日本語入力「ATOK」が基本プラン廃止→値上げに困惑の声 運営会社の見解は?

山口健太ITジャーナリスト
ベーシックがプレミアムに一本化され、月額料金は2倍になるという(ジャストシステムのWebサイトより、筆者撮影)

日本語入力システム「ATOK(エイトック)」が基本プランを廃止し、上位プランに一本化することを発表したことで、利用者から困惑の声が上がっています。

対象者は月額料金が330円から660円へ2倍に上がることになります。解約する人も出てきそうですが、なぜ変更が必要だったのでしょうか。

ATOKは月額660円のプレミアムに統一へ

最近のジャストシステムはスマイルゼミなどの教育事業のほうが有名になった感はあるものの、古くからのパソコンユーザーには「一太郎」や「ATOK」のイメージが残っているかもしれません。

スマホやパソコンに標準で日本語入力機能は用意されているものの、変換の精度などから有料でもATOKを使う人は一定数残っているようです。筆者も1990年代から使い続けています。

現在のATOKは月額料金制のサービス「ATOK Passport」に移行しており、料金プランはベーシック(月額330円)とプレミアム(月額660円または年額7920円)の2種類でした。

今回物議を醸しているのは、これをプレミアムに一本化するという発表です。これまでベーシックを使っていた人はプレミアムに自動的に移行され、2026年2月から料金が上がる予定です。

プレミアムではiOS版のアプリが提供されていること、また「クラウド文章校正」や「クラウド辞典」などベーシックと比べて機能面で違いがあることはたしかです。

ただ、これまでベーシックを使っていた人はそれらを不要と判断していたと思われます。なぜプランを統一するのか、ジャストシステム広報からは以下のような回答がありました。

「今回、ATOK Passportは、『ATOK MiRA』『ATOK Sync One』をはじめとした機能強化を行い、この提供価値に見合うよう、商品ラインナップの見直しを行いました。今後も商品の品質を向上させ、日本語入力における体験価値を高めてまいります」(ジャストシステム広報)

プランの改定については、ATOK Passportの使用許諾契約書に基づいて実施するとのこと。利用者向けにはメールなど複数の手段で移行方法を案内していくとしています。

新機能の中で、「ATOK MiRA」ではついに生成AIの活用に踏み切っています。これまでのATOKは変換エンジンにディープラーニング技術を使いつつも、大規模言語モデルについては信頼性などの観点から距離を置いてきました。

狙いとしては、「ただ文章を生成するのではなく、ユーザー様の中でアイデアがあるものを具体化することを支援する」(ジャストシステム ソリューションストラテジー事業部 企画開発グループの平林薫氏)と説明しています。

詳細は開示していないものの、クラウド側の処理を組み合わせた機能とのことから、コストがかかっている面はありそうです。ATOKが最後に値上げしたのは2021年となっており、その後のコスト増を価格に転嫁すること自体はやむを得ないといえそうです。

ただ、気になるのは「プレミアムは据え置き」という点です。すでにプレミアムの人は生成AIやArm版Windows 11へのネイティブ対応などの新機能をこれまでと同じ料金で使うことができます。

一方で、ベーシックだった人は好むと好まざるとにかかわらずプランを一本化され、値上げを負担させられる構図になっています。これが不満の根底にあるといえそうです。

ベーシックプランは2026年1月8日に自動的にプレミアムに移行されますが、実際に料金が上がるのは2月1日です。ジャストシステムでは、値上げ前に利用をやめたい場合は2026年1月31日までに解約するよう案内しています。

プラン移行のスケジュール(ジャストシステムのWebサイトより)

サブスク値上げの新たな事例に

ソフトウェアの買い切りモデルからサブスクモデルへの移行で最大の成功事例とされるアドビでも、値上げのたびに不満の声は上がっています

ライトユーザーを含めて利用者が多かったと思われる20GBのフォトプランは廃止されましたが、それまでの利用者向けに年間払いであれば料金がほぼ据え置きになるという救済措置が用意されました。

その対抗としてよく名前が挙がるAffinityは、基本的なアプリが無料化され、付加的なAIサービスを有料で提供することで収益を確保するモデルになっています。

そういう意味では、ATOKについても生成AIなどの新機能をプレミアムのみに限定し、プレミアムだけを値上げするほうが丸く収まったのではないかと思うところはあります。

一方、プランの一本化により製品構成はシンプルになり、契約管理や開発、テストなどのコストは確実に下がると予想されます。ベーシックの利用者が一部離脱する可能性を許容してでも、それを上回るメリットがあったのでしょうか。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、2012年にフリーランスのITジャーナリストとして独立。日経クロステック(xTECH)やASCII.jp、ITmedia、マイナビニュースなどの媒体に寄稿し、2021年からは「Yahoo!ニュース エキスパート」として活動しています。

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