骨髄バンク辞退の1割「都合」が理由 ためらわず仕事を休み誰かの命救うドナー休暇普及を
白血病などの疾患から命を救う造血幹細胞移植。患者とドナー(提供者)の白血球の型が適合しても、ドナーが仕事を休めずに断念する例もある。10月は「造血幹細胞移植普及推進月間」。誰かの命を助けるために取るドナー休暇の定着など、企業の環境整備が求められている。
平日の通院、仕事休めない
日本骨髄バンク(東京)によると、健康な人からの造血幹細胞の移植を待つのは白血病や、再生不良性貧血、先天性免疫不全症などの患者1721人(令和8年3月末時点)。
提供側となるドナー登録者は8月末時点で56万5196人に上るが、ドナーと患者の白血球の型が一致しないと移植はできない。中には数万人に1人程度しか見つからない型もあり、登録者を増やす必要がある。
型が一致しても提供に至らない場合もある。7年度はドナーの適合通知を送った1万9544人のうち2145人が「都合がつかない」との理由で辞退した。
背景にあるのが時間的な負担だ。指定された病院と日程で事前検査を受け、提供する際は入院する。そのため平日におよそ10日程度を割く必要がある。多くの患者を救うにはドナー登録の増加に加え、ためらわずに提供できる仕組みと社会の理解が求められる。
制度周知して後押しする企業も
休暇制度で社員の社会活動を後押しする会社もある。「献血の際に骨髄バンクに登録したら適合の連絡が来て。役立つならとドナーになることを決めた」。こう語るのは、昨年12月、横浜市内の病院で造血幹細胞のドナーとなった会社員、當銘(とうめ)梨夏さん(32)だ。事前の健康診断などで半日休を3回、白血球を増やす薬の注射や造血幹細胞採取の入院などで丸4日、有給のボランティア休暇を取得した。
當銘さんは腕の血管から造血幹細胞を採る「末梢(まっしょう)血幹細胞採取」で行った。腕から取り出した血液を分離装置にかけて造血幹細胞を採取後、残りの血液を体に戻す手順で、3時間、両腕に管を挿し寝そべった姿勢で行った。成分量が目標に届かず、翌日も脚の付け根から追加採取した。
「緊張したが痛みもそれほどなく、退院後の生活に影響はなかった」と振り返り、「リレーのように連携して初めて命を救う仕組みが成り立つのを実感した」と話した。
當銘さんの勤務先、あいおいニッセイ同和損害保険は、社会貢献活動に参加する社員に年間最大12日間のボランティア休暇を付与する。當銘さんの例を機に改めて社内で制度を周知したところ、9月時点で、社員の延べ申請日数が昨年の3倍程度になった。取得目的は被災地の復旧支援やPTA、地域貢献活動など。「自主的に社会活動に気兼ねなく参加する風土を作っていく上で休暇制度は重要」と人事部の中冨正人・担当課長は話す。
「命のリレー」に応援ムード広げて
日本骨髄バンクによるとドナー登録者の4割が20~30代の働き盛りだ。ドナーになるには平日に会社を複数回、休む必要があり、同僚への遠慮があると休めず、辞退を招きやすい。希望者が気兼ねなく活動できるよう、同バンクは企業にドナー休暇の普及を呼びかける。同バンクの広報渉外担当者は、「誰かを助けるために仕事を休むことに周囲の理解と応援ムードが広がれば、職場や会社への愛着(エンゲージメント)向上にもつながる」と副次的な影響を示唆した。
健康面からドナー登録できない人もいる。しかしドナーになる人の仕事の穴を埋めたり背中を押したりして支えれば、命のリレーをつなぐ「助け」となれる。(津川綾子)
造血幹細胞移植
白血病などの血液疾患の治療法。新しい血液を作る力のある造血幹細胞をドナーから採取し、患者に移植する。かつてはドナーに全身麻酔をかけ、骨盤にある腸骨の骨髄から造血幹細胞が含まれた骨髄液を採取する方法が主だったが、平成22年に腕の血管から血液を取り出し、造血幹細胞を分離して、残りの血液を体に戻す「末梢血幹細胞採取」が導入された。現在は、患者の状況などに応じて、これら2つの方法から採取方法が選択されている。ほかに、へその緒の臍帯(さいたい)血から造血幹細胞を採取して移植する方法もある。