立花孝志氏、選挙ポスターで名誉毀損か…書類送検 「不倫騒動を許すな」で罪は成立する?

7月の参院選宮城選挙区において、対立候補者の名誉を選挙ポスターで傷つけたとして、11月19日、「NHKから国民を守る党(NHK党)」の代表である立花孝志氏ら3名が名誉毀損の疑いで書類送検されたことが報じられました。 【弁護士解説】立花孝志氏、選挙ポスターで「不倫騒動を許すな」は名誉毀損か 報道によると、立花氏と、NHK党の宮城県選挙区の候補者として出馬した前田太一氏、党関係者の女性は、立憲民主党から立候補した石垣のりこ議員の週刊誌報道に関する内容を記した選挙ポスターを掲示して、石垣議員の名誉を毀損した疑いが持たれています。石垣議員の代理人弁護士は前田氏を7月に宮城県警に刑事告訴していたそうです。 本件が名誉毀損罪として有罪になる可能性はあるのでしょうか。立花氏は、すでに亡くなった元兵庫県議に対する名誉毀損の疑いで逮捕されていますが、そのことはどのように影響するのでしょうか。

書類送検とは、警察から検察へ捜査書類と被疑者の情報を送る手続きのことで、現時点ではまだ起訴されるかどうかの判断は出ていません。 名誉毀損罪は、「公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した」場合に成立します(刑法230条1項)。「摘示」とは、事実を示して人に知らせることです。 選挙ポスターの掲示は、不特定多数の人が見ることができるため「公然性」を満たします。 また、不倫や不倫騒動といった事実は一般に社会的評価を低下させるものといえるでしょうから、「事実の摘示」と「名誉毀損」の要件も満たされることになります。

しかし、刑法230条の2第1項では、摘示した事実が公共の利害に関するものであり、かつ、その目的がもっぱら公益を図ることにあったと認められる場合には、事実が真実であることの証明があったときは罰しないと規定されています。 つまり、公共性・公益目的があり、かつ真実であれば、名誉毀損罪は成立しないということです。さらに、公職の候補者に関する事実については、同条3項により特別な扱いがされています。 同項は、公務員または公選による公務員の候補者に関する事実については、事実の真否を判断し、真実であることの証明があったときは罰しないと定めています。 そのため、被告人側が公共性や公益目的を個別に立証する必要はなく、事実が真実であることを証明すれば処罰されないことになります。 この規定が設けられているのは、国民が公務員を選ぶ権利(憲法15条)を適切に行使するためには、候補者の資質や能力に関する情報が広く公開される必要があるからです。


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立花氏らが選挙ポスターに記したのは、「不倫騒動を許すな!」という文言でした。 「不倫騒動」は、一見すると私生活上の事実であって、政治家としての能力とはあまり関係ないように思えます。 古い判例では、公務員の資質や能力と全く無関係な事実については、真実性の証明の対象にならない(=処罰される)とされています(最判昭和28年(1953年)12月15日参照)。 ただ、私人の私生活上の行状であっても、その人が携わる社会的活動の性質や社会に及ぼす影響力の程度によっては、その社会的活動に対する批判や評価の一資料として公益性が認められる場合があるとする判例(最高裁昭和56年(1981年)4月16日判決・月刊ペン事件)もあります。 参議院議員選挙の候補者に関しては、不倫をするような人物であるのかという点で、国会議員としての適性を国民が判断する際の資料となり得るという意味で公共の利害に関する事実と見る余地もあると思われます。

立花氏は、自身のYouTube動画(10月9日配信)の中で、「(石垣議員が)不倫騒動を起こしていたことは事実ですし、それに対して何を名誉毀損なのかちょっとよくわかりませんが、警察の方にもちゃんと事情を説明してきました」と発言しています。 これは、「不倫した」と言っているわけではなく、「不倫『騒動』を起こしていた」と言っている、という主張と考えられます。 しかし、名誉毀損罪における真実性の証明の対象となるのは、風評の存在そのものではなく、その風評の内容である事実が真実かどうかです(最高裁昭和43年1月18日決定参照)。 なぜなら、「そのような噂がある」という事実を示した場合でも、一般の読者や聴衆はその噂の内容そのものが真実であると受け取ってしまうのが通常だからです。 この判例からすれば、「不倫騒動」という事実を示せば、一般には「不倫をしている」ことが真実であると受け取ってしまうのが通常であるといえ、「実際に不倫があった」という事実の真実性の証明が求められることになると考えられます。 なお、「実際に不倫をしたかどうかに関係なく、そもそも不倫騒動が報じられるような人物は国会議員としては不適切である」という趣旨である、などとして、真実性の立証対象が何であるのかを争う余地はあると思います。 真実性の立証責任は、名誉を毀損したとされる側(今回の場合は立花孝志党首ら)が負います。 もし示された事実が真実であると証明されれば、名誉毀損罪は成立しません。

弁護士ドットコムニュース
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