設は、医薬品や違法薬物の微量成分を完全に除去できません。その結果、河川や湖は抗うつ薬や避妊薬、刺激薬などが混ざった化学スープ状態なんです。

今回の研究で特に重要なのは、コカインそのものよりも、体内で分解された代謝物の方が強く行動に影響した点です。通常のリスク評価は元の薬物に注目しがちですが、環境中では分解後の物質がより強く作用する可能性があることが示されました。

研究者は、人間が魚を食べても健康リスクはないと説明しています。今回の研究対象は若魚であり、化学物質は時間とともに分解されるためです。ただし、生態系への影響は深刻に受け止める必要がありそう

「野生生物はすでに日常的に人間由来の薬物に曝露されています。驚くべきなのは実験ではなく、私たちの水環境の現状です」と研究者は語ります。

今後は、どの生物が最も影響を受けやすいのか、そしてこの過活動が長期的に生存や繁殖にどんな影響を与えるのかが調べられる予定です。

人間の生活から流れ出た化学物質が、静かに野生動物の行動を書き換えているんですね。巡り巡って結局は人間に戻ってくるのだから、どうにかしなければならないと思いますが、果たしてどこから見直していけばいいのでしょう。

Source: INTERESTING ENGINEERING

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