日本の「空き家」を約345万円で買った、50代オーストラリア人夫婦。退職プロジェクトとして復元を試みる

デボラとジェイソンのブラウン夫妻は日本の田舎で空き家を買った。

NekoAshi Japan.

  • デボラ・ブラウン氏とジェイソン・ブラウン氏の夫妻は2023年に、日本の田舎に建つ廃屋を2万3000ドル(約345万円)で買った。
  • オーストラリア人夫妻は、退職時期の近づくこれからの数年をかけて、その家を修復するつもりだ。
  • 日本で住宅を所有するには地域コミュニティに溶け込むことがとても重要だと、夫妻は語る。

デボラ・ブラウン氏とジェイソン・ブラウン氏の共通の夢は、日本で家をもつことだった

オーストラリアのブリスベン出身の夫妻は、以前から日本の文化と生活様式に興味をもち、過去にも何度も日本を訪れたことがある。

2023年、ふたりはついに勇気ある一歩を踏み出すことにした。子供たち4人が成人し、まもなく全員が巣立っていく。夢を叶えるなら、今しかないと思ったのだ。

デボラ氏が1990年代に大学で日本語を学んだことをきっかけに、夫妻は日本に引かれるようになった。

NekoAshi Japan.

「日本に空き家問題があると知った。日本のライフスタイルも、人々も、文化も、古くからある伝統的な家屋も本当に気に入っていたので、チャレンジしない理由はないと思った」。51歳のジェイソン氏がBusiness Insiderに語った。「ほかのみんなも夢を追っているのに、自分たちにそれができない理由があるだろうか?」

生涯途切れることのない日本とのつながり

夫妻の日本愛はデボラ氏が始まりだった。1990年代に大学で日本語を学んだのである。卒業後、彼女は5年間を東京で暮らし、英語教師として働いた。また、30年間にわたって空手も習った。

彼女の日本愛がジェイソン氏にも感染した。

しかし、夫妻が”空き家”と呼ばれる日本の廃屋の存在を知ったのは、コロナ禍のころだった。

夫妻の話では、この空き家は1868年に建てられたそうだ。

NekoAshi Japan.

人口の減少と都市への集中化の影響で、日本の地方には何百万件もの空き家がある

近年、日本政府は改修補助金の支給、それどころか無料物件など、さまざまなインセンティブを提供してきた。「ゴーストタウン」に人を呼び寄せるためだ。

「私は空き家の存在が世間に知られる前に日本で物件を買おうと思って、もう何年も前から抵当流れになった物件を観察してきた。だが、私にはまだ若い子供たちがいた」と、52歳のデボラ氏がBusiness Insiderに語った。

いちばん下の子が18歳になった今、夫妻にとっては、退職も含めて、人生の次のステージを計画するのに完璧なタイミングがめぐってきた。空き家を買うときが来たのだ。

「私たちは打ち込める何かがほしいと思った。『いきがい(ikigai)』という言葉が示すように、私たちも立ち上がり、自分たちの情熱を注ごうと思った。子供たちは育て終えたので、できるだけ日本に行って、いろいろ探ってみようと」とビジネスアナリストのデボラ氏は言う。

引退時期が近づきつつある夫妻は、人生のプロジェクトを探していた。

NekoAshi Japan.

しかしながら、当時の日本は国境を閉ざしていたため、夫妻はもっぱらインターネットで物件を探した。Facebookグループに参加し、同じ目的をもつ人々と交流して、空き家探しの方法を学んだ。

夫妻は都会を離れ、自然のなかで暮らしたいと願った。ネット上のリストを眺めながら、渡航がふたたび可能になったら、自分たちの目で見てみたい物件をリストアップした。

「ほしい物件、つまり古めで、かなり伝統的なものとマッチしているものを探した」と、建設現場の健康と安全を管理する仕事をするジェイソン氏が言う。

国境が開放されたあと、2022年11月、夫妻はすぐに飛行機に飛び乗った。

2023年4月、夫妻は6週間の予定で日本を訪れ、リストアップした物件を車で見て回った。

目指すは、空き家を改修して以前の輝きを取り戻し、さらに現代的な設備も整えること。

NekoAshi Japan.

ふたりは島根県益田市の美都町に完璧な空き家を見つけた。明治時代の1868年に建てられた伝統的な日本家屋だ。益田市は広島から車でおよそ2時間、東京から飛行機で90分の場所にある。

「車で到着してその家を見たとき、これだと思った。それ以上、ほかの物件を見ることさえしなかった」と、デボラ氏は言う。

ふたりが見つけるまで、その物件は12年にわたって空き家となっていた。1900年代前半までは酒蔵として使われていたそうだ。

その物件を内見するためには、地元の「空き家バンク」にいくつかの申請書を提出しなければならなかった。空き家バンクとは、廃屋や空き家を管理している地元自治体が設けているデータベースのことだ。

この空き家は、一時期は酒蔵として使われていた過去があり、片付けていたときに酒造りの道具などが見つかった。

NekoAshi Japan.

「審査は厳しかった」とデボラ氏は言う。「書類はすべて日本語で、申請書には、家族や職業などを詳細に書かなければならなかった。別の申請書では、購入する目的、その家を使って何をするつもりかなどを記入した」

退職計画

2023年8月、夫妻は350万円、換算しておよそ2万3000ドルを支払った。

その家は日本式の表現で7LDKの広さだ。7つのベッドルームに、リビングルーム、ダイニングルーム、キッチンがそれぞれひとつという意味である。

集落にはおよそ300の家があり、ふたりの空き家は公民館につながる道沿いに建っている。買った空き家から田んぼを越えた場所にはセブン・イレブンもある。

これまで庭を整えたり、駐車スペースまでの私道部分に砂利を敷いたりするなど、家の前を整備してきた。キッチン部分の改修も終え、バスルームを新しくするために古いトイレも撤去した。

夫妻は350万円でこの空き家を買った。

NekoAshi Japan.

「目的は、いくつかの近代的な設備も取り入れたうえで、この家にかつてのような輝きを取り戻すこと」とジェイソン氏は言う。

古い家を改修するというチャレンジへ向けて準備をしていたころ、夫妻はヘビやクモなども含め、日々遭遇する野生動物の多さに驚いた。

「サルもいる。ムカデも、クマも、スズメバチもいる。家のなかにも入ってくるし、本当におっかなくて……今となっては笑える話だけれど」と、デボラ氏が言った。

ジェイソン氏にとっては言葉の壁も頭痛の種で、今は日本語講座に通っている。

「私はデボラと違って日本語ができないので、今は彼女に大きな重圧がかかっている」と彼は言う。「ここは多くの人が英語を話せる東京や京都とは違う」

夫妻はオーストラリアと日本を行ったり来たりしている。

NekoAshi Japan.

夫妻は今後数年をかけて、このプロジェクトを少しずつ進めていくつもりだ。改修作業を記録して、自分たちのYouTubeチャンネルで公開している。

「時間がないわけでも、この家を利用して収入を得ようとしているわけでもない。エアビーアンビー(Airbnb)で貸したりするつもりもない。私たち夫婦のための家だ」とデボラ氏は言った。

夫妻は今もブリスベンを本拠として働いている。デボラ氏の話では、「5年から8年後」に完全に仕事をやめるまで、日本とオーストラリアを行ったり来たりする予定だ。

地域社会への参加

夫妻がオーストラリアにいるときは、空き家には誰も住んでいないが、数台のカメラを設置したので、敷地を監視できるそうだ。

また、夫妻は空き家の取引を担当した不動産業者とも親密になった。その彼が夫妻に代わって週に1回、異状がないか確認してくれている。

地元コミュニティと良好な関係を結ぶのは空き家所有者の義務だと夫妻は言う。

NekoAshi Japan.

ふたりの空き家プロジェクトにとって、地元住民やより広いコミュニティと良好な関係を結ぶことが極めて重要になる。

「私たちはここですでにサポートネットワークを得たが、それは簡単に手に入るものではない。積極的にネットワークを築かなければならない」と、デボラ氏は言う。

彼女の話では、到着したその日から地元コミュニティに歩み寄り、町内会にも参加したそうだ。

実際、夫妻は地域社会への参加こそが、日本で空き家を買う際に最も重要な側面だと言う。

9月、地域住民とともに地元の川を清掃するために、夫妻はオーストラリアから日本へ飛んだ。

NekoAshi Japan.

この点もまた、地元の空き家バンクが、夫妻がなぜ物件を購入するつもりなのかを詳しく知ろうとした理由だと、ジェイソン氏は言う。

近年、価格が手ごろであるだけでなく、日本は外国人が不動産を買うことに制限をかけていないこともあって、古い廃屋を買う外国人が増えている。多くの人にとっては、自国で不動産を所有するよりも、日本で空き家を買うほうが安上がりなのだ。

「ほとんどの場合、購入希望者は内見や購入申請の前に、物件を買う理由を尋ねられることになる」とBusiness Insiderに説明するのは、東京に本拠を置く不動産会社ブラックシップ・リアルティ(Blackship Realty)の共同創業者であるアレックス・シャピロ氏だ。

そして、地方自治体は、本当にそこに住み、地域社会に貢献し、地方税を支払う購入希望者を優遇すると付け加えた。

しかし、空き家に関するコンサルティングサービスを提供しているアキヤヘブン(Akiya Heaven)の共同創業者であるサミ・セヌーシ氏がBusiness Insiderに話したところによると、どの自治体も独自のルールを設けている。

「いくつかの地方自治体、特に高齢の自治体は、地元の特徴や文化を保存するために厳格なガイドラインを引くことが多い」とセヌーシ氏は言う。東京も含めて、より都会的な場所では、そのようなことはあまりないそうだ。

加えて、購入希望者は、特に状態の悪い空き家に関しては、家の修復に必要となる経済力を有していることの証明が求められることもある。

実際、空き家そのものは比較的手ごろな価格かも知れないが、修理費用はあっというまに膨れ上がる可能性もあると、ジェイソン氏が指摘した。

「かなりの時間と努力、そして資金を注ぎ込む必要がある。加えて、社会的な責任も。コミュニティにただ現れて、何もしないというのはありえない。家にかけるのと同じぐらいの時間を、コミュニティのためにも費やし、人々との絆を太くする必要がある」

関連記事: