吹き矢で捕獲されるクマ見た男性「市内を横切ってきたと思うと怖い」…きょうから市街地で猟銃使用可能に

 クマの人的・物的被害が相次ぐ中、市街地での猟銃使用を可能とする改正鳥獣保護法が1日に施行される。市町村の判断で発砲を認める「緊急銃猟」の新設が柱で、自治体は体制整備を急ぐ。ただ発砲を委託するハンターの育成などの課題も山積する。(山岸憲伸)

 盛岡駅の北約650メートルの住宅街で4月、体長約1・5メートルのクマ1頭が出没した。寺の木に登り、麻酔入りの吹き矢で捕獲された。

麻酔の吹き矢で眠らされて木から落ちるクマ(4月、盛岡市で)=目撃した男性提供

 職場で様子を見ていた岩手県矢巾町の男性(49)は「まさかこんなところに出るとは。市内を横切ってきたと思うと怖い」と振り返る。市内では8月にも小学校付近や市中心部などで相次いでクマとみられる動物が目撃されている。

安全確保、自治体に「重責」

 これまでの鳥獣保護法では、警察官が命じた場合などを除き、市街地での発砲は原則禁止だった。環境省は7月、自治体向けに緊急銃猟の実施指針を公表。〈1〉人の日常生活圏に侵入するか侵入の恐れが大きい〈2〉緊急性がある〈3〉銃猟以外で捕獲が困難〈4〉人に危害が及ぶ恐れがない――などの条件を満たす必要があるとした。

 改正法の施行に向け、各自治体では体制の構築が進む。盛岡市は国の指針に基づきマニュアルを改定し、住民避難や通行規制など安全確保の措置を図る。市環境企画課の冨手真一課長は「安全確保を市が担うのは重責だ。安易に緊急銃猟に踏み込むことなく、クマを寄せ付けない対策にも力を入れたい」と話す。

 市町村に大きな負担がのしかかる中で、県は独自に「緊急銃猟対策チーム」を新設する。市町村に緊急銃猟の検討や手順の確認などについて助言し、今秋に模擬訓練を実施する方針だ。

対策考える「出発点」に

 緊急銃猟は、市町村から委託された猟友会員らが担う想定だ。跳弾や流れ弾が民家に当たる危険が伴い、ハンターには高い技量と正確な判断力が求められる。

 8月に連日のようにクマが出没している花巻市。市猟友会では、約140人の会員のうち街中で発砲できる技能を持つハンターは10人ほどで、いずれも70歳以上のベテランだ。

 若手の育成に向け、座学での銃の安全講習や射撃場訓練を実施しているが、クマ出没時に駆けつけられるのは、会社勤めをしていないベテランが多い。藤沼弘文会長(79)は「安全確保などの判断は、銃を長年扱っていないと難しい」と実践経験の重要性を語る。

 岩手大の山内貴義准教授(野生動物管理学)は「対応が難しい自治体もあるため、県主導で複数の市町村を集めた協議会を機能させることが望ましい。机上、実地訓練を重ねることも重要だ」と指摘。その上で「今回の法改正は各市町村がクマ対策を考える出発点となるだろう」と強調する。

出没7月に急増 1024件

 岩手県内ではクマの出没数が増加傾向にある。県によると、今年度は7月末現在で2586件に上り、前年度同期比で593件増。7月は1024件で昨年同月と比べて約2倍に急増した。クマの出没数は2023年度が最多で、1か月間で1000件を超えるのは、同年10月以来という。

岩手県内のクマによる人的被害と出没数

 今年度のクマの人身被害は8月3日時点で12件に上り、既に昨年度の被害件数を上回っている。7月には北上市で、在宅中の高齢女性がクマに襲われ死亡。奥州市でも自宅近くの畑で農作業をしていた高齢女性が襲われ、重傷を負った。

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