名門校でも定員割れ「寝屋川ショック」、授業料無償化先進都市の大阪で何が起きているのか
自民、公明両党と日本維新の会の3党が2月、「高校授業料の無償化」制度拡充で合意した。助成する世帯の所得制限をなくし、私立高に通う生徒への就学支援金を私立授業料の全国平均である45万7千円に引き上げる。全国に先駆けて今年度から段階的に無償化制度を導入した大阪府では「生徒の進路選択の幅が広がる」と歓迎の声がある一方で、公立離れに拍車がかかると懸念も広がっている。無償化先進都市の大阪で何が起きているのだろうか。
広がる波紋
12日に学力試験が実施された大阪府内の公立高校では、伝統校で倍率が相次いで1倍を下回る事態になった。少子化が進むなか、高校入試で定員割れを起こすこと自体は公立、私立を問わず、珍しいことではない。ただ、地域の進学校として根強い人気を誇ってきた寝屋川、八尾などでも1倍割れとなり、さながら〝寝屋川ショック〟ともいえる波紋が広がっている。
大阪府教委が7日夜に発表した一般選抜での各校の倍率では、寝屋川(0・94倍)、八尾(0・99倍)、鳳(0・94倍)-といった高校に注目が集まっていた。
吉村知事の肝煎り施策
大阪府では、吉村洋文知事の肝煎り施策として公立、私立を問わず無償化する高校授業料の完全無償化を目指していた。
国の制度に府の予算を上乗せする形で、授業料の支援を実施。公費負担の上限を63万円としたうえで、超過分を私学が負担する形をとることで授業料完全無償化を実現した。今年度から段階的に始め、令和8年度には全学年へと対象を広げる。
府の制度では他府県居住の生徒が府内の私学に通う場合、通常の授業料を払う必要があるため、これまでは地域差を不公平だとみる向きもあった。
政府による無償化策には好意的に受け止める声があり、中学3年の長男(15)が大阪府吹田市の私立中高一貫校に在籍する神戸市東灘区の女性(53)は「同じ教室で同じ学びを受けるのに授業料に差が出ることになれば、おかしいと感じていた」と話していた。
文理学科の人気は健在
ただ、全国に先んじて制度を始めた大阪府では私学人気に伴い、公立離れが加速しているという現実がある。
今春、府内中学を卒業見込みの生徒6万5344人(前年同期比1169人減)のうち、公立志願者の割合は56・17%と現行の入試制度が始まった平成28年度以降最低を更新。一般選抜を行う全日制高校128校のうち65校で定員割れの可能性があるという。
とはいえ、公立高校のすべてで人気が低迷しているわけではなく、北野、天王寺など、難関大への進学実績を誇る文理学科がある最難関校の人気は健在だ。
文理学科があるのは、北野(1・27倍)▽大手前(1・19倍)▽高津(1・29倍)▽天王寺(1・21倍)▽豊中(1・49倍)▽茨木(1・36倍)▽四條畷(1・44倍)▽生野(1・26倍)▽三国丘(1・31倍)▽岸和田(1・18倍)-の10校だ。旧学区制でのトップ校などに設置されていることから、大阪府内では、文理学科のある学校を指して「トップ校」と呼ぶこともあるという。
一方、倍率が1倍を割った寝屋川、八尾などは、文理学科の次を狙う受験生が目指す「2番手校」と呼ばれ、地域で高い人気を誇っている。
ある受験関係者は「私学無償化が実現したことで、文理学科を目指すかどうかのボーダー受験生が文理学科にチャレンジしやすくなったのかもしれない。文理学科がダメだったら私学もありだという受験生がいた結果、2番手校を目指す受験生が少なくなった可能性もあるかも」と話していた。
一方、ある府立高の校長は「近隣私学へ志願者が確実に流出している。目立った特色をアピールできない府立高は選ばれにくくなっている」と危機感を募らせる。
中学受験シフトも
さらに、大阪を中心に中学受験を検討する家庭も増えているようだ。私立中学は無償化されてはいないが、中高一貫校の場合、高校の3年間が無償化されれば、授業料は6年間のうち3年だけになるということが中学受験ブームの後押しになっているようだ。
中学受験大手塾の関係者によると、「本格的に影響が出るのは2、3年後だろう。ただ、中高6年を通し、教育環境を選びたいと考える保護者が増えてきた」と話していた。(木ノ下めぐみ)