[社説]トランプ米大統領はこれ以上世界壊すな

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あるべき規範が損なわれ、ルールに基づく国際秩序は瓦解の瀬戸際に立つ。トランプ米大統領が就任して20日で1年を迎えるいま、多くの人たちがこう感じている。

この流れが残り任期3年も続けば、世界のありようは望ましい姿からほど遠いものになるだろう。トランプ氏にはこれ以上、世界を壊す振る舞いを避けるよう、自制を強く求める。日本もまた同志国と手を携え、世界の安定へつながる行動を米国から引き出すために力を尽くさねばならない。

トランプ氏はこの1年で戦後の秩序を形づくってきた柱に多くの打撃を与えた。その最たる例が自由貿易体制である。世界貿易機関(WTO)のルールを無視し、相手を選ばない高関税は世界経済を大混乱に陥れた。

世界に張り巡らせてきた同盟国との協調関係もきしむ。ロシアへの融和姿勢が際立つウクライナ戦争の停戦交渉は、欧州の北大西洋条約機構(NATO)加盟国の失望を招いた。武力行使もいとわないデンマークの自治領グリーンランド併合への執着は、NATOの存在意義が根底から問われる前代未聞の事態といえる。

イランやベネズエラへの一方的な軍事行動をみれば、トランプ氏が自任する「平和の調停者」の役割は疑問符がつくといわざるを得ない。力任せに現状変更を迫る手法は中国やロシアといった専制国家と変わらず、民主主義国家のリーダーに到底ふさわしくない。

多国間協力を推進してきた多くの国際機関から脱退を決め、気候変動や貧困撲滅、公衆衛生といったグローバルな課題の解決は一段と遠のく。その隙を突いて中国が途上国への影響力を増しつつあるのは憂慮すべき状況だ。

標的となるのは米国内も例外ではない。連邦職員の大量解雇に踏み切り、米国際開発局(USAID)をはじめ行政機構の解体を推進した。多くの専門知が失われ、政権交代があったとしても修復は容易ではないとの見方が多い。

11月の中間選挙をにらみ、トランプ氏の独善的な対応に拍車がかかる公算は大きい。ただこうした自国第一主義の多くに、同氏の岩盤支持層が喝采を送っている現実も見過ごしてはならない。

格差の拡大や不法移民の流入に危機感を強める彼らの心情は理解できる面もある。だからといって人種や性別に配慮するDEI(多様性、公平性、包摂性)重視の見直しに応じない大学に圧力をかけたり、留学生や移民を強制排除したりするのは行き過ぎだ。中長期的に米国の活力をそぐマイナス面にも目を配るべきだ。

まして異論の排除や政敵潰しを進めるのはもってのほかだ。中西部ミネソタ州ミネアポリスで米国人女性が移民・税関捜査局(ICE)の職員に撃たれて死亡した事件で、トランプ政権は抗議デモの鎮圧に連邦軍の投入を示唆した。このような強権的な手法は国内の分断を固定化しかねず、言語道断である。

言論の自由への弾圧は目に余るほどだ。意に沿わない報道をしたとして報道機関を提訴したり、取材機会から排除したりする事例は枚挙にいとまがない。民主主義の基盤を脅かすこれらの措置はすべて撤回すべきだ。

政権中枢に共和党の主流派もいた第1次政権と違い、歯止め役はみあたらない。選挙での報復を恐れ、与党の共和党が批判を控え気味なのは残念というほかない。

期待を寄せたいのが行政、立法とともに三権分立の一角をなす司法の役割である。トランプ関税や移民規制にブレーキをかける判決もあったのは心強い。米国の民主主義がその強靱(きょうじん)さと健全性を示せるのかを注視しなければならない。

多くの国はこの1年、トランプ流に振り回されてきた。日本を含む各国は世界の安定に向けて中長期の戦略を練り、政策面で国際的な連携を打ち出す余裕がほとんどなかったと言ってよい。自由な国際秩序を維持できるのか正念場に差し掛かっているいまこそ、日本は世界が協調路線に戻るよう、主導的な役割を果たすべきだ。

日本が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」はその指針になり得る。国の大きさを問わず主権を尊重し、重層的な協力のネットワークを広げるこの構想に磨きをかける必要がある。

世界の転換点における日本外交の針路は、2月に想定される衆院選でも重要な論点だ。各党は内向きの人気取り競争におちいることなく、活発に議論してほしい。

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