戦火を生き抜いた幻のゾウ DNAが明かす「ゴースト・エレファント」の驚くべき正体

 武力紛争が何十年も続いたアンゴラでは、ゾウはこの地から姿を消したと考えられてきた。だが今、「ゴースト・エレファント」と呼ばれる幻のゾウたちの調査により、彼らが人目を避けて生きてきた驚くべき事実が明らかになった。 ギャラリー:紛争で消えた幻のゾウ「ゴースト・エレファント」  アフリカの生態学者でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)である46歳のスティーブ・ボイズ2010年代半ばから、より広範な保全を視野にこの地域の調査を始めていた。2016年にはゾウを見つけようと、ボイズは、オートバイで再び訪れた。 「ゾウの匂いは感じ始めていたのですが、姿を見たり、声や音を聞いたりすることはありませんでした」とボイズは言った。  2019年、ボイズは再び挑戦した。ヘリコプターをチャーターし、オカバンゴ川、コンゴ川、ザンベジ川という三つの広大な水系の源であるミオンボ林の分水嶺や泥炭湿原などを探したが、やはり何も見つからなかった。  そんなとき、ルホケに出会った。41歳になるチョクウェ族のルホケは、元兵士で地元のハンターだ。 「2021年の時点で、狩りをしていた私は、友人の何人かがすでにボイズに協力していることを知っていました」と、ルホケは通訳を通して言った。「ゾウの痕跡を見つけた私は、『見当違いな場所を探していると思う』と、メッセージを送ったのです」

 ルホケは、東部の高地にある小さな町カンガンバ周辺のエリアに探索の範囲を絞ることを提案する。彼がプロジェクトに参加すると、状況は一変した。  数カ月後には、自動撮影カメラの数点の画像にゾウが一瞬写り込んでいたのだ。2024年9月には、ひどくぶれているものの、紛れもないゾウの動画を携帯電話で撮ることに成功する。  そしてついに、サッカーボールほどの新しい糞(ふん)を見つけた。ゴースト・エレファントは人目を避けて夜間に行動しているようだが、排せつはせざるをえない。  ボイズは、サンプルを入れる瓶の蓋を開け、まだ温かい糞の採取に取りかかった。DNAと糞のサンプルはスタンフォード大学に送られ、研究者たちのおかげで少なくとも一つの疑問が解決した。 「100%、サバンナゾウです」と、遺伝子検査プログラムを担当する生態学者のジョルダナ・マイヤー・モーガンが断定したのだ。「まさかこんな高地に生息している個体群がいるとは知りませんでした」  予備解析の段階で、「このゾウたちは、私たちが解析してきたほかのどの個体とも、遺伝的に異なっています」と、このプロジェクトでマイヤー・モーガンとともに働いている保全遺伝学者のケイティ・ソラリは述べた。「まるで、何世紀も孤立していたかのようです」  この発見から、ゴースト・エレファントたちは生息地を去ることなく、姿を隠すことで状況に適応し、アンゴラの戦争を生き延びたと考えられる。このゾウたちの位置と動きを地図にすれば、どの移動ルートを保護する必要があるかを決定するのに役立つだろう。 ※ナショナル ジオグラフィック日本版4月号特集「紛争で消えた幻のゾウ アンゴラの「ゴースト・エレファント」」より抜粋。

文 = グレイソン・シェイファー

ナショナル ジオグラフィック日本版

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